第IV章再開とナイト 7話・龍戦〜ムーンレス〜
「アハハッ!ドーコかな?ドコかなー?」
アーカスが潜伏していた山の近くに龍が逃げ込んだ。
それをマガはあの白い鎧、“凱骨”に身を包み、追い掛けていた。
マガ達のところに来た龍は二体。
一体はフィネラルが怒った勢いで闘っている最中で、もう一体は攻撃の効かないマガに成す術無く逃げ回っていた。
「あっ!みーつけた!」
マガの瞳は子供のように光り輝き、生き生きとしていた。
見付かった龍は尻尾を使い、マガを地面に叩き付けるがやはり全然効かなかった。
『何なんだ、いったい?
その鎧は。』
龍は地面に降り、マガを睨む。
「イタタ。 これはね“凱骨”だよ。」
『厄介な鎧だ!』
追い詰められた龍は鋭く尖った爪でマガを引っ掻くが爪の方が欠けてしまった。
『チッ!』
「ねー、龍なら火とか吹いて見せてよ!」
能天気なマガは偏見に満ちた注文をする。
『悪いが俺はそういう種類の龍じゃ無いんでな。』
「なら他に何か出して!」
『ハァー。 何も知らねぇみたいだな。
教えてやるよ。
俺ら龍てのは、ここプレート“ジェイラー”での聖獣や魔獣のような生き物だ。
だが俺らの能力は産まれてから初めて口にしたモノが能力になる。
だから、火なんかを喰えば火を吹けるようになる。
他にここの奴らとの違いと言えば、龍は子孫を残すときに色んなモノを半分棄てるんだ。
あと人間と契約するときにも。』
龍の体が言葉が進むに連れ、縮んでいく。
『だから、色んなモノを共用することになる。』
そして人間の姿になった。
「へー。」
マガは驚き過ぎて、少しの間止まっていた。
『魂は龍がだんだん喰っていくが、どちらかが異様に強かったり弱かったりすると完璧に乗っ取られるな。』
「ふーん。今はどっち?」
『俺か?俺は龍だ。』
「なんで攻撃を仕掛けてきたの?」
『急に話題代えるな。
てかそれに初めに言っただろ、“鍵”が欲しいからだ!』
「なんであんなモノが欲しい?」
『王の命令だから仕方無しにだ。』
「王? 人間のか、龍のか?」
『どっちも同じ存在。』
「ふーん。
で、どうする?
話してくれたお詫びに帰ってくれるなら殺さないよ。」
『それなら帰るわ。
勝ち目は無さそうだし。』
再び龍の姿になり、翼を広げる。
「あっ僕はマガ・ムーンレス!君の名前と能力教えて!」
『名前はライド・サーガ。
喰ったのは“龍”だ。 お前とは少し似たような能力かもな。』
マガはサーガを手を振って見送った。
□ □ □
『―聖なる天使が
邪に汚れ
血を欲する
“堕天使の欲望”―』
翼の生えた女の形をした魔力の塊が魔力の剣を持って、龍に襲い掛かる。
龍は爪や尻尾を使って攻撃するがその女は巧みに避け、そして攻撃をする。
龍は考えを変え、フィネラル本人に攻撃する。
口が開くと、砂の息吹がフィネラルを襲う。
『キャッ!』
すると魔力の女の動きが鈍くなり、龍はすかさず攻撃し消し去る。
『ハァハァ。中々強いな女。』
『あなた、作ったお昼ご飯、台なしした。許さない!』
『昼飯の最中だったか。悪かったな。』
謝られたことでフィネラルの怒った顔は消え、不思議そうに龍を見る。
『何故謝る? それ仕事だろ?』
『最期の食事ぐらいゆっくりさせてやりたかったから、だ!』
再び砂の息吹を放つ。
『服汚れる!!
―闇の先に待つ
さらに深き闇
その永遠に
奴を誘え
“闇の連鎖”―』
龍を中心に球状の異空間が生まれた。
それは永遠に闇が続く世界。
その世界では時が進む速さは早く。
一秒で一日程。
少ししてから魔法をとけば、餓死をしているか生きていたとしても気が狂っているだろう。
しかし。
『疲れた。』
フィネラルはそう言うと十秒ほどで魔法をといてしまった。
『ハッ! 戻れた! 何だったんだ、アレは?』
龍は痩せ細っていたがどうにか生きていた。
『アッ、生きてる。』
フィネラルはもう死んだと思っていたみたいだが十日ではまだ無理だろう。
『チッ!ここは退くか。』
龍は翼を広げ、逃げようとするが。
『―第二の汝
封じ縛られよ
“影止め”―』
魔法の針を龍の影に刺すと龍は動けなくなった。
『なっ!お前はいったい何なんだ!?
そんなホイホイ高等魔法を出して!?』
『あたしフィネラル・ムーンレス。』
『……ムーンレス。ハッ、まさか!!!
“非悪の黒き咎人”の前の鍵番“堕天の暁き死神”!!!』
『それもう昔。
今、マガ鍵番。』
『昔か……。俺はその昔の存在にすら負けるのか。』
『ゴメンね。 あなたきっとマガ邪魔する、だから……。』
『別に怨みはしねぇ。
一思いにやってくれ。』
『うん。 またね。』
ノースペルが龍の胸を貫く。
『あぁ、また…な…。』
龍は最期の一言の後すぐに息を引き取った。
でもその龍は苦しそうな顔をしてはいなかった。
それどころか満足そうに見えた。
でもそれもそうだろう。
この世界で一番美しい死神が自分の傍らで泣いてくれたのだから。