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第四話 ダンジョンボスと『四人の守護者』

前回は更新できなくすいません。

 「それにしても偶然だよな! まさかブローギンでお前に会うとは思ってなかったぜ!」


 空元気な声が薄暗く、静まり返った通路内を木霊する。

 声の発生源である青年はケラケラと笑いながら通路を突き進む。

 そんな青年の身に着けた装備から、彼が冒険者であることが見て取れた。

 しかしそんな様子の青年と正反対の雰囲気を発している、黒尽くめの衣装を着た少女が強い口調で青年を注意する。


 「リドー! 嬉しいのは分かったから、ちゃんと気を張って! 

  ここはダンジョンの中なんだよ⁉」


 「大丈夫だって! ここのモンスターぐらいなら【忍者】のお前なら見逃さないだろ?

  それに抜けてきたモンスターがいてもシリアが結界を張ってくれるさ」


 そんな言葉にまた、一人の少女が豊満な胸を張る。

 修道女のような恰好で余計にその大きさが目立ってしまっているが彼女は気づかない。

 口元を緩めながら頬に手を当てる。


 「そうだよ冬華ちゃん~。いざとなれば私が結界を張るし、クィーンもいるから誰かは気づくよ~」


 「ねー」とでも言うようにシリアは傍に立つ小さな青年に顔を向ける。

 ここにいる全員の中で最も背丈の小さな青年は無言で頷く。

 しかしそのやる気を示すかのように彼の傍らに一体のモンスターが姿を現す。


 『ゴォォォォオ‼』


 全身が硬い鉱石から形成され3メートルにも及ぶ背丈を持つ、青年とは対照的なモンスター。

 その名も、アイアンゴーレム。愛称「ゴーちゃん」である。

 

 「まぁ、そんなわけで泥船に乗ったつもりで任せてくれ! ゼオン、シドさん!」


 リドーはケラケラと笑いながら胸を叩く。

 

 「大船でしょ!」


 さらにリドーの頭を冬華が叩く。

 そんな彼らの様子を見ながらオレは苦笑しながら頷いた。

 

 


 そう、冒険者ギルドで【ダンジョンマスター】であるシドに指名依頼をしたオレとアリシアだったが一つの問題に突き当たっていた。

 それは謎の流行り病の原因であろうダンジョンの調査における監査役だ。

 初めは冒険者に依頼すればいいとかんがえていたのだが……。


 (こいつが依頼をこなすとなると話は別だ……)


 この男、シド・ダイダロスは信用ならない。

 それ故に監視役としてオレ自身がシドの監視役として同行することになったのだが、その事にアリシアが大反対したのだ。


 「駄目よ、ゼオンは戦えないんだからダンジョンなんて死んでしまうわ」


 いつもなら何とか説得することもできるのだが、その声には絶対に譲らないと言った意志がこもっていた。

 そこで護衛役の冒険者を雇おうと考えた矢先、目の前に現れたのがリドー達のパーティー『四人の守護者ガーディアン・ロザリオ』だったのだ。




◆◆◆◆◆




 『四人の守護者』はオレやアリシアが通う王都の学園に通う生徒だ。

 そんな学園で『四人の守護者』は色々な意味で有名なパーティーである。

 

 一つは、学園に存在する人口ダンジョンで攻略進行度が生徒内のパーティーで10本の指に入っている事。

 もう一つは、4人とも全員が初めのパーティー結成で誰とも組んでもらえず余ってしまった4人であったことだ。


 彼らは全員が全員、ダンジョン攻略に向いていないジョブだったのである。


 希少スキルである【指揮】を持ちながら、【風水師】というジョブに就いてしまったリドー。


 東洋の血筋を持つがゆえに【忍者】という東洋固有のジョブに就いてしまい、周りから一歩距離を置かれてしまった冬華。

 

 【鉄壁】という前衛スキルに【結界士】という後衛ジョブに就いたシリア。


 子供と間違われ、取り合ってすらもらえなかった【ゴーレム術士】クィーン。


 実際、彼らは冒険者志望でありながら活動できないでいた。

 そんな彼らについたあだ名は『余り者の四人』

 しかし、そんな彼らは一人の男によってパーティーを結成することとなる。

 学園で『貴族の落ちこぼれ』と名高いゼオン・アルケインによって。



 そんな『四人の守護者』だが、クィーン以外は今だ一般レベルを越えられておらず総合的な戦闘力ではDランクと同等程度しかない。

 Dランク冒険者、それが冒険者ギルドにおいての評価である。

 では何故、ゼオンは『四人の守護者』に護衛の依頼を頼んだのか。それにはいくつかの理由がある。


 まずやはり信用である。

 名前も知らない、流れの冒険者よりも同じ学園の生徒でありダンジョンに潜りなれている彼らの方が適してると判断したのだ。

 ダンジョン内で裏切られ、モンスターの餌となるなど冗談でも笑えない。


 そしてもう一つの理由、それは彼らの戦闘スタイルにある。

 彼らの得意分野は防御重視の広域探索なのだ。


 リドーの地形を利用した防御にシリアの結界術。

 冬華の広域感知&隠密行動にクィーンの作り出したゴーレムの軍団と【指揮】の効果の乗った広域殲滅。


 これこそ彼らが学園において高い成績を叩き出している要因である。

 それこそ、防御のみに集中すればBランク相当の冒険者と同等の働きが出来る。

 


