第十三話 もう一人の同志
誠に勝手ですが『みょうこう』についてはまた次回ということになりました。
申し訳ございません。
『はるな』は位牌を見つめながら当時の事件を思い出していた。
第十雄洋丸事件
1972年11月9日東京湾で起きた海難事故。
ことの発端は日本船籍のLPG・石油タンカー『第十雄洋丸』とリベリア船籍の貨物船『パシフィック・アレス』が衝突したことにはじまる。
当時日本最大のLPG・石油混載タンカーだった『第十雄洋丸』はペルシャ湾からプロパンやブタン、ナフサを満載しており衝突の衝撃で起きた火花が引火、爆発した。
『パシフィック・アレス』は大破したものの駆け付けたタグボートと消火艇により曳航、消火され無事だった。しかし57000トンもの可燃物を積んだ『第十雄洋丸』はとても手をつけられる状態ではなかった。
場所は世界有数の過密航路の東京湾……いつまでも放置しているわけにもいかず何とか太平洋まで曳航することに成功するも二次災害の危険性があった。そこでこれ以上の被害を出さないため海上保安庁は『第十雄洋丸』の撃沈処分を決断、防衛庁に連絡した。
防衛庁は当時、最新鋭だった『はるな』を旗艦に『たかつき』型汎用護衛艦『たかつき』、『もちづき』、そしてゆきかぜ型護衛艦『ゆきかぜ』のからなる護衛艦部隊と潜水艦『なるしお』、さらにP-2J対潜哨戒機、通称『おおわし』を出動させた。
最終的に計3回の護衛艦部隊による砲撃と『おおわし』のロケット弾による爆撃さらに潜水艦による雷撃によって『第十雄洋丸』は太平洋にその姿を消した。
『はるな』は位牌を見つめながら口を開いた。
「……今、彼女にかかわったもので現役なのは私と『たかつき』さんと『もちづき』さんの三人だけですから……」
そのしゃべり方はどこか悲しげな様子がうかがえた。
無理もないだろう『もちづき』は現在、特務艦として活躍しているが来年には退役するのが決まっている。『たかつき』も現在ここ第三護衛艦群にいるがそう先は長くはないだろう。いづれ彼女とともに参加した者はいなくなる……
「『はるな』……。」
「……思いはそう簡単にかなわないは……キティあなたも知っているでしょ。」
「ええ……」
キティも何度も苦しんだことがあった今でこそ普通でいられるがかつて苦しんだこともあった。しかし、『はるな』ほど悩んだことはなかったそれはキティの……本当の思いが破られることがなかったからだろう。
自分の思いと『はるな』の思いを一緒するわけにはいかないがキティはそう感じた。
「……この悲しみを味わうのは私だけでいいのに……なんで、なんで『みょうこう』まで……」
『はるな』はそのまま顔を手で覆い泣き始めた。それをキティはただ見ているしかなくそっと部屋を出た。
キティは部屋を出ると『はるな』の飛行甲板へと出た。
ヘリコプターの運用を主眼に置いた飛行甲板は広く『こんごう』型ができるまで護衛艦の中で最大クラスの艦だったことも納得できた。
キティは甲板の端まで行くと海を見つめながら自分の思い……“守りたいもの”について考えはじめた。
自分が守りたいと思っているもの……それは祖国だ。
そしてキティがたたかった戦争で祖国は負けた。
冷戦の中起きたベトナム戦争、共産主義から資本主義を守るあのときアメリカは負けた。しかし、その時祖国そのものが危機に陥ったというわけではなかったので落ち込みはしたものの『はるな』ほどの衝撃は受けなかった。
「でも本当に守りたかったのは何だったの?」
キティは自分自身に質問した。たまに考えるのだ自分が本当に守りたいものは何かと、守るという意識ばかり先行しているのではないかと……
「どうされましたキティさん?」
キティが自問自答していると後ろから声をかけられた。キティが振り返るとそこには見知った人物がいた。
「お久しぶりです『たかつき』さん。」
そこにいたのはかつて『はるな』とともに第十雄洋丸事件で作戦に参加した『たかつき』だったその姿は年齢が16歳程で栗色の髪のツインテールが目を引いた。
「何か悩まれていたようですが?」
「ええ……『はるな』さんと話していて少し……」
すると『たかつき』はまたかといった感じでため息を吐いた。
「まだ引きずっているのねあの子は……」
「仕方ありませんよ『はるな』さんの場合は……」
『たかつき』はキティの横に来るとキティと同じように海を見つめながら口を開いた。
「『ひえい』か……」
「えっ?」
キティが聞き返すと『たかつき』は静かにとうなずいた。
「『はるな』が事件に立ち会った時、妹の『ひえい』は就役直前であったのは知っていますね」
キティはうなずく。
『はるな』の妹である『ひえい』は事件があった当時はちょうど艤装の最終段階であり確か『はるな』が撃沈のため出撃していた際に就役したはずだ。
その『ひえい』がどうしたのだろうか?
