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トケナイ氷  作者: 朱手
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第V章戦前のナイト 5話・melodious

“呪歌”

“melodious”


 どちらの魔法も、音を利用した魔法。

 特に“melodious”の魔法は太古に完成した魔法のため、スペルは全てエンシェントスペルである。

 特徴としてはスペルが短いこと、だがそのスペルに合わせた発動キーがあるため、人によっては全く使えない者もいる。


 だが、イザラは別だった。

 アーカスが実際に行ってるのを身近で見ていたためか、のみこみも早かった。



「次はrhythmの魔法じゃ。」

「はい。

   ―rhythm―」

 イザラを中心に小さい円形の衝撃が一回だけ出る。

 その衝撃はトラクトに当たった。

 風の魔法で浮いていたから良かったものの、ふつうに立っていたらこけてしまっていただろう。

 しかし、トラクトはその程度の威力では満足しなかった。

 このrhythmの魔法は本来ならもっと威力の高い魔法だからだ。

 この魔法はある一定の間隔で音の衝撃を放ち、周りのものを吹き飛ばし、さらに次の衝撃で吹き飛ばし、とある程度の距離以上は敵に近づけず、近づいても衝撃に襲われという便利な魔法だ。


 トラクトは今までに下級魔法のclick・clap・snap・step(舌打ち・拍手・指パッチン・足音)をイザラにを教えた。

 click・clap・snap・stepは完成形までいったが、このrhythmだけはどうしてもうまくいかなかった。

 発動キーは一定間隔での心臓の鼓動だから、威力の割に下級魔法に分類されている。

 発動キーを行い、あとはスペルを唱えるだけのはずなのだが。


 トラクトは何度もイザラにrhythmの魔法だけを唱えさせた。

「もう一度じゃ。」

「はい!

   ―rhythm―」

 しかし出るのは一つの輪だけ。


「うーむ。一旦休憩じゃ。」

 イザラは汗を拭い、水を飲む。

「しかし何故rhythmだけができんのじゃ?」


「そんなこと言われても……。」


「深呼吸をして、落ち着くのじゃ。」

 イザラは両手を拡げ、大きく息を吸い込み、手を閉じながら息を吐き出す。

 それを繰り返す。

 心臓は一定の間隔で鼓動する。

―ドクン―ドクン―ドクン―


  「―rhythm―」

―ドクン―

 衝撃は一つ。


―ドクン―

 二つ目。


―ドクッ―

 三つ目。

は不発だった。


 トラクトがイザラの頭を小突く。

「わかった。

おぬし今、ニ発目が出て喜んだじゃろ?」

 イザラは隠すように笑いながら目を逸らす。


「おぬしには精神面の修行が必要じゃな。」


「そんなの必要ありません。

これでも旧砂帝軍ナイトAですよ!」


「そんな肩書が何になる。実力こそが肩書と思え!

そういう自尊心もまた命取りになろう。」


「クッ!!なら私の肩書のすごさを見せてあげますよ!!

   ―rhythm―」

 イザラは軽く目を閉じ、集中する。

 ただただ心臓の鼓動だけに集中する。

―ドクン―

 一つ目。

―ドクン―

 二つ目。

―ドクン―

 三つ目。

―ドクン―

―ドクン―

―ドクン―

―ドクン―

―――

――


 その後もrhythmの魔法は続き、トラクトは驚いていた。

 ついにはさっきまで手を抜いていたのでは疑うくらいに立派なものだった。


「やればできるのう。フォッフォッフォッ。」

「さあ次の技を教えてください!!」

「うーむ、そうじゃな………アーカスとやらは他にどのようなものを使っておった?」


「アーカスさんは……bark(銃声)とroar(轟音)、explosion(爆発音)あとは時々thunderclap(雷鳴)を使ってました。」


「barkとthunderclap以外の二つはできるだろう。roarの発動キーは反響する音、explosionの発動キーは爆発音じゃ。」


「後の二つは難しいんですか?」

「わしの見たとこ、おぬしにはな。 おぬしちょっと、一番大きな声を出してみよ。」


 イザラは大きく息を吸い、大声を出す。

「ワアアアアア!!」


「フォッフォッフォッ。

その程度ではbarkとthunderclapの発動キーにはなりそうにないのう。」


「大きな声が発動キーなんですか?」


「厳密にはちょっと違うんじゃが、barkは叫び声で、thunderclapは怒鳴り声でスペルを唱えるのじゃ。

ただの大声じゃと不発に終わるから気をつけろ。」


「ならなんで大きな声が必要なんですか?」


「確かに大声と叫び声や怒鳴り声は違った物じゃが、どれも大きな声を出さんことには成り立たんじゃろが。」


「うーん、でもこれ以上大きな声は出せません。」


「嫌でも出せるようにしてやる。ついて来い。」




 □ □ □




 その頃、サーは。


「………」

 じっと座っていた。




 □ □ □




「何ですか?ここ。」

 風は心地良く二人に当たる。 それもそのはず。

「王宮で最も見晴らしの良い塔のてっぺんじゃ。」


 確かにきれいな景色が広がっているが、イザラには修行と何の関係があるのかわからなかった。

「こんなとこに来てどうしろと言うんですか?」


 二人の間に温度差が生まれる。

「あの太陽に向かって叫ぶんじゃ!!」

 トラクトの瞳はその太陽の光のせいか温度のせいか、光り輝いていた。


「はぁ?」

 イザラはついつい素が出てしまう。

「なんじゃおぬし態度悪いのう、だから太陽に向かって叫ぶのじゃ!!」

 トラクトは太陽を指差す。


「あのー。

嫌です。嫌と言うか無理です。」

 真顔で対応する。


「!! 師匠の言う事は絶対と習なわかったか。」

 しわの多いトラクトの顔に筋が入り、さらにしわくちゃになる。


「今時そういうのは流行らないですよ。」

 イザラは何も臆すことなく話す。


「……よーわかった。

テスに頼まれたから客人として扱っておったのじゃが、少々わがままが過ぎる者にはお仕置きが必要じゃな。」


「嫌なものは嫌!仕方ないじゃないですか!!」


「そういう精神面がダメじゃとさっき言ったばかりじゃろが!!

力付くにでも言わせて見せよう。」


「絶対に言わない!」







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