第IV章再開とナイト 2話・戦い
興奮した魔獣が鼻息を荒げる。
元々の姿が牛だったことをその姿からは容易に思い出させられた。
しかし今の姿は虎のように何もかもを噛み砕く程の強靭な顎、馬のようにスラリと鍛えられた筋肉を持つ脚、体中を覆うのは幾千幾万もの硬鱗、と全然違う生き物になっていた。
でも一箇所だけ残っていたのが肉食獣特有の前方についた二つの眼の上についている鋭く攻撃的な二本の角。
そんな姿をした魔獣が今この瞬間にサーに襲いかかろうとしていた。
そんな魔獣の攻撃を一撃でもまともに喰らえば致命傷になることはサーにもわかっていた。
それゆえに間合いを取って、相手の出方を探っていた。
先に動いたのは魔獣。
サー目掛けて突進してくる。
サーはそれを横に跳び、その際に氷ノ血ノ剣で脚を切り付ける。
が、鱗のせいで剣は滑り相手に傷は付けられなかった。
そして魔獣はその隙を突き、大きく口を開け噛み付いてくる。
「 ―彷いの炎
“鬼火”―」
赤い火の玉が魔獣の顔面に当たる。
「サー!そいつの今の姿に剣は無意味!
今は魔法で闘った方が得策よ!」
確かにイザラが放った魔法は効いた様に見えた。
サーも試しに簡単な魔法を放つ。
「 ―彷いの氷
“流氷”―」
氷塊の魔法は魔獣の肩に当たり、鱗が剥がれる。
しかしすぐに鱗は再生してしまった。
「イザラ!時間は俺が稼ぐからなるべく強い魔法を放ってくれ!」
「わかった。
―風が吹く
鉄の刃を持つ風が
「 −地を賁るは
千の影
月にうつるは
万の牙
敵を滅せよ
“千狼万牙”−」
氷の狼が続々と現れ、魔獣に攻撃をする。
噛み付いたり、体当たりするとその部分は凍り付き、魔獣は動きにくくなった体を動かし、氷を剥がそうとする。
そこにできた隙をサーは追い込む。
「 ―我が従士と結ぶ
一つの契約
“肉”
“肉”よ
我に舞う肢を齎せ
ルプス―」
サーの両瞳から領域から出し、そして氷の刃で四肢を凍り付かせ動きを封じ込める。
魔獣はサーの瞳を血走った瞳で睨みつける。
「ヴォオォオォオォォォ!!!」
魔獣は吠えると地面に喰らい付いた。
地面に生える草やそこに住む小さな生物、そして地面自体を構成している砂や石を喰らう。
サーはその魔獣の異常な行動に自身はどう行動に出ようかと迷っていた。
魔獣は喰らい続ける、その喰らった分だけ膨らんでいく体をよそに。
しかし急に喰らうのを止めた。
次の瞬間、今まで膨れ続いた体が収縮し始め、それは何かの形になろうとする。
そしてそれはなった。
本来の形、牛に。
多少の生身の部分もあるがその体は石や草で出来ている。
生身の瞳だけが石などの影から輝いているのをサーには奇妙に思えた。
魔獣の体が次第に完成しそうな時にイザラはスペルを唱え終わる。
鳴り刻め
“風鈴鎌鼬”―」
イザラの強力な魔法が直撃し、魔獣の体を切り刻む。
が、しかし石や砂を切ったところでまた再生してしまい、無駄に終わった。
「イザラ、こいつどうすれば倒せると思う?」
「もし魔力であの姿を保ってるのなら、わたしの瞳で放せるけど……。」
「じゃあ、やってみよ!」
「う、うん。
―この瞳に
映る
魔獣を
解放
封印
祟呪せよ
“万鏡ノ瞳”―」
しかし魔獣は素早く移動し、そして軽く跳びはねたかと思うと、地面に潜り込んでしまった。
「なっ!イザラ!」
イザラの足元の地面から魔獣が出て来る。
「―ルプス―」
「フンッ、えらく待たせおって!」
ルプスは魔獣を押さえ、イザラはその間に万鏡ノ瞳で見る。
が、敵に変化は無くこの作戦も駄目だった。
「なんだサー、お前はこいつも倒せんのか。
我が主として、恥を知れ!」
主の未熟さにルプスは悲しいものを感じながらも、魔獣を睨み唸る。
「コイツは躯を削り落とし、その後に封印するしかないな。
だが素早くしないと再生されるから連携を取って決めるぞ!」
そうだと決まるとイザラが最も硬い表面を破り、ルプスが残りを出来るだけ速く削り、最後にサーが封印する。
三人はそのための配置につき、すぐに始めた。
「―吹き付ける風は
山を削る
流れ出る水は
谷を削る
止まらない時は
月を削る
“蝕光”―
スペルを唱えると強い光が放たれて、その光が当たった魔獣の躯は溶けて砂が流れ落ちる。
ルプスは鋭い爪を立て、何度も何度も掻き乱し、岩をも剥ぎ削った。
最後に残ったのは岩の躯からしたら小さな心臓と両瞳だった。
サーは唯一の封印系のスペルを唱える。
「―永遠の鋼に
囲まれて
動の自由を
奪われる
静の罰を
強いられる
“千年牢獄”―
鈍い色をした金属で出来た柱が現れ、魔獣の左右前後上下を囲み、立方体の檻が出来た。
そしてその檻は掌サイズになり、サーは拾い上げ鞄の中にしまい込んだ。
「よしッ。これで任務の一つは完了だ!
後はこの辺りにいるかもしれないブラッドさんを捜すだけだ。」
「あの人、苦手だな。」
戦い終り、二人は服を整え、ルプスは還りブラッドの話をする。