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トケナイ氷  作者: 朱手
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第V章戦前のナイト 10話・動き

 大きな埃は床を転がり、小さな埃は宙を舞う。

 それを全て集め、ごみ箱に捨てるとやっと部屋の掃除は終わった。

 イザラは綺麗になった部屋を見回して、もう埃がたまった場所がないのを確認するとベットに腰かけた。


 部屋の掃除は終わったが、頭の中はまだ散らかったままだった。

 いったい何時、フォートにばれたのか。

 いったい何のために、スティールは私をここに置いておくのか。

 いったいどうして、盗賊達は砂のナイトと争っているのか。

 色んな疑問が混ざり合って、イザラを悩ます。


 イザラがうんうん唸っていると、ドアがノックされ静かに開かれる。

「食事だ、早く来い。」

 入って来たのは、ガスだった。

 イザラはそういえばお腹が空いたなと思い、ガスと一緒に、スティールが最初に皆にイザラを紹介した部屋、広場と皆は呼んでいるらしいが、まで行った。

 広場にはもうすでに皆は揃っていた。


 ガスに連れられ、スティールの隣に座らさせられる。

 スティールは近くのタルの蓋を割り、金属で出来たでこぼこなジョッキを直接浸けると、酒が滴るのも気にせずに高く掲げる。

「今日からまた家族が増えた!!

これからはイザラの分も酒を手に入れて、飲み続けれることを祈ってかんぱーい!!!」


 皆も手に持っていた、ジョッキを高く掲げると一気に飲み干す。


 イザラの目の前にもジョッキがおかれていたが、それは他の人のより一回り以上も大きかった。

 イザラが片手で持つことが出来ない程大きなジョッキに注がれた酒を、イザラは雰囲気に任せ、ゴクゴクと飲んでいく。


「プッ・はー。」

 イザラが飲み干した事に驚き混じりの歓声が響いた。


 次からは普通サイズのジョッキでだが、イザラは何だか楽しくなってきてどんどん飲んでいく。


 場もイザラを中心に盛り上がり、踊れや歌えやの騒ぎ。


 しかしその場の雰囲気に似合わない酒を飲まぬ者もいた。

 別に飲めないというわけではないのだが、ただその馬鹿騒ぎを少し離れた場所から眺めていた。


「なんであんなことしたんだ?

お前もあのねーちゃんは信用出来るって言ってたじゃねえか?」

 ガスは自身も飲んでないが、酒をフォートに手渡す。


「えっ…あぁ、あのねーちゃんが持ってた紙に、オイラ達の似顔絵が載っていた。

それは古いものだったから気にしなかったんだけど……。」


「どうしたんだよ?」


「あそこに載っているのはここで生きている連中だけだったんだ。」


ガスも眉をひそめる。


「死んだ仲間や抜けた連中の似顔絵が一個もなくて、だから怪しく思って聞いただけさ。」


「お前が怪しんだ理由はわかった。」


 ガスも納得したらしく、イザラを一瞥する。


「ガハハッ!!

