第二十九話 米豪合同演習タンデムスラスト’99(後編)
パーシー達の艦隊から距離約30万の位置に一機の艦載機が飛んでいた。
その姿は機首が丸くずんぐりとしていており高速での戦闘は無理だと思われた。
電子戦機EA-6B『プラウラー』
元は艦載攻撃機A-6『イントルーダー』を電子戦専用機に改造したもので主に敵の防空網への攻撃を主任務とし4人乗りのコックピットには自身が発する電磁波から守るため金メッキが施され翼下には電子戦で使用する電子ポッドが2つ装備されそれらには自己発電用のプロペラがついておりそれぞれから各周波数に合わせたジャミングが出されパーシーらの目を失わせていた。
そして目の不自由な彼女たちに止めを刺すために4機のホーネットが銛を構え襲いかかった。
その頃ヴィンセンスでは電子戦防御の褐闘が行われていた。
電子戦は時間との勝負である。
時間がたてばECCM(対電子妨害手段)などの対策を取られてしまうし、しかもプラウラーのように強力なジャミングを出す場合効果も大きいがその分相手に己の位置を特定されてしまう。
ヴィスは霞掛かりでよく見えない目を凝らしながら空を見続けた。
「あと少し……!?」
その時、ほんの一瞬だけ飛翔する何かが見えた。
「まさか……」
そう呟くと徐々に霞が晴れてゆく。
対策がとれたであろうその目に映ったのは艦隊との距離2万まで迫った4機のホーネットから一斉に放たれた8発のハープーンだった。
パーシーらへの攻撃が行われ始めた頃、キティは自分の脇にある海図を見ていた。
その海図にはパーシー達の艦隊を現す駒とこちらの電子戦機と攻撃隊を示す駒が乗っていた。
大まかな位置として艦隊の前面を覆うように4機のF/A-18Cが、そのほぼ中央にEA-6Bが配されて第二波の目標はパースとヴィンセンスであった。
「これがうまくいけば……」
その時、甲高いエンジン音と共に1機のF/A-18Cが降りてきた。
その機体は第1波において撃墜が判断された2機のうちの1機で増槽をつけたまま無事着艦するとすぐに艦首側の駐機場へと移動する。
その様子を追いながらキティは飛行甲板で待機する対地攻撃用の兵装が施されたF/A-18Cへと目を移した。
「あとは地上攻撃部隊を飛ばすだけね」
そう言うとキティは再び机へと向きなおった。
「迎撃開始!」
パーシーが号令をかけるがそれは遅すぎた。
8発のハープーンは4発がパース、残りがヴィンセンスへと向かっていた。
パーシーは迫りくる4発のハープーンを撃ち落とそうにもすでに艦隊防空ラインを超えており個別による迎撃しかできなくなっていたのだ。
パーシーの本体であるパースの兵装をフル活用しても3発が限界といえる中パーシーの目は決してあきらめていなかった。
「まだだ、まだ結果は出ていない!」
そう言いながらパーシーはサーベルを振った。
同じころヴィスもまた迎撃を行うべく槍を操っていた。
「落ちやがれ!」
ヴィスがそう叫んだ瞬間レーダー上のミサイルが消失した。
しかしヴィスは休むことなく槍を操るその姿はまさに一種の舞とも思え見開いた眼はすべてのミサイルを探知していた。
だが……
「(くっ!さすがにもう限界か……)」
そう思いながらも槍を操るヴィスの目に映るのは撃ち漏らし距離2000まで接近したいくつものハープーン。
チャフが舞う中、前部の主砲が咆哮し最後の砦であるCIWSが唸りを上げる。
あるものはレーダーから消え、またあるものはチャフによってあらぬ方向へと飛んで行くがいまだにヴィスへと迫りくるハープーンが2発。
「このっ……」
槍を頭上で構え歯を食いしめたヴィスが槍をたたき落とす!
