第V章戦前のナイト 3話・零
更新が遅れすいませんでした。
でもその分内容を詰めましたので。
これからも最低月一は必ず更新しますのでトケナイ氷をよろしくお願いします。
零 Zero ゼロ 0
無と始。
正と負の間にある。
絶対の無であり、不変の存在。
零 Zero ゼロ 0
世界の“JOKER”。
零 Zero ゼロ 0
零魔導。
魔が導いた“JOKER”の忘れ物。
その忘れ物の中身は一つの“力”。
JOKERの忘れ物こそが―――
零魔導―――
□ □ □
「どういった魔法なんですか?その“零魔導”って。」
「魔法とはちょいと違う。
“零魔導”は一種のスキルじゃ。そしてこのスキルはナイトΣのようなあらゆる魔法元素を扱える者に向いている技なんだが。」
「ダメじゃないですか!!
俺が扱える魔法元素はせいぜい水と凍ぐらいで、あとはその二つを組み合わせた氷の属性だけですよ。」
「それは生まれ持ったものだ仕方あるまい。
それにおぬしは体中に強力な凍の魔法元素を纏っているから大丈夫じゃ。
この技は使う者にとって最も必要なのは発想力、応用力じゃ。」
「扱える魔法元素が少なくてもですか?」
「その通り。
例えば―――そこの花を一輪取ってくれ。」
トラクトは先に来た見舞い客が置いていっただろう花束を指差す。
サーは適当に黄色い花を取り、渡す。
「見ておれよ。
―零魔導“水”―」
そうスペルを唱えると右手が水の魔法元素に包まれる。
そして左手に持っている花の切り口に右手の指を当てる。
すると花はたったの今さっきまで咲いていたような生気を取り返す。
「―零魔導“凍”―」
右手の水の魔法元素が凍の魔法元素に代わり、花を優しく撫でると、花はパキパキに凍り付いた。
「見掛けは簡単じゃが、中々できるものではないぞ。やっとみい。」
サーも一輪、花を取る。
「―零魔導“水”―」
………何も起こらない。
サーには魔法元素を支配することどころか、魔法元素を喚ぶことすらできなかった。
「始めは皆そんなものじゃ。
気を落とさずにもう一度やってみい。」
サーはトラクトの言葉を信じ、もう一度やってみる。
「魔法元素一つ一つに喚び掛けるように魔力を発散させ、自分の肉に収束させるのじゃ。」
「発散……収束……」
サーは気分を落ち着ける。
「―零魔導“水”―」
再びスペルを唱える。
………でも何も起こらない。
再び失敗したのだ。
「くそっ!!なんで出来ない?」
「これは一朝一夕にできるような簡単なものではない。
長旅で疲れておろう。今日の修行はここまでにして、続きはまた明日に。
水や氷を近くに置いておけば、少しは肉に魔法元素がくっついてくるやもしれんぞ、フォッ、フォッ!」
サーは肩を落として帰っていった。
「あの技はそう簡単に出来るものではない。
自分で掴め。」
□ □ □
家に帰ると、サーは久しぶりに独りになった気がした。
「寂しい…。」
その感覚がサーから離れない。
「―ルプス―」
紛らすために迷惑にもルプスが喚び出される。
『久方振りだな。何か騒がしかったが何かあったのか?』
「久しぶり。この前龍と闘った。」
『龍?何故奴らがこちら側に?』
「それは知らないけど、一年後に龍と戦争もするらしい。」
『………戦争。
死なないよう、ちゃんと修行しておけ。』
「わかってるよ。今も零魔導の修行をしてた。」
『ほー、零魔導か。
アレは習得できたなら力になる。
どれ見せてみろ。』
「―零魔導“水”―」
また失敗だった
『クックック。
まだまだだな。発散は出来ているが収束が出来てない。』
「笑うな!!
