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トケナイ氷  作者: 朱手
43/79

外伝II革命のウタ 1話・酒

 この声が有れば………。

 それはもうすぐ叶う夢

 だが誰かの為に失敗すれば

 それが俺の悪夢


 そして俺が見た夢は………。




 □ □ □




「この靴をもらいたい。」


 男は買い物をしていた。

 明日に控えるパーティーのための衣服を選んでいたのだ。


「ありがとうございました。」

 靴屋から買い物袋を抱えて出て来た中年代の男はアーカス・タイクという名のナイトだった。

 中年代の男性なら普通、太り始めて醜い体つきになっているだろうが、彼は職業柄のせいか程よく痩せていた。


 でも筋肉はない身体は周りにさらに細い印象を与えた。


(これで全部だな。)

 男は重たそうな袋の中身をもう一度確認すると家の方へと歩いて行った。


 家に着くと、今日買った物を全て出し、身につけてみる。


 それは黒と紫で統一され、アーカス以外に着こなせる者はいないだろうという印象を周りに与えるほど独特な色彩だった。


 鏡の前で自分の姿を確認し、満足すると普段の服に着替え直し、一人ソファーに座り酒を飲む。


 ため息をつく。


 するとグラスにはまだ酒が残っているがテーブルの上に置いたまま、ソファーで寝てしまった。




 □ □ □




 まだ薄明かり時にソファーの軋む音がする。

 骨張った身体が起き上がった音だった。


 今日も暑いな。と愚痴を垂れながら冷たい水を飲む。


 今日のパーティーは砂帝の誕生日とナイトの名誉叙任式のためのものである。


 アーカスも昇格するため今日の主役の一人であった。

 だが本人は人混みが嫌いなため憂鬱だった。


 朝食に黒パンを一つと牛乳を一杯だけを食べると昨日買った服に着替える。

 着替え終わって少し派手かな?と思ったが着こなせているので気にせずにいられた。


 そんなことを考えているといつの間にか出発する時間になっており、アーカスはのど飴を数個握り、ポケットに突っ込み家を出ていった。




 □ □ □




 パーティ会場に客としてはアーカスが一番に着いた。


「アーカスさんおはようございます!」

 今いるのは砂帝の部下だけでナイトのアーカスとは顔見知りであった。


「おはよう、早く着き過ぎたな。」


「いえいえ、そろそろ皆様来られますよ。」


「そうか。」

 そう言うと部下はアーカスに飲み物を勧めアーカスは一つ手に取り礼を言った。


 しばらくすると人が集まり始める。


 人が集まるほど、アーカスは憂鬱に、苛立っていった。


「どうしたんだアーカス?

青筋なんか立てて。」

 ヘラヘラ顔で近付く眼鏡をかけた男、カナス・メルバ。

 彼はアーカスと同期でアーカスを尊敬しているナイトの一人だ。


「久しぶりだな。

最近顔を見なかったが遠征でもあったのか?」

「あれ、言わなかったっけ。

毒の国に薬草を荒らす魔獣の群れが現れて、大変だったんだ。」


「群れ?魔獣がか?」


「オレも聞いた時は驚いたよ。

普通は魔獣は単体で生きてるしな。」


「それでその魔獣達は捕獲したのか?」


「一部はな。

全員は流石に無理だった、こっちに死者が出たし。」


「仲間が死んだのか?」


「あぁ二人、メリーとレグザだ。

生き残ったなら二人ともここに来たんだろうな。」


「惜しい奴らを無くしたな………。」


「そんな暗い顔になるなって。

今日は祝い事なんだ!

うまい酒でも飲んで元気だそうぜ!」

 そう言うとカナスは強い酒を二個、ウェイターからもらって来て、アーカスに手渡す。


「ホラ!」


「フッ、ありがとう。

お前は死なないでくれよ。」


「がんばるよ!

