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超能力系JKによる悪駆除計画  作者: 消滅太郎
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五十嵐龍斗~相似的両極性兄妹~

 防醒対象者を狙った暴行事件。通称『首輪狩り』。


 その『首輪狩り』が今、立川の若者を中心に流行りつつあるらしい。


 日本だとは思えない、なんとも物騒な世の中になったものだ。





 物騒と言えば、夜の公園というのはごくごく稀に不良の溜まり場になったりする。


 俺が暮らす立川という街でもその現象は頻発するようで、本当にうんざりする。


 公園内に設置された電灯だけが暗闇を照らす、普段であれば人の気配がほとんどない寂れた公園で俺は六人の若者と会話をしようと試みている最中だ。


 四人は地面に突っ伏して倒れており、一人はしゃがみこみ、怯えきった様子で俺を見ている。このしゃがみこんでいる少年は防醒対象者。全身に擦り傷のような怪我をしている。恐らくは今回の『首輪狩り』の被害者。


 そしてもう一人は俺の目の前で苦悶の表情を浮かべている。大人げなく何発も殴ったから当然のことか。


 この公園は立川という半端な都会の付近に存在する公園にしては人気がなく、周辺は閑静な住宅街に囲まれている。



 そのおかげで警察に通報されるような心配も多分ない。



 砂場とブランコ、鉄棒にベンチ。公園にある物と言えば何かと問われたら出てくる物が配置されており、そこそこな敷地面積を持っている。



 それがここ、こばと公園だ。


 

 

「ぐ……ぁう……」


「お前、立川南高校の生徒さんだよな? その制服。じゃ俺の後輩にあたるわけだ」


「離せ……よ……おっ……さん」


「おっさんて。俺まだ23なんだけど?」



 俺は見知らぬ金髪不良高校生の胸倉を片手で掴んだまま尋問を続ける。これは正当防衛。言ってしまえば不可抗力に基づいた暴力だ。



「どうしてこんなことすんだよ? このガキ、見たところお前らより年下だろ? イジメ?」



 しゃがみこんでこちらを見ている少年を目線で指し示しながら言葉を紡ぐ。


 少年の首には薄っすらと青白い光を反射させる防醒チョーカーが装着されている。



「あんたにゃ……関係ないだろ」


「質問に答えろよ。もっと怪我してぇのか?」



 相手を怯えさせるために、出来る限りの冷たい口調で言い放つ。


 金髪くんは観念したのか、怖くなったのかは知らないが俺から目を背けながら弱弱しく口を開いた。



「……そいつが、人外だからだよ」


「は? もっとわかりやすく言えよ。俺にはこいつが化け物になんて見えてねぇんだからさ」



 そう言って、恐らくはただ首輪をしているという理由だけで理不尽な暴力に曝された少年を見た。


 少年は俺にさえ怯えきっている、というより俺のことを恐れているのか小さく震えながらこちらを見ている。


 そんなに狂暴そうな容姿はしてないつもりだが。


 でもまぁ普通に考えたら大の大人が高校生をボコボコに殴ってたら恐いか。 



「首輪をしてるからだよ」



 数秒の間を置いて金髪くんが口を開いた。予想通り、斜め上にいく気配のないテンプレートな返答だ。



「ほうほうなるほどな。それはつまり巷で噂の首輪狩りってやつ?」



 それでもまだ、言質をとるには至っていない。こちらが求めている言葉をなるべく自発的に口に出してもらうべく、分かり易く誘導する必要性があった。



「首輪狩りだよ! 悪いかよ!」



 唐突に”ヤケクソ”という状態を体現したかのような過剰反応を見せる金髪くん。


 彼の一言のおかげで一応は大義名分は完成した。これ以上こいつと話すのは時間の無駄になるのかもしれない。


 しかし俺は敢えて何も言わず、彼の言葉を受け続けることにした。



「気持ち悪いんだってそいつ! 首輪をしてるからってだけじゃない! なんか、教祖様がどうとか、天罰が下るとか!」


「教祖? 天罰?」


「そう! キモイだろ? ただでさえ人外だってのにその上宗教じみた言葉を連発するんだよそいつ!」



 金髪くんの言葉に呼応するかのように、周囲で倒れていた(もしくは気絶をしていたフリをしていた)他の不良高校生達も口を開き始めた。



「俺等だってな、むやみやたらにこんなことしてるわけじゃないんだよ!」


「いじめられている側にも理由があるんだ!」


「あんたがしていることだってただの暴力だ! 俺達と変わらない!」



 彼らの言葉を受け、憤怒という感情に心が支配されるのを感じる。公園内を照らすたった一本の街灯の光がそのタイミングで点滅し始める。


 予想外。それでいて特筆すべき必要のないほんの僅かな光景の変化。


 そのおかげで俺は一瞬にして冷静さを取り戻した。というより、自分はただこいつらに辟易していただけだということを思い出した。


 大丈夫。怒ってなどいないのだから。



 一呼吸おいて、言葉を紡ぐ。


 


