第三十七話 相次ぐ訪問者
海上自衛隊との演習から一月半程たった12月下旬の始め、『キティホーク』の姿は横須賀基地にあった。
『キティホーク』は8号バースに接岸し、艦載機が並んでいた飛行甲板にはプレハブが立ち並んでいる。
すでに今年の前方展開予定は全て終えており、『キティホーク』本体は各所の整備を行いつつ年が明けるのを待つだけであった。
そんな『キティホーク』の飛行甲板の上でキティは周囲を見渡していた。
見える限りの基地内の桟橋には何隻もの艦船が停泊している。
実は数日前にヴィンセンスが入港して以降、横須賀を実質母港としているアメリカ海軍の艦船が全て碇泊していたのである。
そのため、普段よりも基地内の人口密度は高く、艦魂達も賑やかに過ごしていた。
「そろそろだと思うんだけど……」
一通り周囲を見たキティはそう言って自身の腕時計を見る。
キティはここである艦魂を待っていた。
すると、キティから少し離れた場所で誰かが転移してくる気配がした。
そちらに視線を向けると淡い光の中から、1人の艦魂が姿を現す。
「お待たせキティ」
「来てくれてありがとう、インディ姉さん」
無理をしてきてもらった義姉にキティは礼を言うが、当の本人はくすぐったそうに首を振った。
「気にするなって」
そういってインディは笑顔を見せる。
そして、インディは一冊の冊子を取り出した。
「これが曲目だ。ちなみに内容はアミーの案をベースにフォル姉さん、レン姉さん、私の三人で考えたからな」
インディンの話を聞いてキティは冊子を受け取り、内容を確認する。
そこには数曲分の楽譜が書かれており、どの曲もサラが気に入っているものばかりであった。
そう、インディが持ってきたのは以前、コニーと話していたサラの演奏会の曲目であった。
本来はキティ4姉妹とエンターが作る予定だったのだがなにぶん普段が忙しく、姉妹の日でもうまくまとめられなかったので当初はアミーに任せていた。
しかし、アミーはこの手の仕事は苦手で思うようにいかず、最終手段としてサラにばれないようにフォル達に協力を要請したのである。
そしてこの冊子が完成したわけであるが、確認していくうちにキティはあることに気付いた。
「姉さん……アミーが考えていたのってもしかして最初の2曲だけじゃない?」
「……」
キティの問いにインディは無言のまま視線をそらすが、キティはそのまま一言。
「目が泳いでるわよ、姉さん」
キティの言葉にインディはガックリとうなだれ負けを認めた。
キティの言うとおり、この曲目のうちアミーが考えていたのは最初の二曲だけで他はフォルが中心となってまとめたのであった。
「……よくわかったな」
「アミーが話し合いで上げていた曲で残っているのがこの2曲だけだったから……」
そういってキティは冊子を閉じた。
できるだけフォル達には負担をかけないようにとコニーと一緒に注意していたのだが……今度、話す機会があればその当たりは叱っておいたほうがいいだろう。
するとキティの表情から何かをインディは読み取ったらしく、あわててフォローに入った。
「まて、このことはアミーには内緒にしておいてくれ、あいつも曲順とか他にもそれなりにやっていたんだ」
インディの言う通り、アミー自身も他の曲が出ないことを悩んでいた。
そのため、フォル達が出した曲の中から曲順も考え、アミーなりにフォル達の負担を軽減させようとしていたのである。
その話には流石にキティも仕方がないと思い今回の件は黙認することにした。
しかし……
「いいけど……ケティにはだれが届けるの?」
「?」
おそらく、このことはキティ以外のほかの姉妹も気づくだろう。
コニーの場合、それとなく事情を理解するだろうし、キティが注意しなかったと知ればそれをとやかく言うことはない。
エンターは姉妹全員、特に妹分のアミーとケティに甘いのでおそらく何も言わない。
しかし、ケティの場合はキティとコニー以外には普通に食って掛かるだろうし、たとえその場で抑えたとしても代わりにエンターにあたるだろう。
そんなことをキティが話すとインディは思い出すように頭を傾ける。
「えっと、確かフォル姉さんだったはずだな」
「……さすがフォル姉さん。わかっているわね」
おそらくケティを黙らせられるのはキティとコニー以外ではフォルだけだろう……
ちなみにレンもできないことはないがそれは別方面で黙らせるので除外。
「で、練習はどうするんだ?」
「まずは一人で練習するしかないわね……時間もないし」
「じゃあ、それまでここにいていいか?」
「え!?」
「正直、暇なんだよ……レンはいるけど」
退役組のフォル、サラ、アミーは東海岸で、いくら転移できるとはいえ少々つらい。
かといってレンとずっといるのもさすがにこの一年で飽きてしまった。
なので、現役時代の馴染みもあり、なおかつしばらく出港予定のないキティに居候しようというわけだ。
