第二十三話 キティの決意
今回から99年に入ります。
1999年1月
キティがサラが実験艦として処分されるという知らせを聞いてから約一カ月がたった頃キティは年が明けてからの初めての訓練を大津島沖の訓練海域で行い横須賀の帰路へ着いていた。
「まだなのヴィル?」
若干ため息混じりのキティの言葉に軍服を程よく着崩したヴィルが鬱陶しそうに答えた。
「あとでちゃんと出すからほっといてくれ」
そう言うとヴィルはどこかに歩いていこうとした。
「待ちなさい、ヴィル。そんなこと言いながら今回の演習の報告書一度も出してないでしょ。いい加減にしなさい!」
今回のキティの訓練に参加したのはヴィルだけでいつもキティについているカーティスや服装や礼儀にうるさいカウスがいないことをいいことにヴィルは思いっきり羽を伸ばしておりその日その日の報告書の提出を怠っていた。
ヴィルはいらいらし始めたのか頭をかきだした。
「たっく、あんたみたいなのと今年の上半期ほとんどを付き合うってか?」
「そう言うことになるわね。言っとくけど次はカーティスも来るのよ」
キティの捕捉にヴィルは顔をゆがめると再び頭をかいた。
今年一年のキティの予定では三月に横須賀を出港し東南アジアでの演習『タンデムスラスト』を行いその後オーストラリアに向かいそこでも演習を行うことになっておりその後は去年とほぼ同じ予定になっている。
そして更にキティは追い打ちをかけた。
「あなたもアメリカ海軍の一員なのだから決められたことはきちんとやりなさい」
「はいはい。サッサと書きゃいいんだろ、し・れ・い・ど・の」
キティ追い詰めについに言葉は悪いもののヴィルは折れた。
「『はい』は一回ね。ちゃんと書きなさいよ」
キティの何気ない注意にヴィルは苦虫を噛んだような顔をした。
「ったく……そんなこと言っている暇があるなら姉に最後の挨拶ぐらい行けよ」
ヴィルの一言でキティの表情が一気にこわばった。
それを見てヴィルはしまったと思った。
「す、すまん軽率だった」
「…………」
ヴィルにしてはそれなりの謝罪の言葉だったがキティは反応しなかった。
しばらくの間二人は口を閉ざし聞こえるのは波と風の音だけだ。
「ヴィル……下がってくれない?ひとりにしてほしいの」
キティの一言にヴィルは深々と礼をするとそのまま転移した。
ヴィルが転移したことを確認すると東の方を見た。
「……サラ姉さん」
冬の海風が吹く中キティはそう呟いたその方角に居る義姉のことを思いながら……
約一か月前
「そんな……サラ姉さんが……」
キティはその知らせの書いている紙を落とししばらく呆然と立っていたが突然何かを思い出したかのように自分の部屋へと向かった。
その時傍らにはジャックとカーティスがいたが二人ともただ静かにキティを見ていた。
キティは部屋に入るとすぐにサラと通信すべく回線をつないだ。
サラはすでに退役しているため通信の制限を受けないまたキティ自身も現在は停泊中なのでとがめられることはない。
キティは回線がつながるのをイライラしながら待った。
そしてやっとつながるとキティは驚いた。何とそこにはサラと一緒にフォルがいた。
確かに二人は現在係留されているところが近いのでよく会ってのを知ってはいるがまさか一緒に居るとは思っていなかった。
キティが驚いていると突然フォルが頭を下げた。
「ごめんなさいキティ」
そしてフォルに続きサラも頭を下げる。
「な、なんで姉さんたちが謝るの!?姉さんたちは悪くないでしょ!!」
突然のことに驚きを隠せないキティに声をかけたのはサラだった。
「実はねキティ……処分の話はこの前あなたのところに行く前に決まっていたの……」
そう語るサラの声にはいつもの元気がなかった。
「どうして……どうして黙っていたの!」
キティは思わず声を荒げた。もし知っていれば来た時にキティはもっとサラのことに気をかけただろう。
しかし、サラは首を振った。この話をするのがつらいのだろうがそれでもサラはうつむきながら話を続けた。
「この話はあなたが落ち着くまで話したくなかったの……」
うつむくサラの頬を涙が流れた。
キティはそれを見て黙るしかなかった。
おそらくサラもフォルと同じようにキティがファースト・ネービージャックの重圧に負けているのを予想していたのだろう。
だからこの話をあえて持ち出さなかったのだ。
この先アメリカの艦魂を率いるだろう妹のために……
「ごめんなさい……黙っていて……」
サラがそう言い終えると二人は沈黙した。
キティは何も言うことができずサラを見つめサラはうつむいたままだ。
いつまでも続きそうな沈黙の時間が流れた。
「(二人とも少し落ち着かせた方がいいわね)」
その様子を傍らで見ていたフォルがその沈黙を破ろうと口を開こうとしたとき突然キティが口を開いた。
「サラ姉さん……ありがとう」