キティがそんなことを考えている間にも『たかつき』は話を進めた。
「あの時の『はるな』は焦っていた……就役して1年経つか経たないかでだれも経験のしたことのない実戦、しかもその実戦部隊の旗艦を務めた」
『たかつき』は『はるな』の部屋がある方向に目を向けた。
「誰も経験のしたことのない実戦と旗艦としての責任、そして就役直前の妹……」
そこまで言うと『たかつき』大きく息をついた。
「正直、私たちも苦しかったわ。いくら訓練でほかの船を沈めたことがあるとはいっても感覚は全く違ったわ。現役の……普通ならもっと活躍できるはずの命を奪ってしまったのだから」
キティは静かに『たかつき』の言葉に耳を傾けた。
「あの時、落ち込んでいる私と『もちづき』を励ましてくれたのは『きくづき』と『ながつき』だった……あの時は助かったわ。少しだけだけど気持ちが楽になったの。」
「他の皆さんも?」
「ええ、『ゆきかぜ』さんも『なるしお』さんも同じように言っていたわ」
そこまで言うと『たかつき』は顔を曇らせた。
「当然『ひえい』も『はるな』のことを励ましたわでも『はるな』は一切聞こうとしなかった」
「当然、周りが励ましても全く耳を傾けなかったわ。それは『はるな』自身が特別な艦だったせいかもしれないわね」
キティは静かにうなずいた。
先ほども記したように『はるな』は世界にも類を見ないヘリコプターの運用に主眼を置いた艦だ。まして戦後に作られた艦の中でも異彩を放つ『はるな』はそうとう気負いの面があったのだろう。
「そのことを知っていた艦魂たちは『はるな』を励まそうと頑張ったわ」
『たかつき』は当時のことを思い出す。
古参で事件の直前まで自衛艦隊の旗艦で『はるな』とよくじゃれて遊んでいた『あきづき』、実戦部隊の最古参で『はるな』を罵倒しながらも支え続けた『ゆきかぜ』……
他にもその場にいた者、全員が『はるな』のことを気遣った。
「それらの思いが全く届かなかったわけではないと思う。でも結局彼女を最後に支えたのは『ひえい』だった……」
就役の直前までいろいろ支えてくれた姉が『ひえい』は大好きだった。
だからこそ姉が耳を傾けなくても『ひえい』は励まし続け支え続けた、それがあったからこそ今の『はるな』があるのだ。
もし『ひえい』がいなかったら『はるな』は誰ともしゃべることはなかったであろう。
そう考える『たかつき』の表情を見てキティは少しだけほっとした気分になったようなきがした。
「ところで『たかつき』さんは何故こちらに?『はるな』は誰も来ないようにと言っていたはずだけど……」
「『みょうこう』が自分の部屋に戻るのを見たのだから……」
『みょうこう』のことを思い出したのか『たかつき』の声のトーンが落ちた。
「でも大丈夫だと思いますよ。」
キティのどこか自信のある発言に『たかつき』は首をかしげた。
「今『たかつき』さん言ってましたよね。『苦しみを分かち合える姉妹』のこと……」
「そうね……フフフ」
キティの言葉に『たかつき』は笑うしかなかった。
そしてキティは『みょうこう』を追いかけて行ったカーティスのことを思った。
(カーティスならきっと……)
キティはそう思いながら航行する『みょうこう』に目を向けるのであった。
第三回 アメリカ合衆国海軍特別広報放送局〜略して魂テレ
キティ「始まりました第三回『魂テレ』。司会のキティホークと……」
カーティス「カーティス・ウィルバーです。」
キティ「今回紹介するのは『たかつき』さんですどうぞ。」
たかつき「はじめまして『たかつき』といいます。」
カーティス「では早速ですが……」
たかつき「わかりました。自己紹介ですね。」
たかつき
身長:150センチくらい
体重:見ないでください
見た目年齢:16歳ほど
家族構成:妹二人(四女の『ながつき』は97年の8月に実験艦として海没処分されたため)
好き:妹たち、のんびりすること
嫌い:実験艦、射撃訓練
特徴:栗色のツインテール
たかつき「以上でしょうか?」
キティ「ありがとうございます。」
カーティス「そういえば『たかつき』さんは登場が前倒しになったそうですが……」
作者「申し訳ございません。」
キティ「いきなり出てこないでください!」
たかつき「作者さんそれほど気にしてないので頭をあげてください。」
作者「『たかつき』さ〜ん(泣)」
キティ「ところで作者さんその顔は……」
カーティス「ボコボコですね。」
作者「いや実は……」
???「貴様ここにいたのか!」
作者「げっ!」
???「貴様の根性たたきなおしてやる!」
作者「話の順番は根性関係ないじゃん!」
???「問答無用!」
作者「ぎゃああああああああああああああ!!」
キティ「行ってしまいましたね。」
たかつき「あの人らしいわね。」
キティ「『たかつき』さんの言う“あの人”とは次回登場しますのでお楽しみ。」
カーティス「評価・感想お待ちしています。」