これくらいの技すぐに使いこなしてやる。」
『クックック。すぐに、か。
愉しみに待っておるぞ。 ではな。』
ルプスは笑いながら還っていった。
「ムカつく!!」
サーは怒りながら、修行をしていたら、いつの間にか寝てしまった。
それからというものサーは来る日も来る日も零魔導の修行だけに専念していた。
その甲斐あってか、一つだけ進歩した。
なんと“凍”の零魔導を使うことに成功したのだ。
しかしいいことばかりではなく“水”のは一度も成功することは出来なかった。
□ □ □
ぬるま湯。
それはサーにとって、まだまだ熱いくらいのお風呂。
トラクトの助言通りに水が身近にある場所、お風呂で修行の続きをしていた。
「……発散……収束。
―零魔導“水”―」
サーは魔力を浴室いっぱいいっぱいまで拡げる。
そして拡げた魔力全てを右手に集中する。
しかし集まるのはサーの魔力だけで魔法元素は一切集まらなかった。
「まただ!なんで収束は出来ないんだ!!」
サーはイラついて水を殴る。
そんなことをしても気も晴れないし、修行も上達しない。
それでも全くできない自分に腹が立ち、水を殴る。
バシャバシャと子供が遊んでいるように。
「くそ!!」
サーはイラついて風呂場を出た。
風呂の出た所にある鏡に写る、自分の長くなった髪を見てまたイラつく。
それを見た瞬間もうしんどくなり濡れた身体のままベッドに入り、眠り込んだ。
どうせ自分の身体の一部になったりして、何も影響は出ないだろう、という甘えた考えで。
朝になり、街は騒がしくなってくるとサーも釣られるように起きる。
全裸だったサーは何よりも先に服を着た。
何故だか無性に恥ずかしくなったから。
朝の身支度を済ませると早速、トラクトのもとへ向かった。
ここ、氷の国は三体の龍と龍の王に襲われた。
本来ならテスだけでなくブラッドもいるはずだったから。
しかし実際にいたのはテス一人。
なのに被害にあった者は二人。
軽傷のテスと重傷のトラクト。
テスはもう動いても大丈夫なくらいだ。
それゆえにこの国の病院はあまり忙しくなったりということはなかった。
サーがいた風の国では民にこそ被害者はいなかったものの、ナイトでは多くの者がなんらかの傷を負っていた。
そのあたりは流石氷の国と言った所だ。
サーはその普段と変わらない病院に踏み入れ、トラクトのいる病室に入る。
「ん!フォッ、フォッ、フォッ。
流石は犬っころ。
もう氷の属性を纏えるほどに。」
トラクトの開口一番の意味がサーにはわからなかった。
「師匠?俺は全然ダメでしたよ。
何度やっても収束ができなくて。」
「フォッ、フォッ。
確かに収束は甘いがおぬしの周りについておるではないか。」
サーは神経を研ぎ澄ましてみる。
……
……
!
確かに自分を中心に周りには氷の属性がある。
「でも、昨日は一度も成功しなかったのに……」
「生まれもっての能力だろうが、おぬしは普段から凍の魔法元素を纏っている。
昨日、風呂に長く浸かったりと水と長い時間触れ合っていたのではないか?」
サーの頭には水浸しで寝た自分の姿が浮かんだ。
「えー、たぶん。」
「きっとそれがおぬしの持つ、凍と周りにあった水がくっついて氷ができたのじゃろう。
試しに氷でスペルを唱えてみよ。」
「―零魔導“氷”―」
サーは魔力を発散させると右手に収束させる。
「こ、これが“氷”の零魔導……。」
病室の温度が下がる程、右手は氷の属性を纏っていた。
「フォッ、フォッ。その感覚を覚えておけ。
では実戦にも応用できるようにするかのう。
ここでは他の者達に迷惑がかかる、屋上にでも行くか。」
トラクトは風の魔法で宙に浮ながら、屋上へと登っていった。
「これから相手をするのはコイツじゃ。
―ゴーレム“サンド”―」
以前に見た砂で出来たゴーレムとは大きさが違い、ほぼ人と同じぐらいだ。
「まずは零魔導だけでコイツを倒してみよ。
いつかの時よりは強くなっておるぞ。」
「零魔導だけでですか!?」
「始め!!」
サーの言葉を無視して告げられた開始の合図で砂のゴーレムは先手必勝と言わんばかりの勢いでサーを殴りかかる。
「グッ!」
ゴーレムの拳は重く、サーは吹っ飛んでしまった。
「チクショ……。土人形が、ナメるな!!
