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トケナイ氷  作者: 朱手
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第V章戦前のナイト 14話入国

長い間更新してなくてすみません。

これからも頑張るので、よろしくお願いします!

 今、サーは道というにはあまりに大雑把な砂漠の上を歩いていた。


 氷で出来た髪は少しずつ溶けていき、毛先に雫が垂れ短髪になっていた。


 何故サーがこんな氷の国から遠く離れた場所にいるのかというと、以前シードと交わした約束を果たすためだった。

 その約束というのは、砂の国に使者として潜入し、砂帝の鼻を明かすことである。

 砂帝が提供してくれた医薬品のお礼をシードが使者のサーに持たせると念のためにと書状も渡した。

 そしてそのお礼の品とは“氷ノ血ノ指環”である。


 サーにとってこの任務はまだ早い。

 言わばこれはスパイ行為である。スパイ行為は大きな働きを持つが、その半面危険性も伴う。

 スパイ行為の失敗は自身の死だけでなく、最悪の場合には戦争となり多くの国民が犠牲になる。

 それ故に普段はスパイ専門のナイトか、上級ナイトがやることなのだが、シードはあえてこの任務をサーに任せた。

 この任務に割く人材が他にいないというのもあるが、シードはそれ以上に自分の勘に賭けてみたくなった。


 そういうわけでサーは今、砂漠を歩いていた。

 ただひたすらに砂の国の方向へ歩いていた。

 サーの瞳には一切代わり映えのしない砂漠の景色が映り続けたが、サーの頭の中にはもうだいぶ前からその景色は入っていなかった。

 そのまま変わらぬ景色が続くと思っていた。

 だからこそ今のサーは気が抜けていたのかもしれない。


 サーの背後で砂が少しずつ盛り上がる。

 さらさらと砂が流れ落ち、黒い骨ばった体が次第にあらわに成り始める。

 それは犬のような姿をしているが細長い蛇が大量の束になった尻尾を持っているのを見ると、それが魔獣だというのがすぐにわかる。

 サーに気付かれぬように慎重に近付く。

 射程範囲に入ると姿勢を低くし敵の肩口目掛けて跳びかかる。



「―ルプス―」


 金属と金属がぶつかる音がなる。

 サーはその手に氷ノ血ノ剣を握り、魔獣の首をはねようと下から上へ剣を振り上げる。

 だがその魔獣の前足は鉄で出来ており、サーの剣撃を防ぐ。

 さらに魔獣は相手の力を利用し間合いをとると、低い唸り声でサーに威嚇する。

「なんだこいつ?前足の義足の足音で気付けたから良かったけど、なかなかに厄介な前足だな。」

 両者共ににらみ合い様子を伺っている。

 するとサーの足下から4匹の蛇が顔を出し、足に絡み付く。

 どうやら魔獣が尻尾の蛇を地面に潜らせていたようだ。

 サーの身動きを封じた魔獣が突進してくる。

 しかしサーは冷静にスペルを唱える。

「 ―我が従士と結ぶ

一つの契約

“肉”

“肉”よ

我に舞う肢を齎せ

ルプス―」

 先程と似たようなスペルだが、前のは魂の解放、今のは肉の解放である。

 足に絡み付いている蛇が凍り付き、それは次第に本体の方にまで延びていく。

 魔獣は自らの尻尾を切り、氷の進行を防いだ。

 しかしその行動が大きな隙を生んだことをサーは見逃さなかった。

 魔獣頭上からの突きを放つ。

 だが残った尻尾を巧みに使い、軌道をずらした。

 氷ノ血ノ剣はサーの手を離れ魔獣の肩に刺さっていた。

 魔獣は苦い顔をすると、ゴキゴキッと嫌に鈍い音をたて姿を変える。

 片方の前足を人の腕のようなものにする。

「ヒトッ!?」

 サーはその変化した腕に驚く。

 それもそのはず魔獣は一度喰らった肉の記憶を自由に呼び出せるようになるが人を喰らった魔獣など聞いたことがない。 

 そしてその腕がサーの腹をえぐるようなパンチを繰り出し、サーは吹き飛んでしまう。

 氷ノ血ノ剣は未だ魔獣の肩に刺さったままだ。

 魔獣はそれを抜こうと柄を掴む。

「―我が牙

“氷ノ血ノ剣”よ

主を思い出せ

ルプス―」

 サーの唱えたスペルを聞いた“氷ノ血ノ剣”から冷気が放たれる。

 魔獣は慌ててそれを抜き捨てる。

 手のひらと肩が凍り付き、もうまともに戦える状態ではなかった。

 魔獣は自分の姿を見ると、再びあの嫌な音を響かせ姿を変える。

「 −地を賁るは

  千の影

 月にうつるは

   万の牙

  敵を滅せよ

 “千狼万牙”−」

 サーは無防備な魔獣に追い討ちをかける。

 しかし魔獣は先に姿を変え、氷の狼全てを壊す。

 今の姿は前足の爪と後足の筋肉が異様に発達している。

 サーは氷ノ血ノ剣を拾うと、魔獣と向き合う。

 魔獣は片手で砂をすくい巻き上げると、魔力の篭った砂煙が立ち込める。

 サーは視界が奪われ、砂煙の外へ出る。

 まだ魔獣はその砂煙の中にいるようだ。

 「 ―彷いの氷

   “流氷”―」

 サーは大体の予想で魔法を放つが手応えを感じられない。

 風が吹き砂煙が消える。

 遮るものは無くなり全てがあらわになるが影の一つもない。

 もうそこにはいなかった。

 ただ大きな穴だけがあった、そしてそれに砂が流れ入り閉じようとし始めていた。


 もう追えないのは明白だった。

 それにあの魔獣は今回の任務とは無関係だ。

 追う必要はない。


 少し悔しいが、サーは魔力を使い疲労した体を砂の国に向け、歩いていった。


 その後、サーの砂漠の旅路は問題無く終わった。

 今サーは砂帝、いやカナスのいる王宮の門の前にいる。

 そしてその門はとても一人で開けられるような大きさではないので、ノックしてみる。

 すると、門の除き穴が開く。

「一体何のようだ?」

 目しか見えないが、その顔は強面だということは容易に想像できる。

「一体何のようだ!」

 サーが何も言わなかったので、不審に思ったのか言葉が強くなる。

 慌ててサーはシードからの手紙をみせる。

「氷帝より砂帝殿に先日戴いた薬の礼に遣わされた。」

 門番はサーを見てからサーの周りを見た。

「お前一人でか?」

「はい。」

 門番は相変わらず不審に思うが、氷帝の遣いを追い払う訳にもいかず、門を開けた。

 サーは砂の国内に入った。

 カナスの庭に。

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