第V章戦前のナイト 7話・予感
更新が遅れてすいません。最近やっと読者の数が増えたのに……。でも減らないようにがんばって書きますのでこれからも読みに来てやってくださいね。
「ふんー………。」
トラクトは一人病室に戻っていた。
シードに渡された紙、老けた顔はあるが若いのは一つもない、とにらめっこを始めてもう一時も経つ。
「あやつ達はまだ生きておるかのう。」
窓にうつる夜を見ながら呟いた疑問の一言がこれからを左右する。
□ □ □
シードの命令は戦争に備えて、人員確保のために、昔ここで働いていたナイトで使えそうな者達をリストアップしたから探してこい。というものだった。
「師匠、そんな安請け合いしていいんですか?
パッと見ただけでも三十人ぐらいいますよ、それ。」
「この内の老けた連中はすぐ所在が掴めるわい。
ただ問題が若いのじゃ。」
「どこにいるかわからないんですか?」
「いやだいたいの位置は掴めておるのじゃが距離があるから、おぬし一人で行ってはくれんか。
他の問題もあるんじゃが………。」
「? いいですよ。
でも若い人達全員がそこにいるんですか?」
「おるおる、団体でおるのう。
気をつけて行ってこい。
地図はこれじゃ。」
黄ばんだ紙を渡すと、二人は別れ、トラクトは病室へ、イザラはテスに借りた宿へ、帰っていった。
イザラは宿に着くと、シャワーを浴び、楽な服に着替える。
明日の朝にイザラは出発するつもりだ。
ベッドに座り込み、小さなポーチにナイフや食糧、あとは金貨を十枚程を押し込む。
あとは……何を入れようか。と考えていると、先程もらった地図と若者達のリストが目についた。
地図は水の国と砂の国の境界辺りを記している。
確かに怪我人が行くには大変な距離だ。
でもテスにお願いして、水の国まで転送装置で送ってもらったらいいや。などとイザラは考えていた。
その隣にあるもう一枚の紙。
数名の若い男達の昔の物であろう写真と名前が書いてあるのに目をやる。
「……ブサイクが多いなぁ。」
失礼にも思ったことをそのまま口に出し、大きな欠伸をすると紙や荷物を横にやり、眠り込んだ。
次の日の朝、イザラの予定通り、水の国まで転送装置で送ってもらえた。
「ありがとうございました、テスさん。
戻ってきたらまたお店のお手伝いさせていただきます。」
「期待して待ってるわ、気をつけてね。」
ヒラヒラと手を振って見送ってくれるテスを背に、イザラは男達を探しに出ていった。
「失礼するよ。」
「いらっしゃい。
まあ、珍しい。どうされたんです、お二方揃ってなんて?」
「ちょっと野暮用で、なあ?」
「久しぶりに友達に会いに、氷の国まで行くんです。」
「まだ生きてる友達がいらしたんですか?」
「ははは、彼は残り少ない一人ですよ。」
「おっと!こんな立ち話をしていては時間に遅れるぞ!!
悪いが転送装置を使わしてくれ。」
「お安い御用ですよ。ついて来て下さい。」
「恩に着るぞ。」
「感謝します。」
二人の老人を始め、老いた者達は曲がった腰を引っ提げて“友”のもとへ集う。
□ □ □
イザラにとって水の国は初めてだが、その近くまで来たことなら何度かあった。
そのせいか、なんだか懐かしい、そんな気分にイザラはなっていた。
近くには大きな湖があり心地良い風がほんのり湿り気を持つ。
しかしその湿り気はべたつかず、さらさらと肌を通り抜ける。
イザラ、本人は気付いてないが、一人きりの任務は生まれてから初めてなのだ。
砂の国では、父親が気をきかせて必ず誰かと一緒になるように仕組んでいた。
そして先日の氷の国での任務もサーと一緒だった。
今回はただ男達に会い、交渉するだけ。
決して難しい任務ではない。
だからこそトラクトはイザラ一人に任せたのだが。
歩き続けること数時間、辺りが朱くなってきた頃、トラクトが印をつけた場所に到着した。
なにもない場所だ。
右を向けばその先に、旱魃とした砂漠があり、左を向けばその先に、青々しい鮮烈とした草原がある。
しかしどちらの方向にも男達の姿など一つも見えない。
「はっ! 地図が間違ってるんじゃ!!」
一人騒ぎ出すも誰も答えてくれず、少し寂しい。
今日はもう一歩も歩きたくない、気分はそんなとこだろう。
イザラはその場に大の字で寝転がる。
「あー!もー! こんなんなら引き受けるんじゃなかった!!」
また一人騒ぐも、余計に疲れるだけで何もならない。
あー、程よい長さまで育った柔らかな草はベッドみたい。
ちょっとだけ、ちょっとだけ。
寝ちゃおかな。たまの野宿も…ふぁーあ……zzzzz
あっ、女が倒れてますぜ
本当だ
どうします
どうするって、ほって置くのもアレだろ
じゃあ連れていきますか
ああ、親方はきっと褒めてくれるぞ
へへへっ
□ □ □
〜サー修行を始めてから約36時間〜
もう時間の間隔なんてわからない
この白い世界はどんなに時間が過ぎようと変わることなく在りつづける
次第に肉が骨から浮き、隙間ができるような感覚
きっとこれが………魂が剥がれかけてきてるのか
でもまだまだ魂は肉にしがみついている
こわい………
ただ単純な理由だ
意志とは無関係に細胞一つ一つが恐怖した
しかしその細胞の中に組み込まれた遺伝子が歓喜の叫喚をあげている
【………もうすぐだ…】