第IV章再開とナイト 9話・龍戦〜トラクト〜
直線を描くはずの水の息吹が四散する。
「フォッフォッ、久方ぶりじゃな。」
「ト、トラクトさん!!
なんでいるの?」
「なんで、とはひどい。可愛い弟子がやられそうだったから助けに来てやったと言うのに。」
周りにも何人かのナイトが来ていた。
「………、ありがとうございます……師匠。」
「退っておれ。こんな奴などすぐに倒してくれよう。」
周りのナイトがテスを引き取り、戦闘から離す。
『なんだ?老いぼれごときが邪魔をするな!』
「老いぼれ……か。
確かに“肉”は老いたが“力”は未だ老いず、健全だということを思い知らせてくれる!!
―零魔導“火”―」
トラクトの右拳が焼けた鉄のように赤く熱を持つ。
「―零魔導“風”―」
トラクトの足下で小さな爆発を起こし、その勢いで龍の腹に殴りかかる。
『ナッ!老いぼれがッ!!!』
体を回転させ、トラクトを弾き、地面に降りた。
『この鈍重な肉では勝てそうに無い、が…』
躯が縮み、人型になる。
『これならまだ少しは。』
「ほー、龍が人型に。だがそれでは攻撃が落ちよう。」
『そんな、ことは、ない!』
龍は人間には到底できないような身体能力を発揮し、躯の三倍程ある瓦礫を軽々と持ち上げ、トラクトに投げ付ける。
「―零魔導“砂”―」
飛んで来た岩を左手で殴り、木っ端みじんにしてしまう。
『死ね!』
いつの間にやら背後に忍び込まれ、口から水の息吹を放たれる。
しかし再び足元を爆発させ、直撃は避けるものの脚を掠ってしまい、もう地面を爆発させて跳ぶことはできそうにない。
『ここまで粘るとはたいした老いぼれだ。』
龍は近くに落ちている鉄柱を手に取る。
『なんだ?脚から血が出てるぞ。もうあの跳躍は出来ないな。
無理をするから命を縮める。』
龍はもう勝利を確信し、一歩また一歩近付く。
(後、もう少し……。)
そして龍はトラクトの攻撃範囲に入ってしまった。
待っていましたとばかりにトラクトのスペルを唱える声が轟く。
「―零魔導奥義“氷雷火”―」
痛む脚に鞭を打って、龍の胸に拳をぶつける。
龍の躯には穴が開き、血も何も出ずに静かに倒れる。
「ハァハァ。」
やはり年のせいで呼吸は乱れ、体の節々が悲鳴をあげている。
『へー。アイツがやられるとはジジィお前強いな。』
「!!」
トラクトの背後に一人の青年が立っていた。
まだサーとそう歳も変わらなさそうな者が。
「おぬしも龍か?」
『そうさ。オレ様の名はバジリスク・サーペント。
龍の王だ。』
「なんのためにこちら側に来たのじゃ?」
トラクトは拳を構える。
『クハハハッ!ジジィ!ズレてる全部がズレてるよ!
“こちら側”に“来た”?
何だよこちら側って?お前らが勝手に二つに別けただけだろ。
それに“来た”んじゃないオレ様は“帰った”んだ。
まぁ一番ズレてるのはお前のその態度だけど、な!』
バジリスクがノースペルで魔法を放つ。
トラクトはその魔法をまた完璧に避けることが出来ず、両脚に今度は直撃する。
トラクトの苦痛を訴える声が戦場に響く。
「ウッ、やるのう、若いのに……。
まさか“石化”の魔法とはな。」
そう言うと躊躇すること無く、トラクトは自分の両脚を切断する。
『わかってんな。
流石、年くってるだけ経験も豊富か。』
「おぬしが放った石化の魔法は次第に肉を蝕む種類じゃろ。それを喰らった時点でこうする仕方あるまい。」
『その考えはズレてねぇよ。
おっとじゃあなジジィ。
お前に構ってられないんだった、オレ様は“帝”に用があるんだ。
けどもう、ひとつ。』
バジリスクは淡々と歩いていき、テスの目の前に止まる。
「貴さ――」
テスの一番近くにいたナイトがバジリスクに一歩近付いた瞬間、そのナイトはいなくなった。
血飛沫だけがこの場所に存在していたかのように。
「“鍵”はこれか。」
テスは動けなかった。
のびてくる手に、鋭い眼光に、その瞳のさらに奥にある力に、怯み息を吸うことも吐くこともできなかった。
のびた手はテスの首からかけてある鍵を掴み、奪い取る。
『鍵番も、この程度か。』
そう言って憐れむような目で気絶してしまったテスを見る。
青年は龍になると氷帝の方向へ飛んで行った。
龍になったバジリスクはさっきまで闘っていた龍などとは格が違う、何か禍禍しい力に身を包んでいた。
□ □ □
「失礼極まりないのう。」
屋根を破り、入って来たバジリスクに何も臆すること無しにシードは王座に片肘をつきながら座っていた。
『悪いな、時間が無いんだ。
用件だけ話すぞ。』
「だいたい見当はついているのじゃが、言ってみろ。」
『我が名はバジリスク・サーペント。
龍の名にかけて解放戦争、“リベレーション・ウォー”を開戦させてもらう。
猶予は一年。
一年後にオレ様は軍と共に攻撃を始める。
覚えておけ。
もう鍵は一つこちらにあるからそっちが先手を撃つこともねぇしな。』
バジリスクはさっきテスから奪った鍵を見せびらかせる。
「一年後か。
うむ、わかった。その戦、正々堂々受けてたつ。
わらわの軍は強いぞ。覚悟せい。」
二人は睨み合い、ニヤリッと笑うと龍は天井より出ていき、氷帝は各国にこのことを伝達するためのスペルを唱える。
迫り来る新たな闘いに勝利するために。
第一部 ―序章― ―白いナイト― ―完―
これまでお付き合いありがとうございました。
こんな長文書いといて序章かよ!って自分で自分にツッコんじゃいました。
でもまだまだ“トケナイ氷”は続きます。
しかし実は作者はリベレーション・ウォーと同じ一年後に受験戦争があるんです。
そのため更新が遅れることがしばしばということがあると思います。
しかしガンバルので“トケナイ氷”を“朱手”を応援してください。
(もし序章の感想がいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。)