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トケナイ氷  作者: 朱手
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第V章戦前のナイト 9話・集郷

長い間の休載、すいませんでした。

まだ、大学は決まってませんがたくさんの人が最近毎日訪れてくれていたので、再開させていただきます。

今まで待っていてくれた人達も、そうでなかった人達も、楽しめる作品をつくるように頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。

 草に覆われた地面がえぐれ、土が露出する。

 二人の大男が地面を蹴り、削ったのだ。

 そして、二人の拳が互いに衝突する。


――パリーンッ


「これくらいも耐えられへんか。

砂も落ちたな。」


 イザラは戦闘に巻き込まれないように離れた場所から見ていた。

 今ならイザラにもよくわかる。

 あの男のバカ力の秘密は魔力の壁による打撃だ。

 つまり、通常の拳が何十倍もの大きさとなっている状況。しかし空気抵抗や質量が拳分しか無いため速度、力ともに落ちることがないので重たい打撃を繰り出せる。


――パリーンッ


 しかしスティールの前でそんな小細工は何の意味も成さなかった。


 相手が壁を使い、攻撃しようが防御しようが関係ない。


 それもそのはず、なぜなら。


 全部壊せてしまうのだから。


「チッ!おい見てるだけじゃなく援護しろ!!」

「あ、ああ!

  ―砂に隠れた

   小さな」

 呆けていて、遅れて唱え始めたスペルを遮るためにイザラがナイフを投げ付ける。


「アナタの相手は私よ!」

 投げ付けたナイフのように真っ直ぐに俊敏な動きで殴り付けた。

 体重を乗せた小さな拳は男の頬にめり込み、男は倒れ込む。

「チッ!

  ―彷いの砂

   “砂塵”―」

 粒の細かい砂が波のように押し寄して来る。

 イザラは瞳に魔力を集中させ、ノースペルで“万鏡ノ瞳”を発動させる。

 砂は止まったかと思えば、逆に流れ術者を捕らえる。


「やるな!でもおてんばが過ぎると怪我するから後はまかせな!!」

 スティールは余裕の表情だ。


「クッソー!ふざけやがって!!

 ―wall pressure―」

 スティールはニッタと笑い、スペルを唱える。

  「―steal―」


 敵はあたふたする。

「チッ! この盗っ人が!」

 イザラにこの敵の言葉の意味はわからなかったが次の瞬間には理解していた。

「だったら、返してやる。受け取れ!!」

 スティールは敵と同じ魔法、だがそれ以上に威力の高い魔力の壁を放った。


「う、うああぁぁぁあ!!!」

 敵に壁が激突する。

 肉が押し退かれ、地面には引きずられたかのような跡を残した。

 敵は正面部分を赤く腫らし、青く内出血を起こし、酷い姿で気絶した


 イザラはそのあまりの様に絶句した。


 やはりその辺りは族だ。

 ナイトはどちらかというと傷を負わすことない捕獲という形を理想とする。


 だがスティールは何の躊躇も無く、敵を殺す勢いで魔法を放った。


「ほら行くぞ!!

まだ追っ手がいるかもしれねぇ。」

 スティールはそう言って、走り出す。

「ま、待って下さい!!」

 イザラも慌てて後を追って行った。




 □ □ □




「と、いうことで帰って来ちゃいました。」

 イザラは再び盗賊の洞窟の中にいた。

 しかもスティールと来た時にちゃっかり入り方も教えてもらっていた。


「おう、お前らこの姉ちゃんと知り合いか。

なら話は早え。」


 その場にいる全員がスティールに注目する。

「これからしばらくの間、ここに住むことになった。仲良くしてやってくれ。」

 イザラも含め、その場の全員が驚く。

「えっ?どういうことですか?」

 スティールはイザラにしかわからないようにウインクする。


「えっ、頭はそいつを仲間にするってことですか?」


「あぁ、俺の部屋の隣が空いてただろ?そこはこれからコイツの部屋だ!

誰か連れてってやれ!」


「ハイハーイ!」

 名乗り出たのはフォートだった。

 その小さな身体はゴツイ男達の間をすり抜けて、イザラの前まで現れた。


「おう、フォートか。頼んだぞ。」


「はい、頭。ほらこっちこっち!」

 フォートが笑顔で手招きするので、イザラは後について行った。


 大きな部屋を出て、狭くて薄暗い廊下に二人は出た。


 二人の他に誰もいないことを確認すると、フォートは口を開く。

「お前達は何がしたい?」

 その手にはグシャグシャにされた紙があった。

 だがイザラはそれが何かすぐに気付いた。

 それはシードからもらった紙だ。

「えっ!でも紙はここに?」

「これぐらい二秒さ。

さあ、吐け!これは何だ?何故創立メンバーの全員の情報が載ってるんだ?

氷帝は何を企んでるんだ!」


「それはその……。」

 イザラは口ごもる。

「おい何してる?

