第五話 勝利の余韻
短め―
Cランクダンジョンのダンジョンボス、ハイアーク・バジリスクを倒した『四人の守護者』とオレ、そしてシドは転移陣の前で腰を下ろす。
強敵に勝ったことによる余韻に浸っているのだ。
「いや~、ギリギリだったな‼」
よほど格上に勝ったことが嬉しかったのか、リドーは笑顔で回復ポーションを煽る。
腰を下ろし油断しきっているリドーだが、今の彼を注意するものはいない。
全員が彼と同じ気持ちだったからだ。
「ほんとよね。 最後にシリアと私の足止めを抜けられたときはもう駄目かとおもったわよ」
「私も~」
冬華とシリアが笑いながら同意し、クィーンは無言で頷く。
それほどにハイアーク・バジリスクは強敵だった。
【戦術級】モンスター相手に、一般レベルの四人が勝つなんて大金星である。
そんな彼らにオレも嬉しくなり軽く笑う。
「もしかしたら冒険者ランクも上がるかもな。
それにハイアーク・バジリスクの素材はかなり使えるところが多い、いい装備が作れるぞ」
「……え⁉ ハイアーク・バジリスクの素材を俺達が貰っちゃっていいのか⁉」
「え?」
(どういうことだ?)
喜ぶと思って言った言葉だったが、驚いた様子を見せる四人にオレも驚く。
モンスターの素材は討ち取った奴のはずだが……。
「アルケインさん、貴族からの指名依頼では倒したモンスターの素材は貴族のものになるんですよ」
横からシドが助け舟を出す。
正直、初めて知った。
オレは冒険者登録していないので知らなかったが、冒険者ギルドにはこういった規則や暗黙のルールが多く存在するらしい。
しかしオレはハイアーク・バジリスクの素材はいらない、このモンスターはあげてしまっていいだろう。
「『四人の守護者』が倒したんだから素材は全てお前らのものでいいよ。…………バジリスクの素材も有り余ってるしな」
そんなオレの言葉を最後まで待たず、4人は(3人+ゴーちゃん)は歓声をあげる。
よほど嬉しかったのだろう、魔力が尽きて重いはずの体で小躍りしはじめた。
バジリスクの鱗はそこらの地竜よりも硬いうえ、牙を加工すれば稀に状態異常の毒を付与することもできる。今回のハイアーク・バジリスクは魔法にも精通しているモンスターなので魔力もよく通るだろう。
オレも昔は苦戦もしたがお世話になった。
「リドー……孤児院」
そんな喜び合う歓声の響く空間に小さな声が響く。
ぼそっとした少し高めの声。
その声に小躍りしていた3人が動きを止め、神妙な顔をする。
そんなコロコロ変わる様子に驚きながらシドと顔を見合わせる。
「どうかしたのですか?」
声をかけたのはシド。
心配した声にシリアが我に返る。
「……実はね~、リドーとクィーンは孤児院出身なの~。
その孤児院がこのブローギンにあるんだけど……少し前に育ての親であるシスターが変な病気に掛かっちゃって~」
「……そういえば私もブローギンの孤児院でシスターが倒れて、経営難になっていると耳にしましたね」
ブローギンを拠点にダンジョンの管理をしているシドが言うのだから間違いはないだろう。
だが、落ち込んでいる理由は分かった。
(その病気を治すために金が必要なわけか)
『四人の守護者』がブローギンでダンジョンに挑んでいるのもそれが理由だろう。
彼らのジョブ的に言えば、閉鎖された空間であるダンジョンより商人の護衛依頼なんかのほうが適しているはずだ。
しかし護衛依頼は時間がかかる、クエストをこなしている間にシスターが死んでしまう可能性は高い。
その為に、危険だが一度に金が手に入るダンジョン挑んでいるのだろう。
「ゼオン……モンスターの素材をくれたのは嬉しかったけど、こいつは売らしてくれ。
今の俺達には金が要るんだ」
その声は先ほどと打って変わって沈み込むように暗く低い。
それほどシスターの事を心配しているのだろう。
いつもの俺なら「そうか、頑張れよ」といって終わるのだろう。
だが……
(アリシアがいたら全力で助けるんだろうなぁ)
彼女はどんな人にでも優しい、彼らが困っていたら全力で助けるのだろう。
「オレとシドはダンジョンの調査をしている」
「……?」
首を傾げる彼らに言葉を続ける。
「これからしばらく他のダンジョンにも調査の為に潜る予定だ。
……だが、まだ護衛が決まって無いんだ。それを『四人の守護者』に指名依頼をしたい」
オレは呆けた顔をする彼らにニヤリと笑った。
「貴族からの指名クエストだから報酬はたんまりでるよ」
(払うのはオレじゃないけどな……)
その言葉にリドー達が首をコクコクと振る。
「……ゼオン‼ お前やっぱいい奴だ~‼」
リドーが半泣きで抱き着いてくるのを剥がしながら苦笑いする。
男に抱き着かれるような趣味は持ち合わせていない、女もアリシア以外はお断りなのだが。
それに……
(それに、変な病気……ね。これほど簡単に流行り病にかかった人が見つかるなんてな)
度重なる予想外にため息を吐き、肩を落とすのだった。