「俺はいいんだよ。お前らを殴る理由があるからな」


「り、理由って……」


「むかつくからです」


「それは理由じゃな」



 





――その後のことはあまり覚えていない。


 勿論、彼らを病院送りにするまでは痛めつけていないし、二度と『首輪狩り』なんて馬鹿なことをしないように念を押しておいた。


 アフターケアは完璧だ。




「あー、眠い。12時間は寝たはずなのに」



 眠気をかみ殺すための大きな欠伸をして、注文したチーズバーガーを頬張ろうと俺はテーブルに手を伸ばした。


 大手ファストフード店の三階席で昼食をとる、というなんとなく高校生っぽい土曜日。実際は二十三歳のニートだけど残酷な真実なんて無視するに限る。


 冷房がガンガンに効いた涼しい店内の大きなガラス窓を通して、尋常ではない温度になるまで熱されていそうな真夏のアスファルトを見下ろす。


 水を撒けば一瞬で蒸発して小気味のいい音を立てそうだ。流石猛暑。流石地球温暖化。



「こんなクソ暑い土曜日に遊ぼうだなんて馬鹿だよなあ、あいつら」



 あいつら、とは言うが、俺は当然友人や知人を指してその言葉を選んだわけではない。


 多摩モノレール立川駅南口を出てすぐの場所にあるファストフード店からは、その南口からぞろぞろと出てくる人の波を一望できる。


 窓際の席だから、尚更。


 というわけで南口から放出される大量の人の波のことを”あいつら”と表現したのだが、何故だか俺の目の前に座る妹様は不満そうな顔で俺を睨んでいる。



「ああ、今のは別にあれだぞ? こんなクソ暑い日に俺をお前の買い物に付き合わせるな、って意味で言ったわけじゃなくて」


「知ってる」



 まだ言い訳の途中だったのだが、そもそも言い訳をするポイント自体に誤りがあったらしく、俺の妹――玲奈の声が食い気味で俺の言葉を遮った。



「……左様ですか。じゃあ何でムッとしてるんだよ。ここにきてずっとその調子じゃん。流石に気が滅入るんだが」


「こっちの台詞です。私が兄さんにムカついてる理由くらいさぁ、そろそろ察せるでしょ。これで何度目?」


「ん? ああ、教育のこと?」


「はぁぁぁぁぁ……」



 玲奈は右手で頭を抱えながら深い深いため息をついた。どうやら今日は本気でうんざりしているご様子だ。


 頭を抱えた右手で栗色のセミロングヘアをくしゃっと無意識のうちに握っている。これは玲奈が怒っているときの癖の様なものだった。



「あー、髪が痛むぞ」


「誰のせいだよ……。いい?」



 これから説教をするということを示唆するために玲奈は大きな瞳で俺を見据えた。


 兄妹だからわかる。かなりキレてるこの子。




 いつだって口調は淡々としており、表情に感情を露見させることは滅多にない。


 そして俺に対して容赦がない。遠慮を知らない。涼しい顔をして全力で俺という存在を否定する。


 それが五十嵐玲奈という我が妹の大まかすぎるプロフィールだ。




「兄さんがしてる”それ”は教育とは言わない。ただの犯罪行為だよ。何度言えばわかるんですか」



 昨晩、五人の高校生に対して行った(自称)教育が、玲奈には既にばれていたようだ。


 どういう情報網を駆使して昨晩のことを知ったのか、おおよそは検討はつく。



 恐らくは俺が自分の口で伝えてしまったのだろう。



 頭に血が上ると判断能力と意識、そして記憶に強い鈍りが生じる、という自分自身の厄介な体質を俺は自覚していた。


 『首輪狩り』という馬鹿丸出しの差別行為を行う若者を教育、粛正したのは今回が初めてではない。



 毎回毎回玲奈には何故かバレており、どうして知っているのかと聞くと玲奈は毎回「兄さんが自分で自白したんでしょ」と答える。


 このことから、意識と記憶が曖昧な状態のときに玲奈に話してしまっているのだろうという結論に至った。



「いくらなんでも犯罪行為は人聞きが悪すぎるって」



 と必死の反抗をするも、0・5秒も経たずに俺の言葉を撃ち殺すために玲奈は口を開く。



「暴行罪、脅迫罪、器物損壊罪。素人がぱっと思いつくってレベルで考えてもこれだけの罪を犯してるんだよ兄さんは。それに人聞きが悪いっていう言葉はね、実際には悪評が立つような悪事を働いていないまともな人間だけが発していい言葉なの。兄さんにはその権利がない」


