第I章女王とナイト 4話・娘
「えー、俺の名前はサー・クライフです。
あなたの名前はなんて言うんですか?」
サーは同じぐらいの年で長い髪を後で一つに束ねている少女に広い湖の近くの草原で座りながら尋ねる。
「わ、私の名前はベル・ウェンディです。」
ベルと名乗る少女は少し顔を赤らめながら言う。
「あのー、サーさん敬語止めませんか?お互い同じ歳ぐらいだと思いますし……。」
ベルは上目使いでサーを見ながら言う。
「じゃあ…ウェンディ、」
「ベルでいいですよ。」
「じゃぁベル、君は何故あんな奴らに追われているんだ?」
「それはーその……」
ベルは急に下を向き黙りこくった。
「別に言いたくないなら言わなくていいよ。」
サーは慌てて付け加える。
「……はい。
……あのー、サーは今からどこに行くの?」
「俺?俺は氷の国へ」
ベルは氷の国と聞き顔が明るくなり始める。
「じゃあ、一緒に行こうよ、サー。」
「エッ、別にいいけど、野宿だしお風呂とかもないよ。」
「それくらい我慢できるわよ。」
そう言いながらベルが頬を膨らます。
「早く行こうよ。氷の国へ!」
ベルは笑顔で歩きだす。
□ □ □
「ベル、ひとつ聞いていいかな?」
「いいけど何?」
ベルは無邪気に話す。
「俺の髪を見て何も思わないのか?」
「エッ? 別に始めは白髪なんて見たことなかったからすごいびっくりしたけど、サーは私を助けてくれたんだよ。それだけで私は幸せだよ」
サーは予想外の答えに驚いていた。
今までサーは自分のせいで不幸だと言われたことはあったが幸せだと言われたのははじめてだったから。
「じゃぁ私の質問ね、さっき助けてくれた時一緒にいた狼はサーのパートナー?」
「そうだけど、まだ簡易契約なんだ。」
サーが少し暗くなったのでベルは話題をかえた。
「契約ははやくしといたほうがいいよ。
あたしパートナーの魂に馴れるのに1週間は掛かったよ。」
「えっ?ベル?
もしかしてどこかの国のナイトとか?」
「別にナイトじゃないけど、でも、これでも私は有名な銃使なんだから。」
ベルは胸を張って言う。
「じゃあ何故あんな奴らにやられそうになってたんだ?」
「それは接近戦で相手は多勢に無勢、それに魔法を使える奴一人や二人はいたと思うの。
それだけで勝ち目なんてないじゃん。」
「へぇ〜。」
ベルの観察力にサーは何も言えなかった
「あっ、今の話信じてないなー。
見ててよ。」
ベルは手に魔力を溜め
「−レイブン−」
と唱えると魔力を溜めていた手にガラスでできた銃が現れる。
「あの木見ててね。」
と言いながら軽く2・300mは離れた場所にある木を指差す。
「―魔銃 “芭蕉扇”
的を射抜け
単弾
“風刺”―」
次の瞬間、さっきまで指差していた木が欠けた。
「ちょっと外したかなー?」
「充分に木は欠けているけどあれで外しているのか?」
「私の実力はこんなものじゃないんだからね。
たとえば……」
「もう分かったから。」
「ホントかな?
まぁ、次に何か敵が遠くにいたら任せてよ。」
と胸を張りながら言う。
「ところでサーはなんで氷の国へ行くの?」
「ナイトになるためにだよ。」
「そうなんだ。
じゃぁ私の友達に氷の国の王家の人がいるの。
だから私の事を氷の国まで守りきってくれたら紹介してあげるよ。」
「ホントに?バッチリ守るよ。」
□ □ □
サーとベルはその後もいろいろな他愛のない話を延々としていると辺りが暗くなり始めていた。
「ねぇ、サーもう疲れたし今日はこの辺で野宿にしない?」
「うーん、そうだね。」
「あっ、あそこに洞穴があるしあそこで今日は野宿にしよ。」
ベルが洞穴を見つけて、走り寄り、中へ入って行く。
「中も広いし、キレキャァァーーー。」
ベルが大きな黒い熊に握られながら出てくる。
「助けてー サーーー!」
「ベル、動くなよ。
―ルプス―」
『おや、あの娘といっしょに行くことにしたのか、サー。』
「話は後でしてやるから、俺が熊と戦って気を引くからどうにかベルを助けて安全なとこまで逃げてくれ。」
『わかった。冬眠からおきたばかりの熊は腹が減ってて凶暴だ。気をつけろよ。』
サーはルプスの言った言葉で気を引き締め熊へ向かって行った。