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毒はむ姫と白い花  作者: 夕藤さわな
第三章
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第十三話

 一か月後――。


「白くて可愛い物と言ったのを忘れてしまったのでしょうか。ガラス製のカメレオンも、ライオンも、ヘビも良くできているけれど、可愛い物ではありません。次こそは可愛い物でお願いします」

 白地に黄色い花が描かれた便せんの文字を追いかけて、私は首を傾げた。私的には可愛いものを選んで、目印としてくくりつけたつもりなのだが。


 彼女が嫁いでから初めて届いた手紙には、王宮でのことは詳しくは書かれていなかった。下手なことは書かないよう、領主様に言われているのだろう。

 ただ、私が選んだ小物の文句はびっしりと書かれていた。


 手紙をもう一度、読み返し。もう一度、首を傾げて。私は頬を緩ませた。

 便せんに書かれた文字は子供っぽい丸文字で、スペルミスばかりだった。ただ、文字自体は乱れていないし、筆圧もしっかりとしていた。

 文字には書いた人の体調も、精神状態も現れる。今のところは、大丈夫そうだ。

 私は手紙を胸に抱きしめた。


 ***


 二枚目の手紙を書く頃には、私のセンスに見切りをつけたらしい。手紙にははっきりとウサギがいいとか、小鳥がいいとか。指定のモチーフが書かれるようになっていた。

 彼女が指定したモチーフがなくて、仕方なく私が選んで送ると、次の手紙にはびっしりと文句が書かれていた。

 どうやら私には可愛いものを選ぶセンスがないらしい。


 ***


 六枚目の彼女からの手紙が届いた、その日。私は領主邸へと向かった。

 手紙の内容はいつもと変わらなかった。王宮の食事は美味しいけど、太るのが心配だとか。私が選んだガラス製のカピバラはリアル過ぎて、やっぱり可愛くないとか。

 ただ、いつもよりも文字が乱れていた。線が細く、薄くて、弱い筆圧で書いたのだろうと察せられた。

 考えすぎかもしれない。

 それでも心配で。私は領主様に――エララの母親に話を聞きに行ったのだ。


 領主様はすぐに私を書斎に通してくれた。王宮や彼女のことを尋ねると、

「医学生時代の友人があの悪魔の専属医を務めている。つい先日、会ったんだがね。持って、あと一か月じゃないかと言っていた」

 そう言って、にたりと笑った。

「エララも不調等は訴えていないと聞いている。あの悪魔にしては珍しく気に入ったようで、今のところ命の危険もなさそうだ」

 エララの話をしたとき。何の表情も浮かばなかったのは、母の顔に戻ろうとして、思い出すことができなかったからだろう。領主様は母だった自分も、人だった自分も、もう忘れてしまったのだ。

「領主様。最近、悪夢を見ますか?」

 ふと、私は尋ねていた。私と同じように、毎夜、うなされているのではないか。そう思ったのだが、

「いや。最近は夢も見ないよ」

 領主様は無表情に答えた。ただ、ゆっくりと瞬きしたあと、

「そうか、マーガレット。お前は夢を見るのか」

 そう呟いて、考え込むようなようすを見せた。何を考えていたのか。

「あと一ヶ月もすれば、あの子が戻ってくる。あの子が戻ってきたら、あとのことは頼むよ」

 そう言って微笑んだ彼女は、久しぶりに母親の顔をしていた。


 ***

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