「チェストオオオオオオ!」
ヴィスが力を込めた会心一撃は……むなしく空を切った。
「……ちっ」
その瞬間、ヴィスはハープーン2発により撃沈と判定された。
ヴィスがやられたころパーシーにも残ったハープーンが飛来した。
「あと2発」
パースは主砲での迎撃としては奇跡ともいえる迎撃を行い2発のハープーンを仕留めていた。
「まだいける!」
そう叫んだパーシーは残り2発のハープーンを落とそうとサーベルを振り主砲が咆哮する。
1.5秒間隔でうなりを上げる主砲、ところがその主砲が急に動作をやめた。
「なっ!」
そのことに驚愕するパーシー。
ミサイルが迫っているというのに撃ち方をやめるはずがないパーシーがそう考えた時、自分の腕が痺れているのに気付いた。
「この痺れ……くそっ!こんな時に!」
パーシーはこの痺れの正体が何なのか知っており艦橋から沈黙している自分の主砲を見下ろした。
パーシーの本体であるパースに搭載されている主砲Mk.42 5インチ砲は二つの給弾機を交互に動かすことによって毎分約40発という速射性能を実現させていた。
しかし、この機構は複雑すぎまた動作不良の原因となったのだ。
そしてよりによってその動作不良がここで起きてしまったのである。
パースは舵を切り後部の主砲での迎撃を試みるがその時間はもう時間はなかった。
「これが結果……か」
パーシーがそう呟くとパースに2発の被弾が判定された。
その後、キティホークの艦載機の支援のもと上陸作戦は行われ作戦は成功。
演習を終えたキティホークは随伴のカーティスウィルバーとチャンセラーズヴィルと共にグアムのアプラ港へと入港しいつの間にか深夜になっていた。
静かになったキティの自室ではキティが一人今回の演習の報告書を時折、眠そうな目をこすったり、背を伸ばしながら黙々と書いていた。
「……攻撃隊発かt……あっ!」
報告書の間違いに気づきキティはため息をついた。
ここ最近、演習やその他の仕事などでろくに寝ておらず先ほどまで今回の演習に参加した艦艇の艦魂がすべて集まり会議をしていたこともあってか少し集中力が鈍っているようですでに5回間違えていた。
「仕方ないわね」
キティは気分転換で少し夜風に当たろうと席を立った時ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
こんな時間に誰だろうと思いつつキティがいつものように答えるとそこにはパーシーがいた。
「珍しいわねパーシー。あなた、演習があった夜はすぐに寝るのに」
驚きつつもキティはパーシーに席を勧めるがパーシーは首を振った。
「今日の演習お見事でした」
「そんなことないわよ。むしろ貴方だってあの状況下でよく奮戦したじゃない」
キティはそう言いながらお茶の支度を始めた。
「いや、奮戦したとはいえ結果は結果だ……」
パーシーの言葉にキティは笑いをこらえながら聞いてた。
「相変わらず結果が第一なのね。でも次のCRAT演習はわからないじゃない」
「………」
「パーシー?」
反応の無いことを不信に思いキティは振り返った。
「実は今回で私の演習は最後なんだ」
「え……」
「最後」パーシーの言ったその言葉にキティは驚きの表情を隠さなかった。
その様子にパーシー気付いたパーシーは意を決して口を開いた。
「機会をずっと逃して言えなかったんだか……私は今年の11月に退役する」
その時、先日クァンとチュンブクについて話していた時のパーシーの様子が変わった理由がわかった気がした。
おそらく退役する自分と重ねていたのだろう。
そして待っていることも……
「……それは結果なの?」
キティは落ち込みながらも気丈にふるまおうとパーシーがいつも言っているように聞いた。
パーシーはその言葉に目を伏せフッと口を緩ませた。
「結果……ではないな。だがそれはもう既に決まっていることだ」
その言葉にキティはうつむきパーシーもまた黙ってしまった。
しばらく沈黙が訪れたがポツリとキティがつぶやいた。
「……でもまた会えるでしょ?」
パーシーは静かに「ああ」と返した。
「そう。よかった」
キティはほっと胸をなでおろしお茶の準備を再開した。
パーシーもその様子を見てほっとしたのか席に腰をおろしてキティが入れるお茶を待った。
少々空気は重かったものの二人は今回の演習や会っていなかった頃の話などをして時を過ごした。
それからどのくらい経っただろうかいきなりキティの机の上にある通信機が鳴った。
こんな時間に通信が入るとはいったい何事かとキティは思いつつ通信機を取ると久しぶに聞く声がそこにあった。
『キティ司令お久ぶりです』
「ええ。こんな時間にどうしたのブルー?」
キティの問いに通信の相手ブルーは率直に答えた。
『正式な命令は後ほどなのですが……今後の予定を変更して直ちにペルシャ湾へ向かうようにとのことです』