 その特性を知っていたからこその護衛依頼だったのだが……


 「やはり考えは間違ってなかったみたいだな」


 実際に、彼らの働きは凄まじいものだった。

 今潜っているのは『神魔の巣窟』ではないがCランク相当のダンジョンだ、しかし彼らは設置された罠をモンスターをものともせずに進んでいく。


 冬華が罠を見破り、クィーンのゴーレムが真正面から踏み破る。

 リドーとシリアは……遊んでいるが……まぁ問題は無いだろう。

 オレは本来の仕事である監視役を果たそう。


 「シド、このダンジョンに異常は感じないか?」


 隣でブツブツ呟きながらダンジョンに手を当て、調べるシドに声をかける。

 これこそ【ダンジョンマスター】である奴の持つ職スキル。ダンジョンに流れる力を感じ取り、操作することのできる【迷宮権限】だ。

 そんなスキルを使用しているシドは、オレの問いに苦々しい口調で返事する。


 「異常ですか……むしろ異常としか言いようがありませんね」


 「どういうことだ?」


 「そうですね。ダンジョンは自身の中で敵性生物を殺すことで魔力をため込み成長します。

  これはご存知ですよね?」


 「ああ」


 「本来ならダンジョンは常に微々たるものですが成長しているのです。

  しかし、このダンジョンは成長していない(・・・・・・・)


 ……どういうことだ?

 オレはシドの言葉を理解できずに首を傾げる。

 そんな様子に奴は顔を青くしながら薄く微笑む。


 「端的に言いましょう。

  

  このダンジョンは何かに……何者かに魔力を奪われ続けている」


 その言葉の意味に戦慄が走る。


 「おいおい! それって大丈夫なのか⁉」


 聞き耳を立てていたリドーですらこれなのだ。

 その危険さが理解できる。


 モンスターを生み出すほどたくさんの魔力を保有しているダンジョンが、魔力を奪われている。


 それほど膨大な魔力がどこに行って、何に使われているかは分からない。

 しかし、謎の流行り病や『神魔の巣窟』での異変に関係していることは間違いない。


 (できるだけ早く、他のダンジョンの状態。流行り病の病人の状態と保護をしておきたいな)


 先の見えない異変の連続に肩が重くなるのを感じながらため息を吐く。

 もしかしたらアリシアとゆっくりデートできるのでは? と考えていた自分をぶん殴ってやりたい。


 「よし、できるだけ早くこのダンジョンを攻略して外に出るぞ」


 ダンジョンを攻略すると地上に転送する魔法陣が出現する。

 ここまで深く潜ってしまったのなら攻略した方が速いだろう。

 その言葉にリドーが元気よく返事をする。


 「おうよ‼ と言っても残るはダンジョンボスであるモンスターを倒すだけだがな。


 改めて前方に視線を送ると、壁に埋まるように存在する大きな扉が見えていた。

 どうやら考え事をしている間にかなり下層まで来ていたようだ。


 「どうするよ、ゼオン。 俺たちがやろうか?」


 「ああ、頼む。Cランクダンジョンならかなりの強さのモンスターが出るはずだ、気をつけろよ」


 Cランクのダンジョンボスならば【上級】モンスターの上位、運が悪ければ【戦術級】モンスターだ。

 油断はできない。


 前衛に冬華とゴー君、オレを守るようにクィーンとリドーが並び、背後にシリアとシドが控える。

 【指揮】をもつリドーが出した配置だ、これが最善手だろう。

 オレ自身も【瞬間装備】で片手剣を装備し、戦闘に備える。


 「準備はいいな? ……行くぞ‼」


 掛け声と共に、漆黒の扉が重厚な音を響かせながらゆっくりと開き……



 『GYUooooooooN!!』


 

 耳をつんざき、肌を震わす咆哮がオレ達を出迎える。

 

 (はずれだな、あれは……)


