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第一話 叶わぬ夢と迷宮都市

遅れた~

そして今回も短い……

 男は夢を見る。

 それは男が願ってやまない光景の夢。


 真っ青な青空の下で風に吹かれながら歩いている二人の人影。


 一人は旅装束に身を包んだ男。

 厳つい相貌にギラついた瞳は前だけを見続け、旅の荷物を片手に果ての見えない道を歩く。


 一人は男に対して腰ほどの身長しかない少女。

 笑顔で辺りの光景に目を輝かせ、両手を広げ楽しそうに男の傍らを歩く。


 並んで歩く二人は対照的な容姿をしていた。

 髪の色も違ければ身長も、歩き方も、身に纏う雰囲気さえも。

 何もかもが正反対の二人。

 だがもしも、傍目に彼らを見た人にどのように感じたかを聞けば帰ってくる言葉は一つだろう。


 『二人はきっと兄妹だろう』


 見た光景から感じ取れる様子以上の親愛が、情愛が、友愛が……二人を包んでいるのが感じ取れたからだ。

 二人を包む雰囲気を感じれば、兄妹かなどはどうでもよいと思えるほどに。

 平凡で平和で、それでいて愛に満ちた光景だ。

 

 (こんな光景が、瞬間が永遠に続けばどれだけ幸せなのだろう)


 そんな夢を眺める男は心の底からそう思う。

 しかし夢は一瞬の幻想であり、目覚めと共に消えてしまうものだ。

 男が見る夢も例外ではない。


 幸せが満ち溢れ、穏やかだった光景に罅が入る。

 青空だった空は黒く染まり、果てが見えなかった道は途絶える。

 そして、次の瞬間には隣を歩いていた少女が霧のように消えていく。


 歩いていた男が涙を流しながら大声で何かを叫び呼ぶが、その叫びも虚しく宙に消えていく。

 そんな光景と共に男の意識は浮上していく。

 そして次の瞬間……目に映ったのは見慣れた天井だった。

 

 

 「……この夢を見るのももう何度目だろうな」



 寝起きでうまく動かない口で男は弱弱しく呟く。

 呟かれた言葉に込められた感情は悲しみか、それとも追慕か。その答えは男にすら分からない。

 そんな男は涙で濡れた頬を拭いながら右手を天井へと伸ばす。

 そして先ほどとは違う、決意の籠った強い口調ではっきりと口にした。



 「待ってろ、リア。 今度こそ君を離さない」



 天井へと伸ばされた右手は、何かを掴むようにしっかりと握られていたのだった。




◆◆◆◆◆◆




 晴天の青空の下、一台の馬車がガタゴトと音を立てながら道を走る。

 珍しく周囲には旅人の姿が見られない。

 馬車の車輪と馬の肥爪の音だけがテンポよく鳴り響いていた。


 日常的な、穏やかな光景だ。

 ……いや穏やかな光景だった。



 『そこの馬車‼ 止まれぇぇ‼』



 穏やかな雰囲など元から無かったとでも言うような怒号。

 同時に辺りから複数の馬を駆ける音が聞こえてくる。

 前方では20名ほどの男たちが、言葉にも聞こえない奇声を上げながら立ち塞がるのが見えた。


 

 「命が惜しかったら今すぐに馬車を止めろぉぉ‼

  今の俺たちゃぁ、気分が良い‼ 命だけは取らないでやるぜぇぇ⁉ ギャハハハハハ」



 ——盗賊、いや山賊といったところだろう。

  


 そんな山賊を確認したオレは……馬車に揺られているオレの心境は複雑だった。

 山賊に襲われたからではない、アドラグル卿の依頼の内容を思い出して後悔しているわけでもない。

 複雑な心境、その原因は隣に座る彼女にあった。



 「ゼオン様……私、生まれて初めて山賊に襲われましたわ!」



 普通の人ならば心底怯え、絶望する状況で彼女は太陽のような眩しい笑顔で微笑む。

 彼女は狂気的な感性の持ち主……というわけでは無い。

 おそらく本心から初めての体験を楽しんでいるのであろう、ある意味感覚が麻痺しているともいえるし天然だとも言える。



 「……アリシア、お願いだから顔や手を出さないでね」


 

 オレは嬉しそうに体を揺らす彼女に苦笑いしながら注意する。


 今回のアドラグル卿からの依頼で起きた一番の予想外の出来事、それはアリシアがオレについてきたことだった。

 今までにないほどに厄介な目に合うだろう依頼、必然的に危険も付きまとう。

 それに加え今回の依頼の調査場所はダンジョンが周囲に多く存在し、冒険者や商人が多く集う『迷宮都市 ブローギン』だ。

 冒険者も多い反面、荒くれ者も多いだろう。

 そんな街にアリシアを連れてきたくは無かったのだが……実際にアリシアは隣に座っている。


 (嬉しいような……不安なような、複雑な気持ちだな)

