義肢×少女×任務×同棲=共依存
―――今日は二百四十人目の殺人をお祝いして、ケーキを頼みましょう。
幸せそうな笑みを浮かべながら、神田湯野は山本美紀にそう告げた。
・
男が倒れ伏し、無事に立っているのは少女だけになった。
「湯野ってば、また益体も無い事を……」
敵対組織の戦闘員の頭に文字通り赤い花を咲かせた所で、昨夜の事を思い出した美紀は小さくため息をつく。
「前は二百三十人目で、その前は二百二十人目で。十人毎にお祝いしてちゃ世話ないわよ」
美紀の所属する組織が用意した高級マンションの一室で同棲している、同じく組織に所属する湯野は事あるごとに記念日を作ったり、祝い事をしたがる癖があったのだ。
やれ「出会ってから何日記念日」だの、「任務何回達成記念」だの、「今日も無事に生きて帰れたお祝い」だのと、枚挙に暇が無い。
正直に言えば、美紀は少々辟易していた。
「まぁ、湯野の気持ちは分からないでもないけれどね。明日の命があるかも分からない私達だし、せめて今日を楽しまないとやっていられないもの」
美紀が所属する組織はその性質の為、戦闘員の死亡率が非常に高い。
戦闘員として十二の頃から四年間生きてきた美紀ですら、今やベテランと呼ばれる域にあるほど。
人知れず死んでいった、あるいは死ぬよりも惨い目にあってきた同僚は数知れない。
そんな戦闘員の現状を知る湯野だからこそ、頻繁に祝い事を催して少しでも楽しい思い出を作ろうとしているのかもしれなかった。
「……うきょぽぽっぺぷぴ? ぱ、ぷぶっぶぼ?」
倒れていた戦闘員が突然に四肢を暴れさせながら奇声を発した。脳みそに寄生した植物の仕業だ。程なくして糞尿が垂れ流され、周囲に悪臭がたちこめる。
頭から生える赤い花が脳や内臓から生命力を吸い上げて、すくすくと育っていく。
色艶の良い血のような濃い赤色へ花弁が色づく様を見つめながら、美紀はスマートフォンを取り出し電話をかけた。
呼び出しはワンコールで終わる。
「……もしもし」
「終わりましたか?」
電話口に出たのは、組織のオペレーターだ。
「ええ。大した損害も無く」
「それは重畳です。処理班を向かわせますのでそのまま現場を維持して下さい、処理班が到着したら担当の者に報告をお願いします」
「口頭だけでいいの? 書類は?」
「書類は後日に提出して下さい。ひとまずは第一報で良いとの事ですので」
「了解。それじゃ」
通話を終えた美紀は、床に転がる赤い花を咲かせた死体達を踏み越えて進む。
彼らは秘匿された研究所にて、遺伝子改造された合成魔獣の研究に勤しんでいたマッドサイエンティスト達だ。
皆が人としてあるまじき悪行に手を染めた非道である。美紀は組織が命じるままに彼らを断罪し、その研究成果をも全て無に帰していた。
「……はぁ」
床に転がったパイプイスを引き起こして腰掛ける。学生服のポケットからタバコの箱を取り出した美紀は、中から一本取り出してライターで火を付け、ゆっくりと吸う。
「……こいつらがやってる事と、私達がやってる事。どっちも似た物同士なのに、何で争うかな」
化け物を作り出す敵対組織と。人間を化け物同然にして正義の執行者たらんとする組織。
そのどちらが正しいのか、美紀には分からない。美紀はただ、生きる為に任務をこなし続けるだけだ。
「まぁ、どうでもいいか。それより今日の夕飯は何かなぁ、ハンバーグがいいなぁ」
美紀にとって重要なのは、正義よりも悪よりも、それよりもまず、今日の夕飯の内容だった。
「ふわ……。もう一本吸おっかな」
吸い終えたタバコを死体にねじりつけて火を消した美紀は、結局処理班が訪れるまで六本のタバコを吸いながら待った。
・
「湯野ー、ただいまぁ」
「おかえり、美紀」
