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トケナイ氷  作者: 朱手
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第III章指輪とナイト 18話・女の武器

 辺りに静けさが募る。


 娘を想う父が残した鏡のような瞳をだけ持つ、魔女。

 契約で結ばれた友から授かった瞳と剣を持つ、ナイト。

 二人は睨み合う。


 先に動き出したのはサーだった。

 サーは先程マガに教えてもらった隙の少ない突きの連撃を繰り出す。


「  ―白の教会

   差し延べる

    救いの手

  “守りの白腕”―」

 イザラは防御魔法を放ち、サーの剣撃はイザラには掠りもしなかった。


「  ―彷いの炎

    “鬼火”―」

 防御魔法に続き、短いが威力は高い火の魔法を放つ。

「  ―彷いの氷

    “流氷”―」

 サーも同系統の魔法で応戦し、相殺しあう。

 二つの魔法がぶつかった時、氷が蒸発し相手の姿が確認出来ないほどの水蒸気が発生した。


「フフッ、私には見えるよ!」

 イザラの瞳が輝くように見開く。


「そこだ!」

 ノースペルで砂の針を放つ。


「ヘヘッ、俺も見えるんだ。」

 サーは背後よりイザラの首筋に剣を突き付ける。


 風が水蒸気を運んで行き、辺りが晴れていく。


 イザラの目の前にはサーそっくりの氷像が無惨に砂にまみれて穴だらけになりながらもあった。


「すごい速技!

でも、まだ寝ぼけてるのかな!」

 そう言うとイザラは氷ノ血ノ剣の器用に掴み、サーの握っている手にノースペルで砂の針を放つ。


 サーは咄嗟に離してしまい、イザラに氷ノ血ノ剣を奪われてしまう。


「ね!」

 笑顔でサーを見る。


 サーは自分の失態に怒り、スペルを唱える。


「 −地を賁るは 

    千の影

   月にうつるは 

    万の牙

   敵を滅せよ

   “千狼万牙”−」


 サーがスペルを唱え終わると待ってましたとばかりにイザラもスペルを唱える。

「  ―この瞳に

     映る

     万物を

     解放

     封印

    祟呪せよ

   “万鏡ノ瞳”―」

 サーの魔法が放った氷の狼達は一匹残らず動きを止める。

 そしてサーのほうを振り返り、唸りはじめた。


「ナッ!何故!」

 サーは突然のことに後退る。


 狼達はサーを囲むように追い詰める。


 追い詰められたサーは落ち着こうと必死にする。

 だがそんな暇はなく、狼達は襲い掛かってくる。


 サーは今、氷ノ血ノ剣を奪われて、無防備だった。

 自分の技なだけあってより恐怖に取り憑かれた。


「クッ、くらえぇえぇえ!!」

 サーは叫び声を上げる。

 狼の一匹がサーに噛み付こうと飛び掛かって来た。


 衝撃の後、狼達が動きを止める。

 サーの手にはマガを傷付けたあの短剣が握られていた。

 さらに襲い掛かった狼は短剣に自ら刺さり、サーの足元にある小さい大量の氷の欠片という姿になっていた。


 サーはその短剣を構える。

 すると狼達は怯え始めた。

 それを見たイザラは狼達を解放する。


「その短剣面白いね。

けど、私の瞳が封じるわ!

   ―この瞳に

     映る

     万物を

     解放

     封印

    祟呪せよ

   “万鏡ノ瞳”―」

 イザラは目を見開き、サーが突き出すように持つ、短剣をじっと睨む。


 だが何の変化もなかった。


「…そんな……有り得ない。

この瞳は我が血が、アーシェの血が授かった砂の奇跡!

それを超える力があるなんて。」


 イザラは両手を地面に付けて、自信喪失していた。

「…サー、私の負けだ。

この瞳で勝てない物を持つあなたには勝てない。」

「イザラ……。」

 慰めの言葉をかけようと近寄ったサー。


 それをイザラは手に持ったままの氷ノ血ノ剣で横に一閃する。


 するとサーの指先から血が滲み出る。


「これで私の勝ちね!」

 笑顔のイザラ。


 そう今までのは全て演技だったのだ。

 サーはまんまと騙されてしまった。


「ず、ズルイ!ズルイよ、今のはなしだ!」


「ズルくても血が出た方が負けよ。」


 イザラは気分をルンルンにしながら去って行った。



「サー。今のは女の武器よ。」

「実戦で使われても、敵は無慈悲に扱わないといけないよ。」

 いつの間にかサーの背後にいた二人に肩を叩かれながら、慰めて?もらった。


「さあ、部屋に入ろう!

さっき、姉さんが食事を作りに家に行ったからそろそろ食べ頃だよ!」

 マガは大きな声で皆を誘い、サーとイザラの腕を引き部屋に入って行った。


 テスもその後に続き入って行った。


「ただいま!」

『おかえり!

もう食事出来た!』

「ほら、バッチリだった。」

 マガはタイミング良く入れたことが嬉しかった。


「お腹空きました!」

「お腹と背中がくっついちゃうわ。」


『手洗う、先!』

 みんなと食卓との間に立ち、ビシッと洗面所を指差す。


「はい。」

「ハ〜イ!」

「ハイ!」

「はいはい。」

 みんなそれぞれに返事をし、洗面所に向かって行った。


 そしてその間にフィネラルは食卓に料理を運んだ。


 フィネラルはみんなが食卓に着いたのを確認する。

『さぁ、食べる!』


 フィネラルのその一言を合図にみんな一斉に食事にかかる。

「「「「いっただきまーす!!」」」」


 今日の夕飯はこんがり鶏の姿焼き、彩り鮮やかな花びら入りサラダ、フィネラル手作りの噛み堪えのあるパン、そして未だ見たことのないくらいにいっぱいのキノコが入ったパスタだった。


 みんながっつくように食べるので食事はすぐに終わって、フィネラルはそれを見てうれしそうに笑っていた。


『美味しかった?』

 みんなは大満足な顔で頷き、それを見たフィネラルはさらに笑顔になった。


『あと、デザート!』

 そう言うとキッチンへ行き、みんなのデザートを一度に持って来てくれた。


 それは綺麗な白い小さなお皿に盛り付けられた果物のタルト。


 サーはそれを四つに分け、丁寧に食べていた。

『サー、おいしい?』


「はい!すごいおいしいですよ!」

 フィネラルはサーの笑顔を見ながら少し寂しそうに笑う。


『…サー…明日帰る?』

「…はい。ここ数日間、ありがとうございました。」


『うん、また来い。

また、料理あげる。

だから……。』

 フィネラルは俯いてしまった。


「また来ます!

今している仕事が終わったら、必ずまた来ます!」

 サーはフィネラルの手を取り、瞳を見て約束した。


『うん、待ってる!』

 小さな雫をその大きな瞳に溜めながら、フィネラルは頷き、うれしそうに笑いました。


 人と霊はその日、二人で楽しくお喋りをしながら夜を明かしたらしいです。







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