そのキティの突然の言葉にフォルとサラは驚いた。
キティは目に涙を浮かべながら笑顔で話し続けた。
「私こそごめんねサラ姉さんやフォル姉さんに気を使わせてしまって……」
「キティ……」
「…………」
涙を流しながら笑顔で話すキティに今度はフォルとサラが黙ってしまった。
それでもキティは話し続けた。今までキティ自身がサラにどれだけ助けられたのかを……そして最後にキティはある質問をした。
「また今度……来てくれる?」
キティは静かにサラに聞いた。
サラは再びうつむくと肩を震わせながら声を絞った。
「……ええ」
サラはそう言うと顔をあげキティに負けないくらいの笑顔で続けた。
「約束するよ……必ず!今年の冬に会いに行くから!」
「うん!約束ね!」
サラとキティはたがいに涙を流しながらも笑顔で約束した。
「今年の冬に必ず会う」と……
キティがそのことを思い出している間に陸地が見えてきた。
どうやらかなりの間考え込んでいたらしい。
「いつまでもこんな気持ちじゃダメなのに……」
今度アラビア海に行く理由はエンターの支援をするためだこんな気持ちのまま行くわけにはいかない。
キティは何かをかき消すかのように首を大きく振ると艦橋を見上げた。
そこには他の艦にはない、いや掲げることの許されない海軍旗がたなびいていた。
「私の出来ることに誇りを持てばいいのよね、フォル姉さん」
姉が言っていたことをキティは口にした。
自分に出来ることそれはサラがいなくなることを嘆くだけだろうか?
いや違う、今自分に出来る最良のことはそんなことではない。
では何をすればいいのだろうか?
自問自答を繰り返すキティ。そしてキティはある答えを導いた。
「サラ姉さんを笑顔で見送ること」
艦魂である自分には姉を助けることはできない。
だが少しでもサラの気持ちを軽くすることができるのならばそれをすればいい。それがきっとサラとの思い出になるのだから。
今の自分に出来る精一杯のことを……
「サラ姉さん。会うの楽しみにしてるね」
そう言ったキティの顔は笑っていた。しかし、心は重いままだ。
「それでいいんだよねフォル姉さん」
そう言うキティの頬を涙が落ちる。
自分が出来ることは分かっている、なのに何故涙を流すのだろうか?
まるでもうサラとは会えないような気がした。そんなことはない、いくら決まったからとはいえ1年もしないうちに処分されるわけではない。
なのになぜこんなにもさみしいのだろうか?
「やっぱり怖いんだ……サラ姉さんがいなくなることが……」
キティは何となくだが特別な人を失う怖さを知っていた、それは空母タイコンデロガが解体されティコがいなくなった時に初めてその感情に気付いた。
ティコにはベトナム戦争時に世話になりそれ以来フォルたち以外の艦魂では特別な存在だった。
彼女は1973年に軍から除籍されその後解体された。
その時もキティをはじめ多くの艦魂が悲しんだが今回ほどは動揺しなかった。
「やっぱり近しい人だと違うんだね……」
そっと涙を流すキティだがすぐに涙を拭いた。
「いつまでも泣いてるわけにはいかない、少なくともサラ姉さんがいなくなるまでは……」
キティは表情を引き締めそれだけ言うとヴィルのところに向かうため転移した。
転移する瞬間、引き締められたその顔は先ほどヴィルと会った時と同じ顔だったがどこかさびしさを漂わせていた。
その後キティがヴィルの部屋の前に着くとドアが少し開いていた。
キティがのぞくとヴィルがお世辞にも片付いているとは言い難いい机で必死に報告書をまとめたいた。
それを見たキティはふっと口元を緩めると自艦へと戻ることにした。
「横須賀に着いたらすぐに来るわよ」
キティは静かに呟くとそのまま自艦へと戻っていった。
第十一回 アメリカ合衆国海軍特別広報放送局〜略して魂テレ
キティ「前回は失礼しました。魂テレ司会のキティホークです」
カーティス(?)「同じく司会のカーティスウィルバーです」
キティ「……何しているんですか作者さん」
作者「カーティスに代行を頼まれて……」
キティ「ではカーティスは?」
作者「たぶんカウスと一緒にヴィルに説教をしているかと……」
キティ「……大丈夫なんですか?」
作者「多分」
キティ「不安ですね」
作者「まぁカーティスとカウスなら大丈夫でしょ」
キティ「それもそうですね。そう言えば何かお知らせがあるとのことですが?」
作者「実は……今月に入ってユニークアクセス数が5000人を突破しました」
キティ「本当ですか!」
作者「はい!今まで読んでいただいた読者の皆様に感謝いたします」
キティ「そうですね」
作者「これからも『キティホーク・極東の<The First Navy Jack>』をよろしくお願いします」
キティ「感想・評価もお待ちしております。では今回はこの辺で失礼します」