そいつは頭の客人だって言ってただろが。」

 嫌なタイミングに現れたガスにフォートは誰にも聞こえないように舌打ちすると、イザラを一睨みし、どこかに行ってしまった。


「あんたもあんただ。

こっち来い。」

 ガスに連れられ端から二番目の部屋に着いた。


 相当長い間使われていなかったのか、ホコリがだいぶ積もってはいたが、室内は綺麗に整頓されていた。


「これからはここがお前の部屋だ。少し片付ければ綺麗になるはずだ。

まあ、好きに使ってくれ。」

 ガスは言うことを言い終えたら、そっけ無く、すぐにどっかに行ってしまった。

 イザラはベットに座り込む。

 すると砂埃がたち、咳込む。

「コフッコフッ。

こんなとこで寝たりしたら、病気に成るわ。」

 イザラはキョロキョロしたら、端っこにほうきを見つけ、掃除を始めたのだった。




 □ □ □




「元気そうですな!」

「心配して損したわ。」

 二人の老人は氷の国にある病院を訪れていた。


「おお、久しいのう、トナトにタール。

急に呼び掛けて悪かったのう。」

 トラクトはうれしそうに話す。

「今回はまた派手にやられたな。

両足切断とは。老体のやることか。」

 トナトと呼ばれた老人は大笑いする。


「で、何が始まろうとしてるんですか?」

「フォッフォッフォッ。

それは氷帝のとこへ行ってからじゃ。

これで全員が集まったはずじゃ。」

「!! 何? 俺たちが最後だったか?」

「それは早くいなくては。」


 二人の老人は慌ただしく病室を出て行った。


「懐かしいのう。」

 トラクトの素直な気持ちがもれた一言だった。



「着きましたね。」

「そうだな。」

 二人の老人はやっと皆が待つ王宮に着くことができたようだ。


 あとは王宮を警備しているナイトにシードのいるところまで案内してもらうだけ。

……のはずなのだが。

 警備をしているナイトが一人もいなかった。


 二人は目を見合わせると、警戒しながらゆっくりと城の中に入っていく。


 中を進んで行くが誰とも会わない。

 要約着いたシードがいるだろう氷帝の間の前で、もう一度二人は目を見合わる。

 そしてトナトが扉を蹴破ろうとした瞬間。


「すぐに入ってこい。扉を汚すでないぞ!」

 突然聞こえた幼い声に驚いたが、言われた通りに入っていった。


「よう来たな。わらわは待ち焦がれておったぞ!」

 シードの他に良く知るしわくちゃ顔が多数。

 二人は懐かしくなり、思い出話などをしたくなったが、先にタールの頭の中にある疑問を片付ける。

「ナイトはどこに行ってしまったんですか?」

 シードは朗らかな笑顔から真剣な表情になる。

「今日呼んだのはそれが原因なのじゃ。」

 それを口にすると暗い表情になった気がした。


「……はぁ。言われなくてもだいたいわかったよ。

老後ぐらいゆっくりしたかったが、隙よりはマシだ。」

「噂は時々耳にしてましたから。」

 それ以上を口にさせないように二人は気を使う。


「すまない。なら、これからのことを話すぞ。」

 二人も席に付き、皆がシードの方を向く。


「やってほしいことは二つ。

一つは現役のナイトを鍛えてやってほしい。

まだまだ未熟な奴が多いのが現状なのじゃ。

もう一つは、戦いが始まったらこの国に結界を張り守ってほしい。

ここにいるのは八人。

六辺の魔法陣で若いナイトと交代でならどうにか出来よう。」


 境界と聞きざわつく。

 国一つを囲う結界となると魔力、体力、精神力どれを取っても老人にはきつい。

 それに失敗は許されない任務だ。


 一人の老人が笑う。

 それはタールだった。

「まだまだ勉強不足ですね。

円型の魔法陣で中央に一人、円周に三人の四人でやりましょう。

それなら我々だけでも三日は持ちこたえれます。」


 ざわめきはさらに大きくなる。

「どういう原理なのじゃ?」

 シードは尋ねる。

「なーに単純なことです。

中央と外側に同じ種類の魔法陣を描きます。

そして、中央の者がその小さな魔法陣だけに結界を張ります。

そして外側の三人は中央の魔法陣を転移させるだけ。

中央の者は小さな結界をつくるだけの魔力ですみ、理論上、円周上の者もほぼ負担はかかりません。」


 ざわめきはまだ続く。


「その魔法の代償はなんじゃ?

そんな都合のいい魔法ならもっと有名なはずじゃ。」


「特にはないです。

しいて言うならば、魔法陣がとても複雑で描くのに半年以上かかることです。」

「何?そんなにか!ならば、早く作業に取り掛からねば!」

「しかし、ただ地面に描くだけなら雨などで消えてしまうので、魔法金属なんかがいいですね。」


「それ程ともなればすぐには用意できんな。」


「まあ、それまでは私もここで教鞭を奮わせてもらいますよ。」


「そうか、では頼む。

剣術指導にはオリエンタ・トナトを。

魔術指導にはノイン・タールとロムルス・ハーンを。

拳術指導にはキーン・カルチェを。

槍術指導にはボナ・パルトを。

銃術指導にはアポロ・ジェッテムを。

弓術指導にはアドルフ・ダグラスを。

医術指導にはギャレット・セガナじゃ。

頼んだぞ。」


「直接教えるのは久しぶりだ、なぁタール。」

「私は時々現役の先生方に教えていますよ。」

「呪文書を探さないと。」

「ロムルス、道具もそうだがその前によぉ、俺らが感を取り戻さねぇと。」

「キーンの言う通りです。」

「フッ!日々の鍛練を怠るからだ。」

「久々に血が騒ぐ。」

「鎮めてあげれるよ。」


 ギャレットの最後の言葉に皆が大きな声を出して笑う。

 古き英雄達は集まった。

 若き英雄を育てるために。

 古き英雄は肉は衰えているものの、その魂は尽きること無く。

 その力は知恵となり、未だ健全だ。

 そして若き英雄の一人は………。




 □ □ □




【トクン、トクン、ドクンッ……、】






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