第十一話
ノックの直後に、勢いよく裏口のドアが開いた。
「いつもどおり持ってきたぞー!」
すぐ目の前の台所でお茶を飲んでいるというのに。耳をつんざくほどのリザの大声に、私は顔をしかめた。
「ありが……と……」
どさりと置かれた食料を見下ろして、私は早々に額を押さえた。今週から、一人きりの生活に戻ったことをすっかり忘れていたのだ。
「今回は特別に返品、きくけど?」
「ごめん、お願い。全部、半分でいい」
「はいよ」
意地の悪い笑みを浮かべるリザに、私はため息混じりで答えた。
「来週の注文は?」
「これ……の、半分で」
「はいはい、了解。一年なんて、あっという間かと思ったけど、ずいぶん二人暮らしが染みついたな。お前のところに行儀見習いに寄越すなんて、領主様も何を血迷ったのかと思ったけど。お前にとってはよかったのかもな」
リザの優しい笑みに、私はあいまいに微笑み返した。そういえば――。
「リザの店って雑貨も取り扱ってる?」
「物によるけど。何が必要?」
「可愛い感じのリボンとか、小物とか。片方は白色で、もう一つ、色違いで同じ物……」
「それはお断りだ」
食い気味に断られて、私は固まった。しばらく呆然として、
「はぁ?」
ケンカ越しの声で尋ねた。だが、リザは動じたようすもなく。澄ました顔でそっぽを向いた。
「あの子――エララと約束したんだよ。マーガレットが白い小物と色違いの同じ物を注文することがあったら断ってくれって。あの悪魔に嫁ぐ何日か前に、わざわざ店まで来て、頭下げてったんだ。約束はきっちり守らないとな」
私は額を押さえた。さすが領主の娘。抜かりない。
リザはぽんと私の肩を叩くと、
「諦めて街に下りてこいよ。んで、久々にうちの隣の店でカボチャのグラタンでも食ってけ。好きだっただろ、お前も、イオも」
そう言って、少しだけ寂し気に笑ったのだった。
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