「相変わらず面倒な事をペラペラと……3行でまとめてみろ」


「兄、犯罪者、不良気取り、クソニート、根暗、軽蔑、」


「すげぇわかりやすいけど、すげぇ心外だし3行どころじゃない」



 涼しい顔をして罵詈雑言を浴びせる妹を見てやはり俺達は似たところがあるのかもしれないと改めて実感せざるを得なかった。


 そのことをこいつに伝えると全力で否定してくるだろうけど。



「お前さぁ、これから俺を荷物持ちとしてこき使うんだろ? そんな言葉遣いしちゃっていいわけ?」


「いいでしょ別に。警察にはこの事黙ってあげてるんだから」


「警察っておま……。いや待てよそれとこれとは別問題だろ」


「じゃあ通報しようか? それでもいいんだよ? むしろそのほうがいいのかもしれないね」 


「すみませんでした。俺が悪かったです」


「うんうん。その通り」



 玲奈は少しだけ満足げな顔をして、バニラシェイクをストローで吸い上げる。



「というか、お前だって俺の秘密を利用して俺を荷物持ちとして濫用してるじゃねぇか。全力で俺を止めようとしてないあたり、共犯者だからなお前も」


「一緒にしないでほしいんだけど?」


「事実だろ」



 俺の言い分にカチンときたのか、玲奈はバニラシェイクのカップをテーブルに戻し、腕を組んで鋭い視線をこちらに向けた。



「どうせ言っても聞かないのなら、解決方法が見つかるまでは利用する方が賢いって思うだけだよ。通報なんてしたら私も風評被害に遭いそうだし、おバカな兄さんに対して言葉だけでの説得なんてあまり意味を持たないだろうし」


「おバカって……俺一応お前より八年も長く生きてるんだが」


「私より八年も長く生きてるくせにこんなことしてるからおバカなんでしょ。若気の至りって年齢でもないよ兄さんは。全く、これだからゆとりは」


「そ、そのうち更生するから大丈夫だよ」


「どもってるし……。それに私ね、昔は悪だったとか偉そうに語る人のことが超絶嫌いなの。根っこは犯罪者ですって自白してるようなものでしょ? 兄さんにそうなってほしくはないなぁ私」


「いや、言い過ぎだってお前……」


「言われるのが嫌なら暴力なんかに陶酔してないで就職してまともに生きてほしい限りだって話です」


「ああもう、わかったよ」



 わかってないくせに。とでも言いたげな疑心暗鬼に満ちた表情で俺を一瞥した後、玲奈は自身のスマートフォンを弄り始めた。



「今日はお洋服とか、見たいなぁ」



 今までの説教がなかったかのように、コロッと別の話題を持ちかけてきた。先程、言葉での説得はあきらめたと言っていたのは玲奈の本心なのだろう。


 そして、普段は氷のように冷たい表情ではっきりズバズバとものを言う玲奈だが、ショッピングだとかこいつの趣味である音楽鑑賞の話題になると現役女子高生らしい明るい顔つきになる。


 常にこの感じを保っていてほしいものだが。と俺が言うと多分またいつもの軽蔑に満ちた目で色々と苦言を呈されるだろうから自重しておく。



「洋服か。土曜だってのに学校の制服だもんなお前」



 冗談交じりにそう言った直後、俺は少々後悔した。こいつはあんまり冗談の通じない奴だった。



「別に、普段着にバリエーションがないってわけじゃないからね。今日は午前中に学校に行ってたから制服を着てるだけで」


「知ってるってば……」



 俺は半ば呆れた様に言い捨て、喉を潤すために水を飲み干した。



「それに、どうせならこの防醒チョーカーがお洒落に見えるようにしたいの」



 そう言って首元の黒い首輪に手をかけた玲奈は普段と変わらない落ち着いた表情をしていた。


 玲奈は我が妹ながら割とメンタルが強く、五年前に防醒対象者として指定された際も動揺を見せず、生活内容にもほとんど変化が見られなかった。


 ただ一つ変わったことと言えば、その頃から俺に対する当たりがきつくなったことくらいだろうか。



「首元の黒を映えさせたい……か。ファッションのことは俺にはよくわからん」


「大丈夫。兄さんみたいに毎日だっさいジャージ着てる人なんて最初からあてにしてないし、店員さんに聞く予定だから」


「ほんと一言多いぞお前」


「かもね。兄さん以外にはペコペコしてるから結構ストレス溜まるの」


「俺で発散するな」



 ここ最近は特に顕著だ。まるで呼吸をするかのように言葉の刃でめった刺しにしてくる。


 兄妹だし、別に気にしてはいないが。傷付くこともあるんだぞ一応。と例の如く心の中で呟くだけで留めておく。



「そろそろ行くか?」


「ん。そだね」



 トラッシュボックスに二人分のゴミを捨て、俺達は下の階へ下るために階段へ向かった。


 土曜日の立川。


 多くの人間が雑多に入り乱れ、休日とはいえ忙しくなるであろうことが目に見えている日。




「本当に暑いな」


「そりゃ夏だからね」




 街全体を焦がす太陽の光がわけもなく不吉なものに見えた。

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