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トケナイ氷  作者: 朱手
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第IV章再開とナイト 6話・龍戦〜テス〜

 ウィザード・ウェポン。

 女社長、テス・プライがここまで大きくしたと言っても過言ではない。

 テスが社長に就任するまでウィザード・ウェポンは町にひっそりとあるだけの店だった。


 時々来るいつものナイトと、たまに来る旅人がお客さん。


 儲ける訳でも無く、損する訳でも無く、細々と店を代々何代にも渡って継がれていた。


 そんなウィザード・ウェポンをテスは嫌いだった。

 親はもちろん店を継げと言ったが、そんなことは気にせずにテスはナイトになるために、ある決意を胸に跳び出した。


 その時の年齢はまだ十五・六歳と、一般的にナイトになる年齢はその当日二十歳程だったため早かった。


 しかしその早めに入ったことが彼女に幸を成し、色んな人から師事を受けることが出来た。

 同期の者でもテスよりも強い者には教えを請い、その者から学ぶことが無くなれば、次の師を捜しとそんなことを繰り返すうちにテスは強くなり、四ノ鍵番に選ばれた。


 しかしテスは突然ナイトを辞めた。

 もともとがウィザード・ウェポンを立て直すための資金稼ぎだったのだ。


 十分な程の資金とともにナイトという職を去り、一商人となった。


 そんなテスの努力によって生まれたのが、今のウィザード・ウェポンだ。

 彼女にとって宝物、人生、全てと言える会社が今は戦場となっていた。



 「―枯れるのを

   忘れた涙よ

   天から地に

   降り堕ち

   海となれ

   “涙海”―」


 空から雨が龍達だけに降り注ぐ。

 その雨は妙に体に纏わり付き、じめじめとした空気が龍から体力を奪う。

 そしてその下では水の球体が段々と出来る。


『もう、諦めて“鍵”を渡せ。

命まではいらん。』

「舐めないで頂戴!」

『死んでも知らんぞ。』


 龍の言う通り、テスに勝ち目は無かった。

 一人対三体。

 しかも現役からは一線退いてる身。

 それでも善戦をしたほうだ。

 龍の一体はもうすでに拘束魔法で身動きは取れなくなっている。


 実質上、今は一人対二体。

 でももうテスは限界間際だった。


(次が最期………。)

 彼女は賢い人間である。

 自分の加減くらいはわかる。


 覚悟を決め、スペルを口にする。

 最期の連撃のために。

「  ―流れる雫

  映る月は人魚の鱗

    荒れる波

  昇る泡は龍の珠

    充ちる汐

 支える渦は綿津見の腕

   欲するは“珠”」


 水球よりシャボン玉のような泡が出て、龍を囲む。


  「欲するは“腕”」


 その泡より水の細腕が出で、龍を拘束する。


  「欲するは“鱗”」


 そして龍に体に付着している水、細腕や雨も含め、が規則正しく結晶化し凍り付き、龍の彫刻が完成した。


「ハァハァ。 どうにか倒せた。」

 テスは額の汗を拭い、爽やかに笑う。


 魔力も体力も底をついた今、その場に寝転んで空を見上げた。

「まだまだ現役でイケるかしら? ハハハッ。」

 自分の冗談に自分で笑う。

 彼女の渇いた笑いが広がると。


 嫌な音がテスの耳に入る。

 氷が割れるようなピシピシッという音が。


 テスは目を閉じ、大きく息を吸う。

 目を開けると力強くスペルを唱える。

 「―リーブラ―」

 テスは両手を前に出すと、何千何万という蝶が喚び出される。


 ある蝶は癒しを、ある蝶は活力を、ある蝶は闘いに備えて、飛び回る。


 一方、氷から出て来た龍は一体だけ。

『やってくれたな。油断していた。

まさかここまで強力な魔法がまだ放てるとは……。

さすがは“未了の蒼き魔女”。』


「まだまだこの程度で終りと思わないでよ。

最期まで付き合ってもらうわよ!」


『なら、早く最期を迎えさせてやる!!』

 龍は水の息吹を放つ。


 テスは蝶に乗り、水の息吹を避ける。

 そして、赤い蝶を送り込む。


 龍はその蝶を尻尾で弾く。

 すると爆発が起きた。

 一匹が爆発するとそれに続き、全ての赤い蝶が誘爆する。


 その破壊力は絶大だった。

 爆煙が晴れ、龍の姿が現れるとその姿は足りなかった。

 尻尾が消し飛んで半分よりも短くなっていたのだ。


『ヴヴヴゥゥゥゥウ……。

よくも我が尾を。』


 さっきまでの水の息吹とは比べ物にならない程の威力の水の息吹が連弾で飛んでくる。


 テスはそれを避け、避けきれないのは緑の蝶が盾となり防いでくれた。


 しかしそれにも限界はあった。

 一つが掠り、バランスを崩してしまい蝶から落ちる。


 落ちたことによるダメージはあまりなかったが絶対絶命だ。


『…死ね。』

 水の息吹は残酷にテスを目掛けて放たれた。







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