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トケナイ氷  作者: 朱手
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第V章戦前のナイト 13話・唯一人

 この何も無い空間において、何もしないサーだけが唯一の存在。


 でも先ほどからサーの目には別の存在が写っている。

 何もしないサーが。

 つまり今見ているサーのほうが偽者か?

 でもサーも何もしていない。


 矛盾。

 サーは矛盾していることに気付く。

 サーは何もしていない。

 つまり、サーは瞬きをしないために目を閉じてたはずなのに、いつの間にか目を開けていた。


 サーはいつ目を開けたのか、と悩む。


【お前は目は開けてねぇよ】

『誰だ?!』

 どこからか解答が現れる。

 それに対しつい声を張り上げてしまった。


【名前か?……グフッ】

 声は必死に笑いを堪えるが。

【ギャハハ、名前はお前の母親にでも聞きな!!】

 堪えられなかったようだ。


 突然の発言にサーは驚く。

『母さん?』

 サーは声の主が意味のない挑発をしているのだと思った。


【あぁ、そうだ、お前を産んだあの女だ。

まあ、今はそんなことより、お前自身のことを気にしたほうがいいんじゃねえか?】


『どういうことだ?』


【やっぱり気付いてねぇか。

お前、肉から離れちまってるぞ】


『えっ。』

 サーはその声の言っている意味が理解出来ない。

 その様子を見た声は呆れたように半笑いで言い直す。

【今のお前は魂と半分の力しかないぞ】


『じゃあ、目の前にいるあいつは?!』


【お前だ。っても、肉と半分の力だけの抜け殻だけどな】



『……。

早く戻ったほうがいいよな?』

 現実味のない事象にくだらないことを聞く。

【あぁ、そうしないと死ぬぜ。】


 サーの魂が肉に触れるか触れないかの瞬間、すごい勢いで引き戻された。


「……戻った。クッ!!」

 妙な身体の強張り、筋肉の収縮に襲われる。

「な、なんだ!?これはどういうことだ?!」

 返事が無い。

 それもそのはず、なぜならこの空間にはサーしかいないのだから。

 当然といえば当然。

 しかし至極異様。


 動かすと激痛がはしるので、仕方なしにサーが、じっとしていると急に楽になる。

【バカか?!また別れ始めてるぜ!!】


『おい!お前はダレなんだ!!』

【………】

『急に黙ったり、急に話したかと思ったら、また黙るのかよ!!』

【………】

『言えよ!

ローデ・クライフを知っているお前は誰なんだよ!?』

【……チッ!!】


 急にサーに力が掛かる。


【―――――――――】


 名前もわからない奴の最後の言葉はサーには届かなかった。




 サーは瞳を開けた。

 少しずつ焦点が定まり、意識もはっきりする。

 そしてそのはっきりした瞳には、トラクトの姿が映る。

「――じょうぶか。おい、おいっ!!」

「ハ、ハイ。」

 サーは身体を起こそうとするが、さっきの筋肉の収縮がまだ続いていて、起きれない。

「無理せんでいい。」

 トラクトの言葉にサーは安心し、目を閉じたら眠ってしまっていた。





読んで頂きありがとうございます。

これからも朱手とトケナイ氷をよろしくお願いします。

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