組織の車で送られ帰宅した美紀を待っていたのは、学生服の上からエプロンを下げた湯野だった。
「怪我は無かった?」
「へいき。今回の敵は弱かったし、楽勝だった」
「そっか、よかった。じゃあ、ご飯にする? それともお風呂が先?」
「んー…………」
お腹がぺこぺこでもあるが、激しく運動して汗をかいてもいるので風呂も捨てがたい。
うんうんと悩む美紀はどうしたものかと答えあぐねるが、美紀が答えるよりも早く質問した筈の湯野が答えた。
「お風呂が先ね」
「迷ったけどご飯……えっ?」
「だって美紀、タバコ臭いもの」
「あっ」
しまった。とばかりに美紀は袖に鼻元を寄せて臭いをかぐ。
たしかにタバコ臭いかもしれない。
「ちゃんと消臭スプレー借りたのに、なんで分かったの!?」
二十歳にもなってないのにタバコなんて健康に悪いし不良だしとにかく止めてと湯野に口酸っぱく諭されている美紀は、実は任務の度にこっそりタバコを吸っている。
そのたび処理班に消臭スプレーを借りて証拠隠滅を図っていたのだが、どうやらそれがバレてしまったようだった。
慌てる美紀に、湯野は微笑みながら種明かしをする。
「分かってないわよ。カマかけてみたの」
美紀はぽかんと口を開く他なかった。
「…………ぅぇ。意地悪いよ」
「意地が悪いのは美紀の方。あんなに止めてっていったのに、また吸って。私に言う事があるんじゃない?」
微笑み続ける湯野。その瞳は笑っていない。
「…………ごめん、もうしない」
「本当に?」
「本当に、しない」
「じゃあ、そのポケットにしまってあるタバコを頂戴。始末しておくから」
「うぅっ……」
「早く」
湯野の圧力に屈した美紀はおずおずとタバコを引き渡す。
「美紀が隠した奴も全部」
「か、隠してなんかないよ」
「ふぅん? …………本棚の裏に三箱。勉強机の棚の中の二重底にワンカートン。冷蔵庫の裏に一箱」
「うぅっ!」
美紀が涙ぐましい努力で隠蔽したタバコの場所は湯野に見破られていた。
どうやらその全てを処分するタイミングを湯野は見計らっていたらしい。
湯野が勝手に処分するのではなく、美紀にその存在を把握していると伝えた上で自分に捨てさせる腹というのがまた恐ろしい。
湯野の怒りは、大本気だった。
「捨てるね?」
何よりも恐ろしい笑みが美紀を貫く。
「……はい」
美紀は黙って頷くしかなかった。
・
「さ、脱ぎ脱ぎしようね」
「ちょっと、途中までは自分で出来るってば」
美紀は湯野に半ば無理やり手伝われながら学生服を脱いでいく。
湯野の妙に手馴れた手つきで速やかに衣服を剥ぎ取られた美紀は、鏡の前にその裸体を晒す。
「……侵食。進んでるね」
「うん」
健全な五体。とは決して言いがたい美紀の裸体がそこにあった。
両手両足の付け根は、緑色に変色した毛細血管がまるで木の根のようにびっしりと浮き出ている。
変色した血管は美紀の身体の中心、心臓に向けてその根を進ませているように見えた。
不思議な事に四肢だけは健康的な肌色だが、それには理由がある。
「外すね」
「うん…………っぁ」
鏡の前で、湯野が美紀の右腕と右肩をがっしりと掴み、そして力を込めて引き抜いた。
―――そう、美紀の四肢は、全てが義肢だった。
組織の科学力の粋が結集された、人体の動きを完全にフィードバックする高性能義肢。
それと、信頼の置けるパートナー。
その二つがなければ、美紀は普段の生活すらままならない。
「ふぅっ、んっ。あっ……」
粘性の高い液体音を立てながら、美紀の右腕が引き抜かれていく。
美紀の右肩部分には丸い穴が開いていて、右腕にはそこに丁度良く嵌る棒がついている。
機械の部品のように凹凸のあるそれらには、癒着用の保護ジェルがたっぷりとまとわり付いていた。
「左も、お願い」
「うん」
湯野は続けて美紀の左腕も同じように引き抜く。