しかし、キティもすぐに許可を出せるわけがなかった。
「まって、まずは元帥に……」
「許可なら、ホイ」
そういって見せたのは退役艦魂の長距離長期離艦許可証できちんとコンスティチューションのサインまで入っている。
「現役への指導はレン姉さんに頼んだし、フォル姉さんからも音楽指導の名目で許可をもらっている。あとはお前とブルーの許可だな」
とはいっても、規定通りコンスティチューションの許可と元帥格の一人であるフォルの許可が下りており練習を見てくれるのであれば、キティにインディを拒否する理由は何もない。
ブルーは多少なりとも渋るだろうが、前任だったこととその他昔話を盾に許可を取るだろう。
それらを考えるとキティはあきらめてうなずいた。
「部屋は私と一緒でいい?」
「間借りするんだから文句は言わないよ。じゃ、ブルーのところに行って最後の許可を取ってくるか」
そういって、インディは転移の態勢に入る。
キティ自身もインディを受け入れることに問題ないことを伝えるために転移しようとしたが、誰かがここに来たことを感じ転移を中断した。
その様子にインディもあわてて中断し、キティと周囲を見渡す。
すると、二人から少し離れた場所にカーティスの姿が現れた。
どうやら、一度キティの部屋を訪ねがいなかったので飛行甲板に出てきたらしい。
「カーティスどうしたの?」
いまだに気付いていないカーティスに声をかけると、カーティスは少し急いだ様子で振り返った。
「司令……!?」
「よっ!」
急いでいたせいもあるのだろうが、カーティスは現上官の後ろに元上官がいたことに驚いた表情を見せる。
しかし、当のインディは気にした様子もなく軽く手を上げいつものように接する。
しばらく驚きで呆然としていたカーティスであったが、すぐに姿勢をただしインディに対して敬礼する。
「失礼しました。インディペンデンス元帥」
いつもの様に敬礼するカーティスに対し、インディもまたいつものように気にするなと首を振る。
二人のやり取りが一通り終わったのを確認するとキティはカーティスに声を掛けた。
「カーティスどうしたの?」
「えっと、その……実はジャックさんからお話があるそうで……申し訳ありませんが来てもらってよろしいでしょうか?」
キティの問いにカーティスはどこか歯切れ悪く答える。
まるであまりこの事は話したくない様に……
キティは少し思案し、隣のインディに視線を向ける。
視線を向けられたインディは直ぐに納得いった様子で頷いた。
「ん?別にかまわないぞ」
その返答にキティは少し安堵すると、カーティスに声を掛ける。
「カーティス、貴方には悪いけどインディ姉さんについて行ってあげて」
「どういうことですか?」
意外なキティの言葉に驚くカーティスに二人は今までの事情を話す。
すると、カーティスは直ぐにうなずいた。
「分かりました。インディ元司令の滞在については司令の許可を得ているムネを伝えておきます」
カーティスが相手ならキティの言伝と言ってもブルーは信用するはずである。
流石にヴィスだったら信じられないだろうが……
ふとそんなことが頭の片隅をかすめ、キティは知らずに表情を緩めた。
「ありがとう。で、ジャックは今どこに?」
「ジャックさんは今、私の部屋にいますので直接そこへ行ってください」
カーティスはそう言うと更にキティの耳元で囁いた。
「ジャックさんともう一人いますので……」
「もう1人?」
キティが「誰?」と聞こうとしたが、カーティスの表情からそれを聞くのは止めた。
カーティスがここまで拒むのは珍しいといえる。
おそらく、ジャックと共にいる人物はカーティス本人よりキティ自身にとって嫌な相手なのだろう。
その相手をキティが考えようとした瞬間、1つの人物が思い浮かんだ。
それと同時に緩んでいたキティの表情が険しいものになった。
なるほど、カーティスが名前を出したくないわけである。
キティは大きくため息をつくと、カーティスにインディをブルーの元に連れて行くように促す。
「……姉さんをお願い」
「はい、私も出来るだけ早くそちらに向かいます」
キティが相手がだれかを悟ったことに気づいたカーティスはそう言うと、インディと共にブルーの元へと転移していった。
一方、残ったキティは険しい表情でカーティスの本体である『カーティス・ウィルバー』に視線を向ける。
「約一年ぶりね……」
キティは呟くようにそう言うと険しかった表情を緩め、静かに転移していった。
更新にほぼ丸一年かかってしまい申し訳ありません(土下座)
当初の予定では八卦更新後、大体5月下旬~6月上旬の更新を目指していたのですが気がつけばこんなことに……本当に申し訳ございません。
さすがにこの状況で魂テレをやるわけにはいかないので今回は自粛させていただきます。
次回更新を出来るだけ早くできるよう努力します。