―零魔導“氷”―」
両手を氷の手刀にして、ゴーレムの右足を払い切る。
ゴーレムは一瞬バランスを崩すものの、すぐにもとに戻ってしまい効果は無かった。
そしてその元に戻った足でサーは顔面を蹴り飛ばされる。
その様は何とも綺麗に宙を舞っていった。
「ウヴゥ………今のは痛すぎ…る…。」
立ち上がるが脳が揺れてボーとしてしまう。
その時、地面に“赤”が落ちる。
蹴られたときに唇を深く切ってしまったみたいだ。
サーはその血を左手で拭う。
すると、左手のかすれた血が細くひらべったい刃物のような針のようなものになった。
「これだ!!」
何かひらめいたサーは唇に親指と人差し指で血を一滴とる。
「―零魔導“凍”―」
その血を弾きとばすと血の弾丸がゴーレムに刺さる。
しかし相手は砂で出来た人形。そんな血の弾丸など飲み込んでしまった。
しかしそんなことは気にせず、血の弾丸を浴びせ続ける。
ゴーレムは弾丸に撃たれながらも真っ直ぐサーの方向に向かって歩く。
そして大きく右腕を振りかぶる。
サーはその瞬間に間合いを詰めて、ゴーレムの胴に掌を当てる。
「―零魔導“氷”―」
スペルを唱えるとゴーレムの身体の内部にある血が一つになり、砂を突き破る。
ゴーレムはその場に膝をつき、とけてしまう。
その光景にサーは既視感を覚える。
サーは考えるよりも先に横に跳び、攻撃を避ける。
やはり、砂の鎚がサーのいた場所を殴る。
しかしまた砂はとけ、地面を這う。
サーは警戒しながら砂を観察する。
人間には心臓があるように、ゴーレムにも核という物があるはずだ。
サーはそれを見つけようとした。
しかしそんな物は見つからなかった。
「どうした犬っころ?もう終わりか?」
今までずっと黙って見ていたトラクトが話しかけてきた。サーはトラクトに目をやると、なんと探し物が見つかった。
ゴーレムの核はトラクトが持っていたみたいだ。
しかしそれではもうその戦法は使えなくなってしまった。
サーは再びゴーレムに目をやる。
すると今までよそ見をしていたせいで大変なことになっていた。
砂が円を描きサーを囲んでいる。
まずその円の外に逃げようと足を一歩踏み出すと、砂がまるで鮫の口のように大きく開きサーを飲み込んでしまった。
サーは砂の牢獄に捕まり、何もできなくなった。
「クソっ!ここまでか!!」
サーは悔しくて、砂の地面を殴り付ける。
その時。
―ポタンッ―
何かが落ちてくる。
―ポタポタンッ―
また。 ほら、また。
次から次にと水が、雨が降ってくる。
小雨だが十分な雨が。
「―零魔導“水”―」
その奇跡を掴み、スペルを唱える。
魔力を雨まで発散させ、自分ごとゴーレムに収束させる。
すると砂と人の入った水球ができた。
「ごぽっ
―零魔導“凍”―」
スペルとともに水球は凍り付く。
「―零魔導“氷”―」
氷塊にひびがはいり、それを突き破り中からサーが出てくる。
「ふー!いっちょあがり!!」
涼し気にそのセリフを口にするが雨が降ら無ければ、完璧にサーの負けだった。
そのことについてはサーが一番わかっている。
「フォッフォッフォッ。
あのゴーレムをよう倒したのう、しかし最後のは運も実力の内と言ったとこじゃが。」
髭を撫でながら、宙に浮く老人は満足そうに笑う。
「では最終段階。
“零魔導”を教える。」