引き抜かれた義肢は時折操作系統の異常からか、時々打ち上げられた魚のようにびくびくと跳ねた。
「足も外すね」
洗浄・メンテナンスチャンバーに義肢を投入しながら、湯野は手際よく美紀の四肢を外していく。
「ふぁっ……。ちょ、ちょっとゆっくり、お願い」
「くすぐったかった? ごめんね、美紀」
四肢が外される瞬間の美紀は特に感覚が敏感だ。
「はい、終わり。……それじゃ、お風呂入ろうね?」
とうとう全ての義肢が外される。
もうこれで美紀は、特別な能力を行使する以外は殆ど何も出来なくなった。
「いっつも悪いね、湯野。迷惑かけちゃって」
手の無い美紀は、思いの上では頭をぽりぽりと掻きながら笑って言った。
「美紀の為だもん。迷惑なんて、思ってないよ」
そんな美紀の前で、湯野は服を全て脱いで美紀を抱きかかえて浴室へと向かう。
「(……軽い。まるで、子供みたい)」
四肢を失った美紀の身体は驚くほど軽い。
湯野はこの時の美紀を抱きかかえる度に、言いようの無い憐憫と暗い感情を覚える。
「とりあえず先にシャワーしちゃうね。熱かったら言ってね?」
「んー」
抱きかかえた美紀を背もたれの付いた椅子に腰掛けさせ、温度を調節したシャワーを浴びせる。
気持ちよさそうに目を細めた湯野は、美紀に任せるがままに身体を委ねた。
「かゆいところはございませんか? お客様?」
「ないでござる。よきにはからえ」
「ははぁー」
湯野は美紀の頭を丁寧に、かつ優しく洗う。
それでいてシャンプーは当然の事、トリートメントもしっかりと行う。
空いた時間は有効活用して、たっぷりとスポンジで泡立たせたボディーソープを美紀の肌に滑らせていく。
浴室での湯野は、真剣そのものだ。
湯野が美紀の身体で洗ったことの無い場所は、ひとつとしてない。
「……そこは、優しくお願い」
美紀が顔を赤らめた。
「うん」
湯野は真剣な表情で、ただ頷く。
「―――次は湯野の番ね、私待ってるから、ゆっくりでいいよ」
「大丈夫、私髪の毛短いし、それにあまり汗かいてないから」
美紀の身体を洗い終えた湯野は、ようやく自分の身体を洗い始める。
かける時間は湯野と比べると大分短い。
それは単純に湯野がものぐさだからというわけではなく、美紀が湯冷めするのを恐れて湯野が必要最低限の時間で事を済ませようと努力しているからだ。
「終わり。……美紀、持ち上げるよ?」
「ん。落とさないでね?」
「落とさないよ、絶対」
身体を洗い終えた湯野は美紀を再び抱きかかえ、湯が控えめに張られた湯船の中にゆっくりとつかる。
優しく抱きかかえた美紀は、湯野の膝の上にちょこんと座る。
こうしてようやく、二人は一緒に「はぁー」と一息つくのだ。
「……今日の夕飯、何?」
「カレー。嫌だった?」
「んーん。ただ、ハンバーグがよかったかなって」
「言ってくれればそうしたのに」
湯野は美紀の首元に顔を埋めながら囁く。
くすぐったそうに頬を寄せた美紀は、目を細めながら答えた。
「うん。湯野の事だから、言えば多分本当にそうしてくれたんだろうけど、でもそうじゃないんだよね」
「どういうこと?」
湯の中。密着した二人の鼓動は二重の音を奏でる。命の音だ。
湯野は美紀の鼓動を聞く事で、今日も彼女が生きている事を実感し。
美紀は湯野の鼓動を聞く事で、自分のそれと比較したら、だんだんと終わりの日が近づいている事を実感する。
「夕食のメニューが分からない時に、『あぁ、あれがいいなぁ』って思って、実際に帰ってきた時、思った通りの夕食があるのが嬉しいから」
「……そういうものなの?」
「そういうものなの」
「そっか」
「うん、そう」
他愛ない会話が続く。
二人の時間は穏やかに過ぎていく。
かけがえの無い、大切な時間だ。
・
「あーん」
