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トケナイ氷  作者: 朱手
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外伝II革命のヒトミ 6話・敵

 ここからは敵の縄張りに入るためイザラ達は緊張しながら道を進んでいった。


「………おかしい。

不思議に思わないか? こんなにも奴の魔力は感じられるのに奴自身には遭遇しない。」


 アーカスは立ち止まり辺りを確認する。

 しかしそれらしい物は何も見えなかった。


「少しここらで休も。

アーカスは気を張り過ぎなんだよ。」

 カナスが水筒を取り出し、一口分の水を口に含む。


「休んでる暇はないぞ!!」

「えっ?」

 アーカスの声と同時に地面の砂が盛り上がり、黒い巨体が体中の牙を剥き出しながら跳び出して来た。


 三人は地面から跳び上がり、失敗作を囲むように間合いを取る。


 イザラは短剣を片手に襲い掛かる。

「―この瞳に

    映る

   憎き敵を

    解放

    封印

    祟呪せよ

  “万鏡ノ瞳”―」

 スペルの効果で全ての口が開き閉じれなくし、軟らかい肉の部分が現れた。

 そこをすぐさま切り掛かる。


 カナスは本のページを破り、スペルを唱える。

  「―契約の書

 “プレッジ・エヴェデエンス”よ

  その名のもとに

 今こそ契約を果たせ

    出でよ

  “ベヒーモス”―」

 切り離されたページが巨大な鉄のような硬い体を持つ聖獣“ベヒーモス”へと代わった。


 ベヒーモスが失敗作に体当たりし、吹き飛ばす。


「―その躯に流れる血達よ

 騒げ 踊れ 暴れろ

  その覆う躯が

 破れ 裂け 散るまで

  その心の臓を

 朽ち 果たせ―」

 アーカスは呪歌を歌い失敗作を追い込もうとする。

「ヴヴゥ、ォォォオォオォオォオ!!!」

 が、雄叫びを上げさせるだけで、呪歌は何の効果ももたらさなかった。

「コイツ、耳がないのか?!」

 アーカスは歎くがどうしようも無かった。


 イザラの呪いはまだ続いていた。

 「―太陽は砂を焼き

   風は砂を打ち

   雨は砂を冷やす

   砂は鋼の如き

    刃となれ

   “金剛槍雨”―」

 砂漠から砂の槍が浮き上がり、一直線に失敗作を貫く。


 しかし硬い皮膚の場所は貫けず、かろうじて開かれた口からだけが血を流した。


「グァアァアァア!!!」

 叫び声を上げながら、のたうちまわる。


 そしてその時またベヒーモスが突進する。


 ―――ゴキッ


 鈍い音が聞こえた。


 ベヒーモスは跳ね返せれて仰向けに倒れる。


 そして失敗作は二足歩行の姿に変わっていく。 ゴキゴキッと嫌に鈍い音をたてながら姿が変わっていく。


 ベヒーモスもただの紙に戻ってしまいイザラ達の戦力はだいぶ減った。


 失敗作の新しい姿は額の角と硬い皮膚は相変わらずあるが、体中の口はなくなり、代わりに太く長い腕を持っている。

 口がなくなり軟らかい部分が露出しなくなりさらにやりづらくなった。

 失敗作はカナスの方向を向くとギロリと睨み、額の角で突進する。


「ッ!」

 今までの速さとは比べものにならないくらいの突進がカナスの脇腹を刔る。


「カナス!!」

 アーカスはすぐさま空中に放り投げられたカナスの体を抱え、治癒魔法をかける。


 イザラはアーカスが治癒魔法をかけている間だけでもとノースペルの魔法を連続で発射する。

 しかし砂の針では失敗作の皮膚を貫けなかった。

「グルルッ、グァアァアァア!!!」

 いくら無傷でも攻撃されたのを怒り、イザラに向かって拳を振りかぶる。


 イザラは足が竦み、動けなかった。

 最期だと観念し両目を強く握る。


  「―bark―!!」

 銃声のような音が失敗作の振りかぶった腕を千切り取る。


「イザラ、離れてろ……。

―roar―」


 失敗作の唸り声を媒体に音を集め、圧縮する。

 失敗作はアーカスに狙いを定め、角で突進をしてくる。

  「―bark―!!」

 銃声は真っ直ぐに額の角を、脳天を貫く。


「フンッ、口ほどにもない。

イザラ、カナスの治療を手伝ってく、れ?」

 アーカスは倒れていく。


 失敗作から出て来た男に刺されて。


「…父…様?」







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