おう、お前達飲め飲め!」

 スティールは大きな口を開けながら笑い、酒を飲む。


「頭、ちょっといいですか?」

「なんだ?ガハハハッ!」

「イザラの身元がわからない以上、仲間にいれたのは軽率だったのでは?」

「オイラもそう思いますぜ。」


「そんなことか。

大丈夫だよ。それよりも飲め飲め!!ガハハハッ!!!」


「………。」

 二人ともスティールの態度に呆れて、もう何も言わなかった。




 □ □ □




 静かな世界。

 全てが無限で無造作で無秩序な世界。

 あるのは白のみ。


 サーはそこに何もせずにただ在りつづけた。

 やっと今で90時間がたった頃だ。


 耳には自らの心臓の音だけが聞こえていた。

 しかしそれがいつ頃からか、二つにズレて聞こえる。


 まるで違う誰かが身近にいるように。


 けどサーは何も気にしない。いや気付かない。

 だってこの世界には自分一人しかいないと信じて疑わないから。


 サーは間違っている。

 最も身近にいる彼の存在に未だ気付けてない。


 でももうすぐ。もうすぐしたらサーも否応なしに気付く。


 “彼”に。




 □ □ □




『フ〜ン♪フフッフフ〜ン♪』

 女はふわりふわりと宙を歩きながら、浮いている。

 彼女の後をついていくのは、あくびをしながらめんどくさそうに歩く男。


 今日は二人でおでかけである。ちょっとした用事があるので。


 二人が行き着いたのは聖都の中心にある大きな建物の前であった。


 開かれているドアから二人は無断で入り、中にズカズカ踏み込んで行く。

 別に誰が入ってもいいし、土足厳禁という訳ではないのだが、二人は別だ。

 警報でも設置されていたかの如く、人が集まり、二人を囲む。


「ひさしぶり!出迎えありがとう!!」

 マガは自分達を歓迎するために来てくれたと勘違いし、喜ぶ。

 フィネラルは集まった人になど興味を示さず、ふわふわ浮いて、誰かを探しているようだ。


『見つけた!!』

 フィネラルは失礼にも誰かを指さす。

 その先にはしわだらけの爺さんがいた。


「二人とも、こちらへ」

 静かだが威厳ある声に、二人だけじゃなく、周りの者達にまで緊張感がはしる。


 フィネラルは浮いていたのが地上に降りまでした。

 素直に従い、二人は大人しくある一室に入って行く。

 三人だけになったことで、二人はさらに緊張する。


「で。二人はどういった御要件で?まさか遊びに来た訳ではないでしょうしね。」


「……。」

 二人はモゾモゾと第一声を発する役を互いになすりつけあう。

 マガはねえさんだろとか言ったが、フィネラルの自分のことでしょ発言に押し負け、結局はマガが言うはめになった。


「……あのー、ふーいんをー、といて、下さい…。」

 目が泳いでいるマガの顔を真剣に見ているそのお爺さんの眉間にはいつの間にやらしわが増えていた。


「許可がもらえると思って来たのですか。」

 ため息ともとれる鼻息が漏れる。


「ここ聖都は中立を美とし、誇りとしている。

故に強い個を必要としていない。

民の一人一人が力を合わせる姿は教典に載っているが、一人の英雄の伝説は載っていない。」


『考え方古い!!』

 フィネラルは我慢出来ずに口をはさむ。


「とにかく、以前のフィネラル一人でどうにか封印の処置はなかったものの、今はあなた達二人分の力なのです。

もしマガの封印を解いたら……、あなたはこの世界で最も強い存在になるだろう。」


『フフフッ、まだまだマガ未熟!』

「ねえさんが強過ぎるんだよ!」


 大きな音に和やかな二人は振り向く。

 その大きな音の正体は爺さんが机を殴ったみたいだ。

 そしてまたあのため息混じりの鼻息が吐き出された。

「いい加減にしなさい。

もし封印を解いてほしいなら、この国から出て行きなさい。」

 その爺さんは二人の答えを知っていながら問う。

「………。」

『………。』


 二人はこの国に守られている。強過ぎる力は戦争の道具として使われるのは目に見えている。

 それを嫌がった二人が逃げてきて、落ち着いたのがここ聖都だ。

 いや、あてもなく逃げていた二人を保護したのがこの爺さんだ。


「…この国からは出て行けない。」

『マガっ!!』

「ねえさん、仕方ないよ。」

『……。』

「帰ろう、ねえさん。またね、カエサル爺。」


 二人は去り、この部屋には一人の老人だけが残された。

 老人はふと思った。何故今更封印を解くよう求めたのか。

 頭の中に浮かぶのは戦争のため。

 いやそれはない。ここに留まる理由と矛盾する。

 なら、いったい……。


「待ちなさい!」

 気が付いたら、部屋を出て二人を呼び止めていた。


「どうして封印を解いて欲しいのですか?」


「…この国からは出て行けない。」


「封印を解いたら、何をするんですか。」


「この前、友達になったナイトを助けるんだ。」


「戦争に参加してまでも、ですか?」


『運命、動き出す。』

「そうだね。きっともうすぐだよ。」


 爺さんの問いには答えず、二人だけの世界に入っている。


 爺さんは最初のマガの答えだけで満足すべきかと思い、それ以上詮索はしなかった。


「そうですか、わかりました。


 二人はまた家に向かって歩いて行った。




『マガ、運命次何する?』

「今はまだ大丈夫だよ。」





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