 

 隣にいるアリシアを見つめながら再び苦笑する。

 そんな彼女はオレの様子には気づいた様子を見せず、声を弾ませながら話しかけてきた。

 


 「ねぇ、ゼオン様。

  どうしていきなり馬の足音が聞こえてきたのかしら。

  こんな静かな場所ならもっと早く気が付いたはずだと思うのだけど……」


 

 アリシアは首をコテンと傾かながらオレを見る。

 そんな可愛らしい様子に先ほどの不安も消えてしまう。



 「【盗賊】や【山賊】、【襲撃者】なんかの犯罪系統のジョブは初期に足音を消すジョブスキルを得るんだよ。

  今回も多分、そのスキルなんかを使ったんじゃないかな?」



 犯罪系統ジョブ、それはクラスアップで数少ない例外である。

 本来、『祝福の儀』で選択した系統から外れたジョブにクラスアップすることはほとんどない。

 しかし、犯罪系統ジョブだけは違う。

 犯罪系統ジョブは、『祝福の儀』で選択できない(・・・・・・)ジョブだ。

 犯罪系統ジョブに就く方法は一つだけ。

 

 法に触れることを犯し続ける事。


 盗賊行為を繰り返したなら、【盗賊】に。

 海賊行為を繰り返したなら、【海賊】に。

 奴隷の売買に関わり続けたら、【奴隷商人】に。


 不思議なことに犯罪系統ジョブには才能は関係なくクラスアップすることが出来る。

 そしてその大部分のジョブで初めに覚えるジョブスキルが【消音】だ、今回も【消音】を使って近づいてきたのだろう。


 

 「物知りなのね……。

  私、その系統にジョブに就いている方にあったことが無い気がしますわ」


 

 彼女は初めて聞いたらしく少し驚く。

 しかし犯罪系統ジョブに就いている人は珍しいわけでもない。



 「犯罪系統ジョブと言っても【暗殺者】や【工作員】なんかは国に雇われる人も多いからまた、アドラグル卿なんかに聞いてみるといいよ」



 むしろ、純粋に犯罪をしている人の方が少ないぐらいだろう。

 それこそ【盗賊王】なんかは例外中の例外だ。

 彼は本当に強かった。

 英雄レベルには達していないが、そのセンスと戦い方は凄まじいものだった。

 あの年であそこまで強ければ英雄レベルに達するのもそう遠くないだろう。



 「ゼ・・・? ゼオン様? 聞いてる?」


 「……ん、ああ。ごめん、聞いてなかった」



 思わず昔の事を思い出し、話しかけられていることに気が付けなかったようだ。

 そんなオレの様子にアリシアが頬を膨らませている。



 「もうっ! それでこのままでは山賊に捕まってしまいますわよ?

  それともゼオン様が昔みたいに追い払ってくれるんですの?」


 「は、はは、オレでは殺されてしまうよ」



 アリシアの辛辣な言葉に苦笑いで返す。

 相手は第3冠位以下しかいないとは言え、流石に30人もいたら第5冠位の戦闘職でもいない限り殺されてしまうだろう。

 そんな人物は、この馬車の中には……。

 


 「ではどうするんですの?」


 「ん? ああ、問題無いよ」



 言葉を返しながらオレは御者台へと座る老人へ目線を送る。

 そして老人が頷くと同時にそれは起きた。


 それまで一定の速さで走っていた馬車が倍の速さで加速する。

 外から山賊の怒鳴り声と矢の風切り音が聞こえてくるが、放たれた矢は馬車には届かない。

 すべての矢が見えない風の壁に弾かれたのだ。


 それを成したのは馬車を引く馬。

 だがただの馬では無い、その名もレッサーユニコーン。

 風を操り、空を駆けると言われる【戦略級】モンスター、ユニコーンの下位モンスターだ。

 しかしその戦闘力は【上級】に匹敵し、風を操ることが出来る。矢を弾く程度は造作もないだろう。


 そして何よりレッサーユニコーンはある人物によって強化されていた。

 それこそ御者である老人、オーグネス侯爵家に雇われている第4冠位である【戦馬騎兵】に。

 ジョブスキルによって強化された馬車自体とレッサーユニコーンは、山賊をものともせずに跳ね除けていく。


 アリシアは山賊を討伐すると思っていたのか、少し不満そうな顔をしていたが一々山賊など討伐などはしていられない。

 山賊の討伐程度なら冒険者ギルドに依頼が行くので問題ないのだから。

 

 しかしオレには山賊討伐よりよっぽど厄介な依頼が残っている。

 オレは視界の端に入った『迷宮都市 ブローギン』を見て重たいため息を吐くのだった。

  

今回は話を進める? というよりは説明回。

推敲無しで投稿するので、この後、ちょくちょく改善するかもです

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