「あーん」
湯野がカレーと白米を掬ったスプーンをナプキンを首にかけた美紀の口元に差し出した。
「あむっ」
美味しそうにぱくついた美紀は、ゆっくりと咀嚼する。
「美味しい?」
「んー…………百点満点中、百二十点。ウチのパートナーは料理上手すぎて困るねー、もうコンビニ弁当なんて考えられない」
「ふふ、ありがと」
にこやかに食事を続ける美紀の四肢は未だ不在だ。
洗浄を終えた義肢は現在メンテナンス中のため、少なくとも夜が明けるまでは緊急時を除き装着できない。
その間の美紀の世話は、全て湯野の仕事である。
「ごめん、お水頂戴」
「はいどうぞ。ゆっくり飲んでね」
水の入ったコップには、美紀が飲みやすいように長いストローが添えられている。
「んくっんくっ……ぷはぁ」
「次も食べる?」
「うん、あーん」
「あーん」
カレーの盛られた皿は二つあるが、湯野は自分の分にまったく手をつけていない。
美紀が食べ終えるまで、食べないつもりでいるのだ。
「口の端がちょっと汚れてる。拭いてあげるね」
「いいよ食べ終わってからで。どうせ結構汚れるんだし」
「そんな事言わないで、ほら」
「むぐ」
献身的な湯野の甲斐甲斐しい世話は続く。
「よし、綺麗になった」
「もう……」
そんなやり取りが何度か続いた後、長い時間をかけて美紀はカレーを食べ終えて、その後湯野も冷めたカレーを食べ終えた。
TVで益体もない番組を視聴し時間を潰す。
落ち着いた頃合になると、湯野は冷蔵庫から小さなケーキを取り出した。
「二百四十人目の殺害記念ケーキ、食べる?」
「……なんか一月に二回くらいのペースでケーキ食べてる気がするんだけど、太りそう」
「美紀は運動してるから太らないでしょう?」
「そんな事ないけどなぁ……最近おなかまわりが、ちょっと気になるような」
「じゃあ、食べないの?」
「食べる」
特に珍しくも無い苺のケーキだ。
蕩けるように甘いそれを、二人は時間をかけて食べた。
「ねえ、美紀?」
「なーに、湯野」
「このケーキ。甘い?」
「うん」
「そっか」
夜は更けていく。続く会話は無い。
美紀はもう舌が甘さを殆ど感じなくなってしまった事は黙っていたし。
湯野もその事には直感的に気づいていたが、あえて何も言わなかった。
・
歯も磨き終えて寝る準備を済ませた二人は、共に同じベッドで寝る。
それは合理的な判断の上で二人が決めた事だ。
お互いに同じ場所で寝た方が、夜間美紀が催した時でも湯野が対応しやすいからだ。
「おやすみ、湯野」
「おやすみ、美紀」
顔を見合わせた二人は、それ以上何も言わずに瞳を閉じた。
「…………美紀」
二十分ほどして、湯野が小さく囁いた。
美紀に反応は無い。―――実際には、無い振りだ。それには当然湯野も気づいている。
「ごめん。ごめんね。ごめんね」
うわごとのように謝罪を繰り返す湯野は、美紀のパジャマを脱がせ露になった痛々しい腕の付け根を凝視する。
「私のせいで、こんなになって、ごめんなさい。私が、あんな失敗さえしなければ、美紀は、美紀はまだ、健康で、いられたのに」
湯野は美紀のそこに、舌を這わせた。
緑色の根が張るそこを癒すように、ちろちろと舐る。
ぴちゃぴちゃとした水音が一室に響く。湯野の唾液でコーティングされたそこは、闇の中でてらてらと光った。
「わかってる。美紀はもう、あと一年も持たないんだって」
ぽっかりと明いた義肢装着用の穴。湯野はそこに舌を突き入れて舐め回した。
「くっ、んふっ……ふっ……」
神経認識端子が異質な人体組織の接続を感知し、肉体へ快感としてフィードバックする。
その結果美紀は、くぐもった声を漏らした。
「私、嫌だよ。美紀が死んじゃうなんて、嫌。ねぇ、もう組織なんか抜けて、山奥で静かに二人で暮らそうよ。私、ずっとそこで、美紀と一緒にいたいよ」
