大好きだよ
会いたいんだけど…と電話すれば、今仕事帰りだから最寄り駅まで行くと告げられた。
遅くまで仕事をしているのが彼らしいと思った。
家族に、こんな時間にどこへ行くの?と言われたので、春香のところに行ってくると嘘をついた。
駅に着くとまだまだ人は多かった。
改札の前にある柱の横で、邪魔にならないように彼を待つ。
改札を抜ける人は皆、足早に私の横を通り抜けていく。
何度目かの人の流れを見送ったあと、愛しい人を改札の奥で見つけた。
ニコッと笑うと、手をあげて応えてくれる。
そう、ケンカなんてしてないもの。
大丈夫、いつも通りの私達だ。
会って少しおしゃべりして、この前のことも謝って、でも少しは甘えたいってちゃんと言って、そして満たされて、またねってバイバイするの。
そう思ったのは私の心だけで、目の前に来た飯田くんに「お疲れ様」と言うことすら声が震えそうになった。
飯田くんの顔が、困っている様に見えたから。
「ちょっと…話そうか。」
いつもとは違うどこか無機質な声に、私は小さく頷いて彼の後を追った。
駅に併設する公園は、この時間にはさすがに人気がなかった。
わずかに灯る街灯の明かりが、うっすらと私たちを照らしている。
何となく、彼の目を見ることができなくて、私は俯いてしまう。
何を言われるのだろう…。
緊張で手が震えそうになるのを、かたくぎゅっと握った。
「愛想尽かされたのかな、と思ってた。」
「えっ。」
思いもよらない言葉に、私は顔を上げた。
「電話もメールもないから。」
「それは…。」
飯田くんからしてくれればいいじゃない。と言うより早く、「ごめん」と謝られた。
はあ。と、大きな溜め息をついて、飯田くんは首を横に振る。
「違うんだ。…俺は甘えていたんだ、君に。いつもマメに電話やメールをくれるから。…それが嬉しかったから。」
「…嬉しかった?迷惑じゃ…なかった?」
あなたの、仕事の邪魔になったりしていなかった?
「好きな子からの電話が迷惑なわけないだろ?」
厳しい表情がふっと緩んで、いつもの優しい飯田くんだった。
恐る恐る顔をあげると、ポンポンっと頭を撫でてくれる。
たったそれだけで満たされてしまって、視界が滲んでしまう。
「泣くなよ。」
「だって…。好きって言ってくれたんだもん。」
ずっと聞きたかった言葉。
飯田くんは目を見開いて、そしてまた困ったような顔をしたと思ったらすっと影が降ってきた。
私はぎゅっと抱きしめられていた。
首筋に顔を埋めて、囁かれる。
「本当にごめん。君をずっと…不安にさせてたのかな。俺に…反省することが多過ぎて…謝りきれない。」
抱きしめられたまま、ふるふると首を振る。
もういいの。
たった一言なのに、それだけで身体中が満たされて温かくなる。
いつも優しい彼。
でも今日は、もっと優しさをもらっているよ。
「迷惑じゃなければ、これからも俺と一緒にいてほしい。」
胸を押してはっと顔をあげると、また困ったような顔のままの飯田くんが私の目尻をそっと指ですくってくれた。
「ダメ…かな?」
ダメじゃないよ。
いいに決まってる。
「あ、あのね。私のこと、名前で…呼んで。」
思いきってそう言うと、飯田くんはすこしハニカミながら囁く。
「…詩織。好きだよ。」
「…私も。」
そのまま飯田くんの影が降ってきて、私たちはそっと唇を寄せた。
とってもとっても幸せで甘いキスだった。
一方通行だと思ってた私の気持ち。
お互いが気持ちを確認できたとき、繋がる心は混ざり合い、そして甘く溶けていった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
詩織ちゃんと飯田くんのその後の番外編もぜひどうぞ。
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