第III章指輪とナイト 20話・願い
広い王宮に白い少年が蒼い女と鏡の女を引っ張って幼い氷帝のもとへ連れて行っていた。
「ほら、行きますよ!」
「私、あの子苦手なのよ!」
イザラは諦めて付いて行っていたが、テスは未だに嫌がり、サーに引っ張られながら王の間に着いてしまった。
「ここまで来たんですから、腹括ってください!」
そこまで言われたらテスも流石に諦めて、嫌々ながらも王の間へ入って行った。
「帰ってきたか。よくやってくれた、サー。
アーカスは昨夜こちらに引き渡されたぞ。」
シードは相変わらず大きな王座にゆったりとくつろぎながら座っていた。
「アーカスとは誰ですか?」
サーは跪いてからシードに問う。
「なんじゃ、そなたターゲットの名も知らぬまま行ったのか?
そなたが捕まえてくれた奴の名がアーカス・タイクじゃ。」
サーに向けられていた瞳が色を変えてテスに向けられる。
「で、久しいのテス。
腕が錆び付いたんじゃないか、ん?」
テスは嫌な顔を一瞬だけしたが頬を引きつらせながらも笑顔を見せる。
「シード、お久しぶり。
最近は国のナイトでは頼りにならんとおっしゃるお客様が増えられて、仕事が忙しくて、そのため休む間もなくて、ついついやられてしまいました。」
テスが嫌味をたっぷりと言ってやると、シードもイラッとしたのか笑顔が崩れる。
「そなたが失敗したから今回の仕事がわらわの国へ来たということを忘れたか。」
「でも今回の任務成功はサー一人の力ではありませんよ!
最終的にアーカスを倒したのは紛れも無いマガ・ムーンレスです!」
シードはマガの名前に気を惹かれた。
「ムーンレスの姉弟か。
サー、どうやって聖都の神官達と話をつけた?
奴らは確かまだ“力”を封印されたままのはずだが。」
「ただ直接会って頼んだだけです。」
「なら、封印されたままじゃぞ。
いくらあの姉弟でもアーカスは倒せまい。」
「アーカスさんの喉は潰されていました。」
今までずっと黙っていたイザラが口を開く。
「サー、さっきから気になっていたがどういうことじゃ?」
「えーと、イザラ・アーシェです。」
「名などを聞いているんじゃない!
何故ここにいる?」
「えー、それは……」
「わたしから話す。」
サーがどう説明しようか悩んでいるとイザラが割って入る。
「私の名はイザラ・アーシェ。
今回はアーカスの言葉の鎖により、支配されていたのをサーに助けてもらいました。
でもアーカスのクーデターに参加させられていたため、祖国へも帰れぬ身ゆえ事情を理解してくれている氷帝様のもとに願いをしに来たまでです。」
「願いとは何じゃ?」
「私をこの国に住ませて下さい。
私は罪を侵し、もう何処の国も受け入れてはくれません。」
「うーん。
そなた、言葉の鎖にかかっていた時の記憶はあるか?」
「アーカスさんの魔力が強まった時以外なら記憶があります。」
「なら、サーを襲った時は?」
シードの質問にその場が凍り付く。
「………あります。」
「ならサーともう一人ブラッドというナイトがいたじゃろ。
奴がそなたに敗れたと言って、何処かへ修業に行きおったぞ。」
「あの闘いのセンスがない紅髪の双剣士のことですか?」
「奴はセンスがないのか?
いや、そんなことはどうでもいい、そなたにブラッドを捜して来てほしいのじゃ。」
「えっ、それだけなのか?」
「ただ奴の居場所は全然見当すら付かんぞ。」
「そんなの無理です!
宛もないのに何処へ行けばいいんですか?」
「何、奴はそなたに遅れを取ったことを恥じて何処かに姿をくらましたのなら、そなたの魔力を感じて奴から現れよるじゃろ。」
「ちょっと、いいかしら?」
黙っていたテスが会話に割り込む。
「この娘はこれから私の会社で私の部下として雇うの!
つまり」
「つまりそなたは罪人をかくまい、罪にとわれ、共に牢屋に入ると。言いたいのじゃろ?」
テスは歯を強く食いしばって、シードを睨みつける。
「私、捜します。」
テスは振り返り、引き止めようと声をかける。
「テスさんに迷惑なんてかけられないし。
それにただで、犯した罪を許してください。はい、いいですよ。なんて都合良過ぎだし。」
イザラはテスの瞳を見つめると、テスは舌打ちをしてシードを睨み付ける。
「シード!ブラッドを連れ戻したらこの娘をすぐに返してもらうからね!」
怒鳴り声のように大きな音をたてながら乱暴に扉を開け、テスは王の間から去って行った。
「それでイザラはサーと共に行動してもらう。」
「何故ですか?」
「なんじゃ?嫌か?
まぁ、サーの次の任務が一人では荷が重そうなので、そなたに手伝ってもらいたいのじゃ。」
「奴は空を飛ぶことが出来るから確かな居場所はわからんが三ヵ所で目撃されておる。
それが何とも奇跡的に三ヵ所ともサーの任務の場所が近くなのじゃ!」
「任務の内容は?」
シードは不気味に笑い、イザラとサーの二人に向かって言う。
「魔獣狩りじゃ!」
「ま、魔獣狩り!?
二人だけで?」
「シード様、どんな魔獣なんですか?」
「元は牛の魔獣だったんじゃが、今は色んな獣達を喰らい本来の姿を忘れておる。」
「どういうことですか?」
二人はシードの言っている意味がわからなかった。
「なんじゃ“魔獣”自身を知らんのか?
魔獣とは生まれた時は聖獣となんら変わらん。
じゃが奴らは全員が全員、肉食でその喰らった相手の肉、魂、力が自分のモノとなる。
その特有の力があるゆえ、全ての獣を喰らい終わると最期に人を喰らうと伝えられている。
それでその牛が人を喰らいこそしてないが襲い掛かったらしい。
そこでその魔獣を生け捕りにしてくるのじゃ!」
「わかりました。
では、シード様失礼します。」
サーはイザラを連れて出て行こうとした時。
「イザラは残れ。」
イザラは戸惑いの眼差しをサーに送るがサーは仕方なしにその場を去った。
「なんですか?」
「話せ。」
「えっ?」
「あのクーデターのことだ。
今の砂帝は信用出来る男じゃない。
それに何よりあれの真実が知りたい。」
「……わかりました。」
次はまた外伝となります。
楽しみに待っていてください。