湯野の痛切な訴えを美紀はしかと聞き届けながらも、しかし頑として答えるわけにはいかなかった。
「ふぅっ……んむっ……ぁっ……」
美紀だって出来る事なら組織なんて抜けたい。
だが前提として、組織を抜けて無事に生きている人間は一人としていない。
美紀は組織の戦闘員としては比較的上位に位置する実力者だが、美紀より上位の能力者には勝てるビジョンが一切浮かばない。
彼ら、彼女らが追っ手として美紀達を襲ってきた場合、たちどころに惨殺されるのは目に見えている。
美紀もまた、裏切り者をそうやって始末してきたのだから。
美紀は湯野をそんな目に遭わせたくないないのだ。
「美紀……大好き……大好きなの……」
とうとう湯野は美紀の身体を抱き寄せた。
そして、ついばむように美紀の腕の付け根に口付けをする。
「……わた、し……も……」
聞こえるか聞こえないか。そんなあるかどうかも分からない答えを、美紀は湯野に返す。
「死なないで……美紀……お願いだから……神様……」
涙を流しながら、美紀を抱きしめる湯野。
「…………」
"死なないよ"。
美紀はそう答えられたらどれだけ良いかと思った。
明日をも知れない自分達だからこそ。
死なない。とは軽々しく口には出来なかった。
その代わりに美紀は心の中で思う。
自分が生きて居られる間だけは、湯野を誰にも傷つけさせはしないのだと。
・
「おはよう」
「ん…………おはよう」
目覚めの悪い美紀が遅まきながらに目覚めると、既に四肢の義足はしっかりと装着されていた。
痛覚遮断用の保護ジェルも満遍なく塗布してあるのか、ジェル切れ特有の激痛も無い。
「寝てる間に装着してくれたんだ、ありがとね」
「どういたしまして。朝ごはんできてるよ?」
「ん。顔洗ったら食べる」
四肢の感触を確かめた美紀は軽やかに朝の支度を済ませる。
「いただきます」
「いただきます」
そして、自分の手足を使って自分で朝食を済ませた。
「あー、学校面倒臭いなー」
「そろそろテスト週間でしょ? ちゃんと勉強してる?」
「いやぁ、あんまりかなぁ」
「……勉強、見てあげよっか?」
「やー、流石に学年一位の湯野サンにそこまで面倒見て貰っちゃうと、私としても立つ瀬が無いと言いますかなんと言いますか」
「あのねえ美紀。そんな事言ったって学年最下位をうろうろしてるのはもうちょっと危機感覚えた方がいいと思うの。通知表も悪いんでしょ? 将来進学するにしても就職するにしても、今のうちに頑張っておかないと」
「えぇー……」
制服に着替えた二人は一緒に部屋を出て、鍵をかけて、一緒に街中を歩み、電車に乗り、同じ高校に通学する。
何気ない、何でもない学生らしい日々が始まる。
何時その穏やかな空気が破られるかもわからないが。
少なくとも、今この時を邪魔するものは何も無い。
・
世に知られざる闇の中に生きる彼女達は。
今日も生を謳歌していた。
*組織って何?
コ○ンのお酒の名前の人たちが所属してるような組織の事だよ!
身寄りの無い子供たちに違法薬物を投与して特殊能力を持たせ、世の平和を乱す輩を秘密裏に始末する影の正義執行者だよ!
やってる事は普通に外道だけどね! どっちが正義か分かったもんじゃないね!
*美紀の能力って何?
《種(seed)》だよ! 体内で生成した植物の種を義肢を通じて指先から弾丸のように発射するんだ!
体内に種が打ち込まれると、種は人肉を糧に急速成長し宿主を吸い殺すよ! 咲いた花は赤くてとっても綺麗なんだ! 加工すると治療薬にもなるよ! 皮肉だね!
ちなみに、能力の副作用で日に日に美紀の身体は植物化しているよ!
もってあと一年したら、完全に樹木と成り果てて、ただ種を産み続けるようになるよ!
慈悲も救いもないね!