5 前々々々々々世
「はい、おしまい!」
と大声で宣言し、正座を崩した。
「もう時間過ぎてるって! 姫子さんのターン終わり!」
六月三十日、一九時二分。
僕は火照る頬を片手で仰ぎながら、鳴り続けるタイマーに手を伸ばした。不穏な電子音を一刻も早く止めないといけない。
「あら、延長しても良かったのだけれど」
「そうやってさ、僕のことおもちゃにするのやめてよ」
「おもちゃだなんて人聞きの悪い。私の真意は伝えてあるでしょう? 恋人にしてもらいたくて、必死にアピールしている最中なのよ?」
「こっ……だ、だから、そもそもそういうのがさ」
質が悪いんだって。彼女は本当に質が悪い。
初めて彼女の名前を知った日だってそうだった。
あの柿の木の下でのことだ。急にしおらしく暴挙を謝罪してきた彼女が魅力的に見えて、不覚にも僕の心は揺らいだ。そしてその心の隙間を突かれるように、僕は彼女から愛の告白を受けたのだ。全て彼女の描いたシナリオ通りだとは全く気付かずに。
「これは至極真面目な話なのよ」
上手く押せないボタンに四苦八苦する僕の左手に、彼女の右手が忍び寄る。親指と人差し指の間に彼女の指先が差し込まれた後、タイマーの音が止んだ。
「君が信じないと言うのなら、何度だって私は真心を込めて告白をするわ。あの日、あの瞬間、君に感じた、この胸が張り裂けるような衝動は本物よ」
「張り裂けるって、そんな大げさな。僕は別に顔が整ってる訳じゃないし、取り立てていいところもないし……」
「世間の評価はどうでもいいの、私には関係ないわ」
「それって、褒めてるの?」
「もちろんよ。君でなくてはいけないの」
静寂に、冷蔵庫から微かに漏れるモーター音と、彼女の艶のある声が染み渡る。
「私は星屑のようにたくさんの人の中からでも、君だけを見つけられる」
「な、何かの歌詞みたいだね」
生まれ変わりを信じるかと、彼女は僕に質問した。
僕の前世は一体どんなものだっただろう。もし本当に、彼女が前世の僕と出会っていたら。それでもって現世の僕を何千何万の人の中から探し当てたのだとしたら。
ドラマチックな映画の登場人物になった自分を想像した。主人公は僕――いや彼女だろう。
急に口元が寂しく思えた。僕は煙草の感触を確かめるために、自由な右手でポケットの表面を撫でた。