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藍色のポリバケツ  作者: 池田薫人
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第一章 4 『人質からの野次馬』




まるで拷問されているのでは?と育治は思った。

この真冬の真っ只中、暖房一つ付けずに2時間近く体育座りを強要されていてはそう思われても仕方の無い事なのかもしれない。

校長の年齢は分からないがそれでも完全な老人なのは確かだった。

杖をついて車椅子で移動。引き際が大事である。

そして何より、この校長の喋り。何を言っているのか解らない。

加えて聞いている者を深い眠りに誘う呪文の使い手でもある。そんな呪文をこの氷点下並みの寒さの中でまともに喰らい寝てしまえばまず、あの世に連れてかれるのは間違いない。

校長の余生はそんなに長くは無い事だろう。

1人で逝きたく無いのだろう。

だから、暖房も付けずに呪文を延々と唱えている。

なんて人なんだ。と、育治は憶測を立てている。

いや、妄想だ。

意識が朦朧とする中、育治の限界を迎える直前に校長は呪文を唱えるを辞めた。


ーーー………やっと終わった。




「はぁ。あったけぇー」


全校生徒を人質に取った校長の話も終わり、教室に帰って来た育治は席に座るなりうつ伏せになり安堵のため息を吐いた。

ストーブは原則として教室を出る際に必ず消すと言う決まりがあるのだが消さずに向かったお陰で現在寛げている。


「はぁー。幸せ。冬なんてさっさと終われば良いのに。夏来ないかなぁ。夏。……あ、由紀。そういえば、谷繁は??」


育治は顔を上げると黒板に3学期の始業式に必要な持ち物を書いている由紀へ雑に問いを投げかけた。


「谷繁先生ね。先生を忘れちゃダメよ?」


「なんでも良いからさぁ。早く帰ろうよ」


「ダメよ。先生来るまで待ってなさい。もう少しでくると思うから黙って席についてて。最悪、席に着いていなくても良いから黙ってて」


ーーーそんなに煩いかな。


少しばかりシュンとした後言われた通りに黙ってスマホをいじり始める。

10分強位経った所で担任の谷繁が教室の中へ入って来た。

ボサボサ頭で無精髭が目立ち目が座っている。そして普段からジャージ姿の谷繁武に育治は遠慮無く野次を飛ばす。


「遅いよ谷繁」


「あー?先生を付けろといつも言ってんだろ黒野ー。……まぁ、いいや」


軽く育治を遇らうと教卓の前に居た由紀を退かし話を始める。


「えーっと、……用件だけ言うな。あと、1時間から2時間は教室で待機してろー。いいなー?」


その瞬間罵倒や不服か嵐が教室を舞う(9割は男子)。

うるせーぞ、と一言いうと話を続ける。


「近くにクローン収容所があるだろ?あそこでテロがあったんだよ」


すると、1人の生徒が谷繁に質問をした。


「何でですか?クローン収容所をテロしてどーするんですか?」


「何でって言われてもなぁ……そりゃ、クローンも生き物だろ?結構騒がれただろ?クローン保険の話題で。まぁ、あれだ。命の冒涜とか、まぁ、そんな所じゃ無いの?まぁ、俺も正直テロを起こした奴らの気持ちも分からん事ないんだけどな」


ぼーっと眺めていた育治は何か違和感を感じた。


ーーーテロ?………まさか、今朝見たあの迷彩服着てた連中か?


「テロを起こした人は捕まったんですか?」


由紀が恐る恐る質問すると谷繁は気の無い返事をした。


「んー?あぁ、一応な。ただ、グループで動いていたみたいだから、もしかしたらって事で待機だ。分かったか?」


待機の理由が分かった生徒達は納得がいったようだった。ただ、1人除いて。


「先生」


「お、黒野。やっと先生って言えるようになったか」


「と……トイレに行ってきていいですか?」


「おう。漏らすなよ」


了承を得た育治はそそくさと教室のドアを閉めると、廊下を全力疾走で駆け抜けて行った。


育治が教室を出て行った後、将星と哲夫と由紀と谷繁は教卓を囲むように談笑をしていた。

10分位が過ぎた頃に痺れを切らしたのか由紀が呟いた。


「育治。遅くない?10分は経ってるわよ?」


それに将星が反応して興味無さげに答えた。


「学校から出たんだろ?野次馬しに」


谷繁の顔色が曇った。

その反応を見ていた由紀が慌ただしくそれに突っかかる。


「でも、ほら!育治の奴鞄持っていなかったじゃない?だから、その線は無いんじゃ無いかなぁって……あはは。………はっ?!」


気付いたのか笑う事を中断させられた。そして、馬鹿がどうしてシャーペンを貸してくれとねだって来たのかを思い出した。


「おいおい。シャレになってないぞ黒野。あいつ」


珍しく眠たげで基本半分しか開いていない目がしっかりと開いていた。

それはそうだ。もし育治に何かあれば学校に責任問題が押し付けられる。あまつさえそれは自分にものし掛かる。


「今すぐあの馬鹿を止めに行った方がいいんじゃ無いですか?」


哲夫は谷繁とは裏腹に呑気な口調で言った。

すぐさま谷繁は教室の扉まで行くと、「教室を出るなよ」と一言言ってから廊下を走って言った。


「流石に今回の脱走はまずいんじゃ無い?」


由紀が弱々しく言うと、将星と哲夫が口を揃えて無関心に言った。


「「自業自得」」


その頃話題の中心人物黒野育治はクローン収容所の前で野次馬に混ざり収容所の様子をスマホで写真を撮っていた。



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