外伝II革命のヒトミ 7話・誰
今回はアーカスが倒れているため革命のウタはお休みです。
「…父…様?」
イザラは自分の瞳を疑った。
死んだと知らされていたヘクトが今、目の前に存在するのだから。
ヘクトはイザラを警戒しながら、様子を伺っている。
「父様?イザラだよ。
わかる?あなたの娘のイザラだよ。」
ヘクトは一言も言葉を発さずに瞳を細め、じっと涙を浮かべながら少しずつ歩み寄るイザラを見つめる。
そして口角を嫌味な程に吊り上げて笑う。
「……ヘクト…か。 その名は貰った。」
イザラはヘクトが言っている意味がわからなかった。
「父様………だよね?」
「イザラと言ったな、お前の父は死んだ。
私と肉こそは同じだが、力も魂も別物だ。」
父の声だが、喋り方も雰囲気も違う。
「な、何言ってるの? 父様。」
「わからん奴め!
私がお前の父を喰らい殺した!!」
ヘクトの姿をした者は融通の聞かないイザラに苛立ちを覚える。
「父様? ねぇ? 誰!誰! あなたは誰! 誰なの!?」
イザラは今起こっていることが理解出来ず、錯乱しそうになっていた。
そんなイザラの姿を見て何かを感じてか、説明し始める。
「フッ、哀れな“我が娘”よ。
私は砂帝と呼ばれているあの忌ま忌ましい男から力をもらっただけのただの魔獣だ。」
「魔獣は人を喰らうと死ぬはずよ!」
イザラは相手の矛盾をつきつける。
「原理は砂帝に聞け!
あのゴミ以下の男に、そなたくらいの手練れなら十分だろう。」
そう言い終わると背中から羽が生え出し、骨格が変わっていく。
足が短くなり、尻尾も生える。
そして生えたての大きな羽をばたき、空に浮かび上がる。
イザラは走って、後を追いかける。
「待って! まだ聞きたいことがたくさん―――」
「さらばだ、“我が娘”イザラよ。
短剣は“思い出”として貰って行くぞ!」
どこを目指して飛んで行ったのかはイザラにはわからないが飛んで行った方向を見つめ続けてしまった。
□ □ □
その後、すぐにカナスが起き上がり、本のページを破り聖獣“ジズ”を喚び出した。
ジズは羽を広げると辺り一面が日陰になってしまう程の巨鳥だった。
二人はジズの背にアーカスを乗せ、傷が深いため止血が上手くいかず、急いで帰っていった。
そして今、アーカスを病院に入れたイザラは一人になった家にいる。
父との思い出がいっぱい詰まっている家。
父は万鏡の瞳を持っていなかったため、努力して手に入れた技術だけでナイト∀まで昇りつめた。
一般常識として、普通の平凡なナイトならナイトBで、才能が有るものはナイトAかナイトΣなどのような特殊なものと決まっている。
ナイト∀は真に天才の一握りの者だけがなれる名誉な地位である。
そんな努力家な父はイザラの自慢だった。
今の家の中には、努力の過程で手に入れたただの鉄製のナイフから禁断魔術の呪具に至るまで数々のガラクタや貴重品が遺されていた。
イザラはその中から必要最低限の物だけを鞄につめ、家を出る。
家の鍵を閉め、簡単にだが強い守りの魔法を家にかけると、一度も後ろを振り向かずに去って行った。
□ □ □
イザラはアーカスが眠る病室にやって来ていた。
医者が言うには、後遺症などは別になく傷さえ癒えればまた自由に動き回れるらしい。
そんな寝ている怪我人をイザラは見つめながら、頭では違うことを考えていた。
それは父の姿をした魔獣のこと。
家を出た際に本物の父のことに対しては区切りをつけたが魔獣の方は不可解な点がたくさんあった。
失敗作にしては非の打ち所が無いこと、まるで砂帝と闘ったことが有るような口ぶり、そしてイザラにはあまり攻撃をしてこなかったこと。
最後のはヘクトの姿になってからは特にだ。
そのことをカナスに相談してみたが考え過ぎだとあしらわれた。
それでも何かイザラの中では引っ掛かっていた。
「………イザラか?」
眠っていたアーカスが目を開ける。
「起きましたかアーカスさん。」
アーカスは体を起こそうと力を入れるが、傷が痛み起き上がれない。
「無理しちゃだめですよ!
今医者に起きたこと伝えてきますね。」
「待て! これは最高の奇跡だ!」
イザラには瞳に強い意志を隠しているアーカスの言葉の意味がわからなかった。