二人が生き残ることを願って、カンパーイ!」

 グラスが綺麗な音をたてると、二人は酒を飲んだ。


 でもアーカスは喉の奥に押し込むように流し込んでいた。



 チリンチリンッ――


 広間の一番奥にいる初めにアーカスに話し掛けてきたあの男が鈴を鳴らし、その場にいる人、皆がそちらの方を振り向いた。


 皆の視線の先には砂帝の姿があった。


「集まってくれた皆、今日は俺のために集まってくれてありがとう。

今日で俺は二十七歳になる。

砂帝になっては七年だ。

まだまだ俺は未熟な砂帝だが、我が領土をこのプレートで一番裕福にこの俺の手で必ずしてみせる!

例え破壊を司る神“閻羅”をも破壊してまで!」

 広間には盛大な拍手が巻き上がったのでアーカスも小さく手を叩いた。


「では、旨いかはわからんが食事を楽しんでいってくれ!」

 それを合図に隣の部屋と繋がる扉から五人のシェフと料理が出て来て、豪華な料理が振る舞われた。


 アーカスは別に料理を取りには行かず、人混みから少し離れた場所で酒の入ったグラスを片手に壁にもたれ掛かりながら立っていた。


「おっと、忘れていた。

今日は我が国の“ナイト名誉叙任式”でもあるんだ。

名前を呼ばれたナイトはこちらへ来てほしい。」


 アーカスはもたれていた背を起こし、残りの酒を飲み干す。

 そしてグラスをウェイターに返すと、服装を直し、名前が呼ばれるのを待つ。


「ローグ・マルクス、ナイトB。

リア・ターナー、ナイトB。

リューシュ・カイル、ナイト―――

―――」

 名前が呼ばれ始め、その度に拍手が起こり、人がまた一人と並んでいく。


「イザラ・アーシェ、ナイトA。

彼女は我が国史上最年少ナイトで今年十一歳になったばかりだ。」

 広間が歓声で溢れ、真っ赤な顔の少女が砂帝に歩み寄り、皆の方向に振り返る。

(あれが噂の少女か。)


 アーカスは好奇な視線でその少女を見ていた。


「そして最後に今から我が国のナイト長に就任したナイト、アーカシ・タイク、ナイト∀だ!」

 今までの物とは比べ物にならないくらい盛大な拍手が送られる。


 アーカスは呼ばれると人混みを割って、砂帝のもとへ歩み寄る。


 その際にアーカスはイザラのほうをチラリと見ると、瞳があった。

 一瞬であったが、少女とアーカスの瞳があった。


「ナイトを代表してアーカス、一言頼む。」

 アーカスは砂帝の一言で我にかえると礼を、会場の者に礼をする。


「砂帝様、お誕生日おめでとうございます。

会場の皆様ありがとうございます。

何より今の私達ナイト一同がありますのは皆様が色々な方向より我々を支えていただきましたおかげです。

これからも我々、ナイトをご支援お願いします。

長々とありがとうございました。」

 拍手の中、一部のナイト達は職務に戻るため広間から退出していった。


「ナイト諸君は出て行ったが皆はゆっくり食事を楽しんでいってくれ。」


 アーカスは仕事もなかったので、その場に残り、酒を飲み続けた。 




 □ □ □




「飲み過ぎだ。」

 酔ったカナスを素面のアーカスが支えながら歩いていた。


「おかしい。

お前のほうがのんでだぞー!」


「はいはい。」


 軽く流すとアーカスはスイッチを切り替えたかのように真剣な表情になる。


「それであの少女は使えそうか?」


「使えるーよ!」

 カナスは酔いのせいかハイテンションで答えるがアーカスは気にせずに少し考える。


「まぁ、誰かに後を付けさせる。

今日はしっかり寝とけ。」

 そう言って、のど飴を一つ手渡してやると自分も一つ口に含み、帰って行った。


 チリンチリンッ――


「おい、例の少女を調べろ。

砂帝に取って代る日は近い。」


 そう言うアーカスの表情に笑みはなかった。







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