ブルーの話の内容にキティは出港前に話していたことを思い出しやはりと思いながらも答えた。
「例の件ね……わかったわ」
『随伴するのはカーティスとヴィルだとのことです』
「ありがとう」
キティはそこで通信を切るとパーシーへと向きなおった。
「パーシー悪いけど今日はここまででいいかしら?」
「任務か……」
そう言ってパーシーは立ち上がりドアへと歩いていった。
「がんばれよキティ」
「あなたも頑張ってね」
パーシーはヒラヒラと手を振り部屋を出ていった。
2日後、大統領の命令によりユーゴスラビアへの空爆支援へと向かったオセドアニア・ルーズベルトとイラクの飛行禁止区域監視のためペルシャ湾で交代するはずだったエンタープライと交代するためキティホークと随伴艦のカーティスウィルバーとチャンセラーズヴィルの計三隻がグアムのアプラ港を出港し一路、ペルシャ湾を目指した。
第十六回 アメリカ合衆国海軍特別広報放送局〜略して魂テレ
キティ「演習では結局見ているだけだったキティホークです」
カーティス「演習で何もできなかったカーティスウィルバーです」
パーシー「主砲の動作不良でやられたパースだ」
カーティス「頑張ったのに残念でしたね」
パーシー「結果であることには変わりはないさ……それより前回の続きしなくていいのか?」
キティ「それもそうね、では前回に引き続き第五空母航空団の紹介です」
カーティス「今回は支援部隊を紹介します」
第5空母航空団第5飛行隊:VAQ-136“ガントレッツ”
EA-6B『プラウラー』を運用し電子戦支援や敵防空網制圧ミッションなどを行う。
1980年から同航空団、初の電子戦部隊としてに配備されておりその存在は剣(攻撃隊)を操る手を直ぐ側で守る籠手である。
第5空母航空団第6飛行隊:VAW-115“リバティベルズ”
E-2C『ホークアイ』を運用し艦隊の索敵・警戒・航空管制を行う。
1970年から配備されており同航空団では最も古参な部隊であり敵を確認次第同部隊が自由の鐘を鳴らしその存在を伝える。
第5空母航空団第7飛行隊:HS-14“チャーチャーズ”
SH-60F『シーホーク』とHH60-H『レスキューホーク』を運用し対潜、救難、輸送などの任務を行う。
配備されたのは1994年であるが自艦に対潜能力を持たないキティホークにとっては非常に大きな存在である。
第五空母航空団第8飛行隊:VS-21“ファイティングレッドテイルズ”
S-3B『バイキング』を運用し対潜作戦や艦載機への空中給油を行う。
1991年に配備された部隊だが同じように対潜作戦を行うヘリ部隊にその役割を取られ最近はもっぱら空中給油母機として活躍している。
第5空母航空団第9飛行隊:VRC-30“プロバイダーズ”Det,5
C-2A『グレイハウンド』を運用し人員や物資の輸送を主任務とするが時折報道の取材陣を運ぶこともある。
なお同空母航空団に配備されているのはされているのは同部隊の第5分隊のみである。
キティ「以上で第5空母航空団の部隊紹介は終わりです」
カーティス「機数こそ少ないですが多目的な任務をこなすには重要な部隊ですね」
パーシー「今の時代、空母も攻撃するだけがすべてではないということだな」
キティ「そう言うことですね」
作者「紹介お疲れさん」
キティ「作者さん!途中からどうしたんですか?」
作者「前回、話があるって言っていたから来たんだけど」
カーティス「言っていましたね」
パーシー「で、話とは?」
作者「実は一時的に休載……」
キティ「何でですか!?」
作者「個人的な話なんだけどこの話を書く上で最も重要なところが最近、自分が書くには荷が重いような気、というより迷いが生じてきて今後の執筆が難しくなってきて……そこで夏季休業を利用して本当にこのまま書き続けていいのかを考えようと思っています」
カーティス「場合によってはこの作品を消すのですか?」
作者「それはない」
パーシー「なぜそう言いきれる」
作者「どんなに下手で出来の悪い作品でも少なくとも書きはじめた以上、書ききるのが礼儀だと思うし何より自分が書きたいと思っていた部分をほとんど書いていないから。だからたとえ根本部分が変わってもこの作品はそれに合わせて書いていくつもり」
キティ「そうですか……でもなぜ今回言う必要があったのですか?後で行ってもいい気がするのですが?」
作者「一応、話が一区切り付いたことと素直にまとまれば今までどおりに更新するかもしれないけれどもし遅れた場合のことを考えると早めに連絡しておいた方がいいかと思って」
キティ「わかりました」
作者「読者の皆様には申し訳ありませんが次回の更新はいつになるか分かりません。しかし、この作品はきちんと描き切るつもりなのでお待ちください。感想・評価もお待ちしているので今後もよろしくお願いします」