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怪談「パジャマの少女」

作者: VLP

 

 このお話は病院の看護師長のAさんから聞いたお話です。


 その看護師長のAさんがまだ新人でとある病院に勤め始めた頃、初めての夜勤を任せられた時の事です。


 この病院は4階建ての古い病院で、その地域では大きな総合病院でした。


 初めての夜勤で緊張しながらもAさんは二階のナースステーションから丁寧に見回りをしていました。


 その日は特に緊急を要する出来事も無く、順当に2回目の見回りの時間になると空も少し明るくなろうかという時間になっていました。


「あら・・・もう空がこんなにも明るい季節になってきたのねぇ・・」そんな事を思いながら丁度2階の渡り廊下の窓から外を何気なく見ると、そこは丁度中庭で、そこに植わっている奇麗に咲く桜の木が見えました。


 丁度目線と同じ高さの桜の花を見て何となく心が落ち着く様なほっこりとした気持ちになっていると、目線の上の方で何か動く様なモノが見えました。


「?なにかしら?」


 気になって動くもに目を向けるとそこには・・・丁度向かい側、中庭を挟んだ向かいの4階付近の病室の外側にピンク色のパジャマを着た女の子が立って居るのが見えました。


「?!!」


 あまりの出来事に一瞬息を飲んだAさん。その時一瞬でよぎりました。


「この娘飛び降りる気だ!!」


 慌てて手にしたPHSをコールして仲間の看護師に知らせようとした・・・次の瞬間!


 それは、あたかも桜の花がひらひらを舞い落ちるかの如くスローモーションの様な動きで落ちていくピンクのパジャマの人影が見えました。


「あああ!!なんてこと!!」


 大慌てで一階へと駆け下りたAさんはコールして間もないPHSに返事も待たずに「中庭に人が飛び降りました!!!」っと言い放ちながら中庭に飛び込むと・・・・


 そこには奇麗に咲き誇る桜のほかには何もなく、いつもと変わらない静かな中庭があるだけでした・・・


「・・・え?あの娘は?!」


 なにが起きたかわからないAさん。ただ中庭に佇んでいると、他の看護師も走って駆けつけました・・・が、Aさんの様子を見るや否や  「ああ、もうそんな季節なのね・・・」っと呟き、そっとAさんの肩を叩き「大丈夫だから」っと一声かけて通常業務へ戻るようにと促しました。そして、夜勤明けに何が起きたのかを教えてくれました。



 それは数年前の出来事。当時小児癌を患い長い闘病生活をしていたB子ちゃんという娘がいました。その子は頑張り屋さんで辛い闘病生活にも笑顔で立ち向かい、苦しい辛いと弱音も吐かずにひたすら辛い闘病生活を送っていたそうです。


 そんなB子ちゃんの楽しみの一つが中庭の桜を鑑賞する事で、よく中庭のベンチに座り桜色のパジャマ姿で桜の花を眺めていたそうです。


 そんな笑顔のB子ちゃん、頑張りが実を結び癌も小さくなり、先生からも退院して自宅療法と通院に切り替えられるだろうと言われ、B子ちゃんよかったね!っと周囲も喜んでいました。


 退院の日取りも決まり、「退院しても中庭に桜を見に来てね?」っと笑顔で周りも祝福していた・・・数日後、B子ちゃんは突然体調を崩して退院する日が伸びてしまいました。


 残念だけど体調が戻れば退院だから!と周囲の励ましもありB子ちゃんも残念がりながらも納得した様子だったそうです。



 しかし、その日の明け方・・・巡回中の看護師によって中庭で頭から血を流して倒れているB子ちゃんが発見されました。即死でした。


 色々調べた結果、4階の小さな窓から外へ出ての飛び降り自殺と判明しました。


 その窓は少しだけ開く事の出来る仕様しなっていましたが、長い入院生活でその窓は大人は無理でも子供なら通れるくらい開く事を知っていたのだろうと言う話でした。


 そして、飛び降りた動機・・・それはB子ちゃんの小児癌は一旦は小さくなり無くなりかけていたのですが、すでに転移した状態になっていた事。そして、その事は本人には知らせずにもう一度精密検査とどう闘病していくか練り直そうとしていた事を長年の入院経験から本人は察してしまったのだろうという事になりました。


 なぜ察してしまった事が分かったのか。・・・それはB子ちゃんの病室に残された短いく・・震えた字で一言  「ごめんなさい・・・もうむりです」と記されたメモ書きの遺書が残されていたからでした。


 その後、病院スタッフはもちろん。長い入院生活で知り合った全員が涙を流し「がんばったね・・えらかったね・・・もういいよ・・・がんばらなくていいよ・・」と泣きながら中庭の桜の木に献花したそうです。



 そして、その出来事の後。毎年桜の咲く季節になるとピンクのパジャマを着た娘が中庭で目撃されたり、朝方中庭から何か重い物が落ちる音を聞いたり、ピンク色の人影が4階から落ちていく・・・そんな報告が後を絶たなくなったそうです。








 そして、数十年後。その病院は老朽化を理由に取り壊され、跡地に新たに新棟が立てられ奇麗で近代的な総合病院に生まれ変わったそうです。  が、未だにピンクのパジャマの人影が落ちていくと言った報告が桜の咲く季節にされるそうです。そして、その病院を辞め、今は別の病院でベテランの看護部長になったAさんがその病院の噂を聞きぼそっと一言



「あの娘は今もあそこにいるのね・・・・一体何度飛び降りるのかしら・・」



 この一言を聞いた時・・・何とも言えずゾッとしてしまいました。



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