第IV章再開とナイト 1話・出発
またサー達をよろしくお願いします
「ふー。」
シードの吐き出した息が何とも言えない雰囲気を室中に招く。
「それで二人は生き残ったが、その後“狂乱の戦慄”に耐え切れなくなってしまったアーカスは盗賊に成り下がったか。」
「……はい。
“狂乱の戦慄”については色々調べたんですが、どんな文献にも解き方はおろか、スペルすら載せられて無かったです。」
「あの魔法は準禁断魔術じゃからな。
で、解き方じゃが……確か術者の死か術者からの解放だけじゃったはず…。」
「どちらも今となっては難しいですね。」
「“狂乱の戦慄”はコチラで調べよう。」
「お願いします。」
「きっと今回頼んだ魔獣も砂の実験に使われた奴の一人だろう。
砂の国についても調べておこう。」
「………はい、では、失礼します。」
イザラはそう言って、帝の間を出ていった。
「案外長かったね。」
出てすぐの廊下で待っていたサーがイザラの隣へ行き、一緒に並んで歩く。
「……うん。」
イザラはアーカスのことを思い出し、少し心が痛んだ。
「明日の任務は早朝に出発して、次の日の昼間にその魔獣を捕獲しよ!」
「わかったわ。
待ち合わせはテスさんのとは店の前で。」
「じゃあ、また明日。」
二人はそう言って別れた。
□ □ □
サーは自分の借りている部屋に戻ると明日の準備をし始めた。
今回の任務は三日と短いが途中に宿や町などは無く、野宿を強いられる物なので荷物も必然と大きめの鞄に詰められる。
その鞄は戦闘時でも邪魔にならないデザインで、その昔テスに貰った物だった。
準備をしているとあの短剣が出てくる。
不思議な女に貰った、マガが触れることすら出来なかった、あの短剣だ。
マガは強い魔法がかかっていて、さらに魔力を隠していると言っていたが、そのことを知っていてもサーには何にも感じられなかった。
サーはその短剣を鞄に入れようかどうか迷ったが腰に挿すことにした。
荷物の準備が終わると、久しぶりに氷の国に帰って来たことだし、買い物でもしに行くことにした。
サーは今まで行ったことの無かった王宮から離れた市街地へ行ってみることにした。
今はちょうど昼頃だったからか人は少なく、簡単に見て回れた。
一先ず、武器屋に入ることにした。
そこには魔力の施されてない剣や弓などがしかなかった。
「っらっしゃい!
何をお探しで?」
「魔力の施されてやつはないんですか?」
「うちは魔力ゼロが売りなんだ!!
そう言うのは他所へ行きな!!!」
サーは勢いよく放り出されてしまった。
仕方なく雑貨屋に行くことにした。
「あのー、誰かいませんか?」
入ってみると、店内は薄暗く誰もいなかった。
「はい、はい。今行くよ。」
出て来たのはしわくちゃなお婆さんだった。
「何か良いものはありますか?」
「あー、これなんかはどうだい?」
出してきたのは人型の紙だった。
「こりゃ、おめぇ魔力与えたら与えた奴そっくりの分身ができるんだ。」
「へーすごいですねぇ。」
「だけんど、紙だから動けねぇし、ただ突っ立ってるだけよ。」
「あ、あぁ。そうなんですか。」
「んー、これは………。」
と、そんな感じでお婆さんは色々な商品を紹介してくれるが、全部何かしらの欠陥を言われ、ついには何も買わずに時間だけが過ぎていき、夕方になろうとしていたので借宿へ帰っていった。
「また、来いさ。」
何故かお婆さんに気に入られてしまっていたのを気にせずに。
□ □ □
「ふぁーあ。」
欠伸をしながらサーはテスの店の前でイザラを待っていた。
「アラッ、サー。
あの子ならもうすぐ来るから待っててね。」
テスは眠そうな顔で窓から話し掛ける。
眠そうな割に化粧は綺麗に完璧にされていた。
「ごめんごめん!
サー待った?」
大きなリュックを背負い走って出て来た。
「ほら行くよ。」
サーは先に歩いていく。
その後を少し早足でイザラも追いかける。
いつの間にか二人は隣り合いながら歩いていた。
□ □ □
二人は丸一日かけて歩いたおかげか、予定より早く目的地には着いた。
そこで二人は守りの魔法をかけて夜を明かした。
「この辺りに本当にいるの?」
「シード様の言われた通りなら、この辺りのはずなんだけど………。」
サーは目を細め、見回すが何も見付からなかった。
「うーん、何か感じられるのに。」
イザラは短剣を鞘から出してつまらなそうにその刃を見る。
イザラの瞳が変わる。
「サー、来たよ!」
サーとイザラは別々の方向に横跳びする。
空からすごい勢いで一角の魔獣が降ってくる。
「厄介そうだね。」
「気を付けて下さい。
すぐに姿形を変えて襲ってくるはず!」
「俺が前衛で攻めるから、後衛からの支援を頼むよ!」
サーはそう言い、氷ノ血ノ剣を片手に握り前へ出て、イザラはスペルを唱えるために後ろに下がった。
『ガァアァアァアァアーーー!!』
魔獣は牛のように頭に二本の角を携え、サー達の方へ向き、興奮の雄叫びを上げながら向かって来る。