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藍色のポリバケツ  作者: 池田薫人
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第一章 3 『ぞんざいな扱い』



「セーフ!」


勢い良く扉を開け、大きな音をたてクラスメイトをビビらせた育治が開口一番、怒鳴り込むように声を張り上げて言った。

教卓の前でHRを仕切っていた尾上由紀が唖然とした表情のあと青筋をたて、大声で言い放つ。


「アウトよ!アウト!!アンタはいつもそう!早く席に着きなさい!」


尾上由紀の一つに結んでいる黒髪のポニーテールがゆらゆらと揺れていた。


「……すみません」


ーーー若干つり目なのにキレるともっとつり目になる。怖さ倍増ですよ全く。


「……何よ?」


由紀のつり目が細くなり育治を睨めつけながら辛辣に言った。


「いえ。特に何も」


ーーー感も鋭い。


渋々と自分の席へ向かった。そして、席に着くと一枚の紙が置いてある事に気付いた。内容は二学期の反省点を書く紙だ。

本日筆箱は愚か、バッグさえ持って来ていない事を思い出した育治は顔を手で抑えて机に突っ伏したのだ。


ーーーしまった。今日鞄持って来てないんだった。


身体を起こすと後ろの席に振り返る。


「あのー。五十嵐将星さん?よろしければペンを貸していただけないでしょうか?」


育治は頭を下げながら両手を差し出すと、将星はそれに応じず、冷淡な声で言った。


「断る」


「えー?なんでぇ。俺ら友達でしょ?」


「友達?笑わせるな。それより小説を返せ。それが先だ」


ふんっと鼻を鳴らしたあと、静かな声だ。

育治は頭を上げ両手を引っ込めると、目を細め何も言わずに前を向く。そして、もう一度振り返りながら笑って言う。


「あ、悪い。鞄持って来て無いわ。ついでに小説も」


「だからお前に物を貸したく無いんだ。金もそうだが、辞書もそうだな。あれも一学期に貸して以来返って来ていない。いつ返すんだ?」


目を閉じると育治は両手を合わせて謝罪と要求をする。


「分かった!すまん!ちゃんと全部返すから!ほら、この通り!だからシャーペン貸して!」


「断る。哲夫に借りるといい」


「…………分かった」


身体も元に戻すと、左隣の席に身体を向ける。

そこには中肉中背の男がいた。天然パーマと言う言葉では片付けられない程のパーマ。見れば見るほど憎たらしい顔をしている。しかも、それは顔だけでは無く性格もまた憎たらしい。


「哲夫くん。できればなんだけど。なにか……」


「いくら?」


育治の声を抑えつけ哲夫がヘラヘラと言った。


「ん?……あー。……だから、なにか……」


「だから、いくら?」


ーーーおぉ。……すんげぇ、ムカつく。とりあえず、ムカつく。こいつに頼るのだけはやめだ。


舌打ちしそうになるのを我慢したあと、舌打ちをした。そして、身体を前に向けると黒板に連絡事項を書いている由紀に手を振って声をかける。


「由紀!友達のいない僕にシャーペンか何か書ける物を貸してはくださらないでしょうか?」


呆れ顔で振り返ると由紀は自分の筆箱からシャーペンを取り出し育治の席の前まで来て渡す。


「はい。後で絶対返してよ?絶対よ?いい?無くしたら怒るからね?絶対よ?!」


「………大丈夫大丈夫!任せて、この短期間で無くすことが出来るならむしろ無くしてみたいよ」


ーーーここまで信用無いと一層の事清々しい。


由紀はシャーペンを育治に渡すなりそそくさ教卓へ戻る。

早速進路の紙と睨めっこを始めたものの特に何も反省する点は見つからなかった。

後悔は失敗の数だけするが反省はした事がないからだ。

そして、紙の下には進路先の記入の項目もあった。

何か将来やりたい事など無いかなぁと黙考はして見るが、特にやりたい職業や目的や夢がな育治は手が進まなかった。

唸って考えても時間が経つ一方だった。


「はい。じゃあ後ろから前へ回収してください」


時間は待ってくれなかった。いつだってそうである。

白紙のまま提出すると育治は席を立ちシャーペンを持ち由紀の前れ現れる。


「ありがとな、助かった!いゃあ、いつもすまないねぇホント。感謝してるよー?ホントに」


ワザとおどけたフリしながら言ったが由紀はそれを軽く無視し、


「はいはい。じゃあ席に戻って」


全く反応な無かったのでそれ以上はと思い自分の机に戻ろうとする。そこで、2人の男子生徒に絡まれた。将星と哲夫だ。


「育治。今日お前は暇から」


将星が前振りも無く質問を投げかけた。


「……暇だが俺達は友達じゃないから断る。どーせ学校終わった後遊ぼうとかそんなこんたんだろ?」


吐き捨てるような言うと育治は手を振りながらその場を離れる。


「……育治の奴ペンを貸さなかっただけで起こっているのか?」


隣にいた哲夫に将星が問うと、


「でしょうに」


育治の行く先を眺めながら哲夫は言った。


友人達の誘いを振り払い教室を出てトイレに向かった育治が教室に戻ると少しばかり騒がしかった。


「そろそろ終業式始まるから皆んな廊下に並んでー。出席番号順ねー」


言うなり由紀は教室から出て廊下で並び順の確認を取っている。騒がしかった理由は移動だった。


ーーーメンドくさいな。一層の事学校抜け出して帰るか。いや、帰ろう。


育治が良からぬ事を考えていると、哲夫が育治の肩に手を回し悲しそうに訴えかけて来た。


「なぁ。遊び行こうぜ?怒ってないでさ」


「怒ってねぇよ」


むすっと返事をする。誰がどう見ても怒っていた。


「じゃあ、怒ってないなら遊び行こうぜ?」


「ははは、断る」


笑顔で笑い、無表情で断った。


「そうかそうか。じゃあ、仕方ないなぁ。育治がそこまで言うなら仕方ないなぁ。仕方ないよなぁ。あーあ」


哲夫は何か勿体ぶりながら言うと、育治の肩に回していた手をどかすと廊下へ出て行った。


ーーーなんだよ哲夫の野郎。勿体ぶった言い方しやがって。……!もしかして。俺が誕生日だと言う事を知って?…だとしたら、悪い事をしたなぁ。どうしようか。


育治が対策を考えていると、そこへ将星が話をかけて来た。


「なぁ、育治」


「将星?………あぁ、俺さぁ……」


「お前が並ばないと体育館へ行けないんだよ。さっとしろ」


「…………」


将星は言うだけ言うと、廊下へ出ていく。

育治は少しだけ、悲しい顔をした後将星の後ろについて行き廊下に並び1年C組の一員として、体育館へ向かった。




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