第IV章再開とナイト 3話・騒ぎ
「ねー!サー?やっぱりあの人ー!いないよー!」
二手に別れて辺りを捜していたが結局ブラッドの姿は見付からなかった。
しかもそのおかげでだいぶ日も傾いてきてしまっていた。
「サー。 今から帰ってもどうせ途中で野宿でしょ? だったらさ、どっか近くの村かなんかに寄ってこうよ。」
イザラは魔獣戦での疲れが溜まっていて、野宿だけは避けたかった。
「んー……、近くなら風の国がある。
あそこなら歩いてなら三十分くらいの距離かな。」
「そこ!そこ行こ!」
イザラは背中のリュックを背負い直し、元気に前を歩く。
サーの言った通り、すぐに風の国に着いた。
宿屋もすぐに見付かった。
けど………お金が足りなかった。
「サー!お金ぐらいもっといてよ!」
「そんなこと言ったって、イザラのほうが年上だろ?」
「わたし? わたしは最近まで無職だったの!
それでも本当にナイト?」
「新米だから仕方ないだろ!
ここより安い宿屋探そ!」
イザラもサーもプンプンッ怒りながら歩きに歩いて、やっと国の外れの小さな宿屋を見付けた。
さっきの宿屋は一部屋、金貨三枚。
この宿屋は一部屋銀貨五枚。
ランクも落ちたが野宿よりはマシだということでこの宿屋で決まった。
しかし二部屋も取る余裕は無かったため一部屋で寝ることになった。
「サー、わかるよね?」
「イザラこそわかってるよね?」
「「ベッドは」」
「わたしの物よ!」
「俺の物だ!」
二人はベッド争奪戦をドカバカおっぱじめた。
そこでドアが乱暴に開けられる。
「何やってるんですか!」
ごつい主人がいきなり現れ怒鳴る。
「他にも客はいるんだ!
やるなら静かにやってくれ!」
主人に変な勘違いをされそこまで怒られなかったが、二人は赤面し、ジャイケンで決めることにした。
「いくよ。」
「いつでも。」
「「ジャンケン! ポン!!」」
「女の子には優しくしないといけないんだ……。」
ブツクサと自分に言い聞かせているサーをよそに、イザラは少し固いベッドに気持ちよさそうに寝転ぶ。
「アハハハ。ごめんネェ。」
意地悪く笑うイザラに背を向け、サーは固いベッドよりもさらに固くて小さなソファーに横になる。
「女の子には優しくしないといけないんだ……。」
□ □ □
次の日、サーは体が痛くて起きてしまった。
寝ているイザラを起こそうかと思ったが、まだ少し早かったので、先に一人で朝食にすることにした。
簡単な朝食、パンを焼きその上にバターを塗っただけ、を食べた。
イザラも香ばしいパンのニオイに釣られて、起きてきて、途中からは二人で食事。
「ねぇサー。 こんな遠くまで来たんだから今日くらい遊んで行こ!」
サーは大きなため息をついて、返事をする。
「イザラ、ここが安めの宿屋といっても今の俺の財布には手痛いんだ。」
サーの言葉に残念そうだが仕方がない顔をする。
「そうだ! 午前中だけでもいいからこの国見て回ろ! ねっ、お願い!」
「……ふー。 午前中だけだよ。」
必死に頼むイザラに負けたサーは渋々承諾した。
「ありがとう、サー。」
そうと決まるとイザラは残っているパンをすぐに食べ終わり、サーを引っ張って宿屋を後にした。
□ □ □
風の国。
その名の通り、風が止まない国。
雷帝の領域に位置するこの国は風車が有名である。
風車はこの国に必要なエネルギー全てを供給し得るほどたくさんある。
風の国の中心にある城には世界で一番大きな風車が風の国が出来てから未だ一度も止まることを知らずに回り続けている。
そしてもう一つ有名なのは、この国を訪れるモノ達。
この国は、渡り鳥からナイト軍隊までが羽の休め場、として訪れると言われているくらいに、いろんな場所から来た商人や観光客で成り立っていた。
そんな国だから二人は旅商人の店が立ち並ぶ通りを見て回ることにした。
そこには怪しい物からよく見知った物までいっぱいあった。
「ねぇ、サー! あれって何かな? あれも見たことないね! あっこれも!」
イザラは興奮して露店を見ているが、サーはそれほど楽しそうではなかった。
「サー? 聞いてる?」
生返事しかしないサーを不信に思い、イザラは顔を覗き込むが、返って来たのはまた生返事だった。
「もー! サー!!
そんなに早く帰りたかったわけ!?」
顔を真っ赤にして怒っているイザラにやっと気がいったサーは急にしっかりし始めた。
「ゴメン。 ちょっとボーとしちゃって。
そうだお詫びにお昼をおごるよ!」
「やったー! わたしお腹減ってたんだ!」
安易なイザラの怒った顔もすぐに納まり、笑顔でサーの後ろをついて行った。
お昼ご飯にはパスタを食べることにした。
小洒落たお店に入るがテラスの席に座る。
「これおいしー!」
「イザラもう少し静かに食べよ。」
周りの視線を感じたサーは慌ててそう言う。
「あっ、でもおいしい。」
二人は自分が注文した料理を絶賛しながら、和やかな雰囲気で食事を楽しんだ。
でもそんな二人の雰囲気とは裏腹に周りは慌ただしくなってきた。
「なんだか騒がしいね?」
サーは辺りが気になってチラチラッ見る。
そんなサーを見て、イザラはため息をつく。
「サー。ここは雷帝領なんだから変な気起こさないでよ。
もし暴れでもしたら捕まるよ。」
「それぐらいわかってる、けど……。」
「ホォラ、さっさと食べて、行くよ!」
二人は食べ終わると、店を出た。
店の外には同じ服を着た男達が慌ただしそうにしていた。
「何かあったんですか?」
「またあの姫だよ! これで何回目だよ?! まったく。」
サーはよくわからない答えに返事だけはをしておいた。
「イザラ、この国の姫はなにをよくするか知っているか?」
「風の国の姫………うーん何だっけ。」
その時、遠くから男の見付けたぞ!という声と色んな人の笑い声や野次を飛ばす声が溢れ返るのが聞こえた。
そして、宙に浮き、飛ぶ箒の形のメカに跨がった少女がサーにぶつかる。
「あっ! 思い出した!
家出をよくするって聞いたことある!
風の国の姫、ベル・ウェンディは!」
「痛っいー。
あっ! ゴメンなさい!
あっ!」
「あっ!」
「サー!」
「ベル!」