 「ちっ‼ ハイアーク・バジリスクじゃねえか‼」


 【戦術級】モンスター、ハイバジリスクの上位モンスター(・・・・・・・)だ。

 本来なら出てくるのはずの無いレベルのモンスターだが……ここまで異常が影響しているのだろう。


 猛毒に加えて、魔法を使用するハイアーク・バジリスク。

 だが、『四人の守護者』も状態異常を使用するモンスターは得意分野だ。勝負はいくらかこちらに分があるだろう。


 「行くぞ‼」


 そんなオレの考えを吹き飛ばすような掛け声と共に四つの影が動き出す。


 「【地束防壁】‼」


 一瞬で地面が盛り上がりハイアーク・バジリスクを拘束し、盛り上がった壁を利用し冬華が接近する。

 【忍者】の初手スキル、【影刺し】は防御を無視して攻撃できる。

 ハイアーク・バジリスクの魔核を捉えられたなら一撃なのだが……


 「GYAAAA‼」


 そう簡単にはいかないようだ。

 猛毒を周囲にまき散らし、自身の体を拘束する魔法を破壊しようと暴れ出す。

 同時に一人の人影が猛毒の霧へと突貫する、これが出来るのは彼しかいない。


 『ゴォォォォォオ‼』


 ゴーちゃん。

 その鋼鉄の拳をもって奴の頭を粉砕する。


 「やりました~?」


 はい、もう死んでいない~。

 死んだかのように見えたハイアーク・バジリスク、何かの魔法だろうか? その頭には傷一つない。

 同時にそのしなる体でゴーちゃんを吹き飛ばし、疾走する。


 狙いは……オレか。


 「シリア‼ ゼオンを守れ‼」


 「任せて~!」


 轟音。

 ハイアーク・バジリスクがオレの目の前で見えない壁に激突する。


 「……凄いな」


 そんな様子を見ていて出てきた言葉は感嘆だった。

 【戦術級】モンスターの討伐推奨人数は、一般レベルで100人だ。相性がいいとはいえここまで戦えるのは『四人の守護者』の連携によるものだろう。


 だが、時間を掛けすぎたようだ。

 というよりも敵の方が一枚上手だった。

 

 突如、敵を引き付けていた冬華の動きが鈍くなり始める。

 疲れによるものではない、先ほど言った通り時間の掛けすぎが原因だ。


 そう、毒の遅延(タイムリミット)

 奴の魔法は見えなかった、そんな不可視の魔法はいくつかに絞られる。

 

 (【風魔法】を使って霧毒を振りまいたな)


 猛毒となればその体を回る速さは凄まじいだろう。

 霧状になり、少量しか吸い込んでいないとはいえ効果は出てくる。

 このままでは『四人の守護者』に勝ちは無いだろう。


 (どうするか……いざとなればオレが動くが)


 できればシドの奴に戦い方を見せたくない。

 というよりも何故あいつは参戦しないのだろうか、一応冒険者だろうに。


 「皆‼ ……次の攻撃に全力を懸けるぞ‼」


 そんなオレをよそに、戦場は刻々と変化していく。

 リドーの掛け声と共に四つの影が同時に動く。


 「【地針】‼」


 【風水師】の全力を込めた魔法。

 ダンジョン内の地面が針となりハイアーク・バジリスクに迫る。

 

 (だが、遅い)


 全魔力を持って放たれた地針だったが、そのスピードはあまりにも遅すぎた。

 敵は余裕の様子で針と針の間をすり抜けていく。


 その瞬間だった。


 「【影縫い】」


 一本の短剣がハイアーク・バジリスクの影に突き刺さる。

 【忍者】特有の拘束スキルだ。

 それだけでは終わらない。


 「【四肢結束】」


 奴の胴体を拘束するように四つの小さいな結界が抑え込む。

 もう、ハイアーク・バジリスクの体はびくともしないだろう。

 そんな奴に必殺のゴーちゃんの鉄拳が空気を鳴らして迫りくる。


 そしてその拳で魔核を砕かれ、ハイアーク・バジリスクは死に絶える……はずだった。


 「GYaaaaaaaAAAn‼」


 絶体絶命の奴が放ったのは咆哮……そして真空の風刃。

 放たれた真空の風刃は奴の胴体を、拘束された影すらも一緒に切り落とした。


 勝ったとでも言うように咆哮するハイアーク・バジリスク。

 そして残った体で前進し致命傷を避けようとして……立ち止まった。


 「ゴォォォォォオ!」


 その瞬間を逃さず、ゴーちゃんの鉄拳がハイアーク・バジリスクの魔核を叩き砕いた。

 死に絶えたハイアーク・バジリスクの様子に四人が歓声を上げる。

 格上のモンスターに勝ったのだから当たり前だろう。


 「なんとかなった……」


 オレもその様子を傍目に薄っすらと笑顔を浮かべるのだった。










◆◆◆◆◆



 彼は……致命傷を避けようと死力を振り絞った彼は安堵と共に見てしまった。

 目の前に立つ男の姿を。


 しっかりと感じ取ってしまった。 

 片手に剣を持つ男の本当の実力を。

 

 それ故に彼は死を受け入れる。

 「この男がいる限り、自分に勝ちは無かったのだと」


 出会ってしまった時点で、牙を剝いてしまった時点で自分の短い人生は終わったのだと

必殺のゴーちゃん……

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