第V章戦前のナイト 4話・修行
「今までのは零魔導じゃなかったんですか?」
「あの程度で零魔導を名乗ったら、世界中の魔導士に失礼じゃ。」
トラクトのセリフにサーは驚いた。自分があんなにもがんばってやっと成功したのに。
「次は魔力を使わずに零魔導を扱えるようにする。」
時間が止まった。 サーにはそう思えた。
魔力無し?
有り得ない。不可能だ。
「まっ、待ってください!!そんなことできっこない!!」
「フォッフォッフォッ。
普通はそのようなことは不可能じゃ。
じゃがそれはあくまで“魔法”の定義での話じゃ。
今やってるのは“魔導”。根本が違う。」
「魔導と魔法の違いってなんですか?」
「魔法とは“力”、つまり魔力で周りにある魔法元素を支配して行う技じゃ。
それに対し、魔導とは“肉”から“魂”が出る瞬間に、または“魂”が“肉”に入る瞬間に生じる“力”を利用してその肉と魂に宿る魔法元素を引き出す技じゃ。」
「魂を肉からって、幽体離脱ってことですか?」
「魔導を全身で使えばそうなるが、全身でなど使える奴はそういない。
それに魂の離脱と着装を連続で繰り返さなければ魔導は発動しない。」
「うーん、よくわからないです。」
「頭で理解出来ないなら身体で理解するしかない。
―零魔導“魂”―」
トラクトが手をサーの胸に当て押す。
身体から魂が抜ける。 意識が離れる。 自分の後頭部が見える。
だが次の瞬間には普段の視界に戻っていた。
「ハァハァハァ。どうじゃ?」
「………今のが……幽体離脱、ですか?」
「そう、じゃ。今のは、特殊元素の、“魂”を、使ったんじゃ。
おぬしも零魔導を、覚え、れば、“時”、“魂”、“星”、“虚”ぐらいの特殊元素は使えるようになるぞ。まあ、体力消費は、激しくなるがの。」
トラクトはまるで全力疾走の後のように息を荒げていた。
しかし、それゆえ特殊元素の効果の大きさが伺える。
「実際にはどのような修行をしたら零魔導を習得出来るんですか?」
「厳しい道程じゃぞ?」
「覚悟は出来てます。」
「何もしないのじゃ。」
「えっ?」
「つまり断食、絶眠、不動の状態で三日から五日程じっとしとくのじゃ。
そしたら魂が自然に剥がれそうになる瞬間がくる。」
「断食…絶眠…不動?」
目が点になる。
「断食はまだ耐えれても絶眠と不動はきつくないですか?」
「フォッフォッフォッ。
だからこそ魂が剥がれそうになるんじゃ。では、行ってもらうかの。」
「えっ?どこへですか?」
「この世では邪魔なことばかりじゃから、違う世界で籠もってもらう。
―太陽昇り 月沈む
世に生まれし彼の者を
月昇り 太陽沈む
世へ誘い賜え
“陽世月中”―」
「し、ししょ」
サーの声は一瞬にして途絶えた。
「ふー、さて次はおぬしの番かの。」
「よろしくお願いします。」
「フォッフォッフォッ、テスに頼まれては断れんからのう。
ではでは、何を授けようかのう。」
「あの…教えてほしい魔法があるんですが…。」
「ん? それはなんじゃ?」
「呪歌と“melodious”の魔法を……」
「フォッフォッフォッ、それらなら多少はできる、まぁおぬしの師匠ほどではないがの。」
「アーカスさんは師匠って訳じゃないですよ。」
「そうじゃったか。
では何から教えようかのう、えーと。」
「あっ、私、イザラ・アーシェって言います。」
〜イザラ修行開始〜
□ □ □
目を開けたら、全部が俺の色に染まった世界だった。
何も無くただただ悪戯に広いだけ。
「流石にここまでされたら、自分でも奇妙に思うな。」
サーは自嘲気味に笑う。
サーはその場に座りこんで、あぐらをかく。
それがたった唯一すること。
他のことをしてはいけない。
これを続ければ魂が剥がれやすくなるから。
たかだかそれだけのためにこの世界にやってきた。
〜サー修行開始〜