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トケナイ氷  作者: 朱手
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第V章戦前のナイト 6話・驚き

  「―耳元囁き

  枯れ葉に遊び

  小さな手足に

  優しく当たる

  “風の悪戯”―」


 トラクトの唱えたスペルでイザラは何かに足を引っ張られたかのように転ぶ。

 この魔法は受け身を取らせないため、必然的にイザラは尻餅をついてしまう。

「いたっ!!」

 イザラはトラクトをにらみつける。


「何しとる?旧砂帝軍ナイトはその程度か?

   ―彷いの風

   “凩”―」


「  ―彷いの炎

   “鬼火”―」

 イザラもトラクトと同系統の魔法で対応するが。

 イザラが放った火がトラクトの放った風に煽られて、イザラに返ってきた。

 それを当たる寸前のところで跳び上がり避ける。


「頭を使わない者はすぐに死ぬ。」

 正当な意見を言っているがイザラはそこがまたイライラした。


「チッ!

  ―光の先をいく

  さらに明るき光

   その瞬間に

    奴を誘え」

 「―断罪を待つ者へ

 罰から逃れる者へ

 穢れくすんだ者達よ

  我が代わりに

  火刑を言い渡す

  “火の罪状”―」

 トラクトのほうがスペルを唱え終わるのが早く、イザラのスペルは途中で途絶えてしまう。

 トラクトから二本の火の筋が地面に沿ってはしり、イザラは避けようとするが、もうそこまで迫ってくる。


  「―clap―」

 覚えたてだが、スペルの短さから苦し紛れに唱えたmelodiousの“拍手”。

 イザラは手を叩き、小爆発の反動で自らが傷付きながらも、どうにか逃れる。


  「―snap―」

 次に指パッチンをし、まだまだ威力は小さいが音の斬撃がトラクトを襲う。

  「―妨げの風

    風鈴―」

 音の斬撃はトラクトの防御魔法により掻き消されてしまった。


「指パッチンはこうやるのじゃ。

   ―snap―」

 段違いの斬撃がイザラに向かって飛んで来る。

 イザラは深呼吸してからスペルを唱える。

  「―rhythm―」

 当たる寸前だった音の斬撃はさらに強い音、リズムによって掻き消され、トラクトも吹き飛ばされた。


 そのまま、イザラは畳み込む。

  「―click―」

 舌打ちの槍が飛ぶ。

「零魔導“風”」

 トラクトは両手に風を付加して、弾く。

 そこをすかさず追い撃ちをかける。

  「―snap―」

 指が鳴ると、避けようしたために体制が崩れ、地面に落ちてしまう。


手わ高く振り上げ、息を吸い込むと、スペルと共に振り下ろす。

 「―thunderclap―」

「な、何っ!!」

 トラクトの驚きの声など掻き消し、怒鳴り声の雷が落ちた、それは感情の篭った一撃。

 激しい闘争本能に任せた怒鳴り声は氷の国中に轟いた。


「怪我人、相手にすこしやり過ぎたかな。」

 立ち込める砂煙からその威力を見て、素面に戻ったイザラはそんなことを呟いた。


 中々現れないトラクトを心配し、イザラが一歩近付くと。


「キャーッ!!!」

 イザラの悲鳴が聞こえたのは夕日も沈み、暗くなった王宮の上だった。




 □ □ □




〜サー修行開始から約10時間〜


「………グゥゥぅぅ(お腹の音)」

 魂が剥がれるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。




 □ □ □




「な、何この蔓っ!!」

 イザラは蔓に腰と足首を捕まれ、宙づり状態になっていた。


「そなたらはわらわな王宮を何と思っている?」

「こんな蔓なんて!!

  ―彷いの火

   鬼火―」

「無駄な足掻きよ。」

 その声の主は砂煙の中からイザラが騒いでいるのを見ていた。

「今、当たったのに………。」

 イザラは自分が見ていた事実を疑ってしまう。

 しかしそれもそのはずその蔓は一切の傷を負わずに未だそこでイザラの腰と足首を掴んでいた。


 砂煙が次第に晴れていく。

「で、この騒ぎの原因はなんだ? みっともない大人が。」

 それは小さな少女、シードだった。


 砂煙が晴れたことにより、トラクトの姿も見えた。

 球状の蔓の中に確保されていた。

 その蔓のてっぺんに亀裂がはしっていたのはおそらく、イザラが最後に放った雷鳴の魔法のせいだろう。


「とにかく、話は中で聞く。」

 シードが歩いて中へ入って行くと、その蔓はまるで生きているようにシードの後を追って行く。


 二人が横に並ぶ。


「何ですか?この魔法。」

 先に喋りかけたのはイザラだった。

「これは魔法ではない。

契約の力じゃ。

シード様が契約したのは氷華の精霊“フローラル”じゃ。」

「精霊?そんな奴は見えなかったけど。」

「そなたの瞳のせいじゃろ。

ムーンレスの姉が見えないのと同じだ。」


「ふーん。

これからはやっぱり説教ですよね?」

「仕方がない、素直になるのじゃ。」


「うるさいぞ!!

黙っていよ!!」

 シードの一喝に二人は静かになり、しばらくすると帝の間に連れて来られていた。


 「―フローラル―」

 きっとシードと契約している精霊の名前をとなえられると、蔓は消え、二人は解放された。


「何が原因であんなに騒いでいたんだ?こんな夜まで。」

 シードは王座にドカドカと座り、足と手を組むなり、いきなり本題へ持っていく。


「それは師匠が無理を押しつけてくるんです!」

 イザラは即答した。


 その二人を交互に見て、シードは口を開く。

「そなた、トラクトに師事を受けているのではないのか?」

「それはそーですが……。」

 口ごもってしまったイザラを見て、トラクトは気持ち笑顔に見える。


「だが、トラクトよ。 長年色んな者を育ててきたそなたじゃ、そのあたりはうまくやってやれ!」

「はい、仰せのまま。」

 次はイザラの顔に笑みがうかんでいた。


「しかし、わらわの王宮をあんなにもしてくれて、どうしてくれようか!」

 唯一この人だけは、笑ってなく不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


「ところでトラクト、サーのやつはどうしたのじゃ?」

「あやつは今、異次元で零魔導の修行中ですが、何か?」

「あれには確か一週間程かかったか?」

「はい、今日の昼間に送ったので、早くて来週、遅くて十日後に帰ってきます。」

「十日か………。」


 シードが軽く握った手に息を吹きかけると、花びらをのせた風が部屋に巻き起こる。

 トラクトとイザラはあまりに突然のことで、目をつぶってしまう。


「えーと、これだこれ。」

 いつの間にか握られていた、書類にシードが目を通す。


「わしらに何をさせたいのですか?」

 にんまり笑ってその書類を風にのせてわたす。


「この者らを探してきてほしい。」







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