第III章指輪とナイト 14話・契約“肉”三
『―――さよなら』
この世界にいるのはフィネラルと女神の像だけになってしまった。
フィネラルは振り返りもと来た階段へ歩いて行ってしまう。
「フィネラルさん、まだまだだよ!」
女神像の中からの声はフィネラルを驚かせ、喜ばせた。
振り返ると女神像が内側より刃によって斬り、崩された。
像の残骸の中からサーが現れた。
頭や掌から血が流れ出てはいるがどれも深い傷ではなかった。
『どうやった?』
「この服のおかげさ。」
サーはそう言いながら服の裾を掴む。
「この服はある程度の魔法なら防げるらしくて、何度も助けてもらっている。
まあ、服のない頭や掌は痛かったけど。」
サーは左手の氷ノ血ノ剣をギュッと握るとスペルを唱えながらフィネラルに向かって走り出す。
「 ―地を賁るは
千の影
月にうつるは
万の牙
敵を縛めよ
“千狼万牙”―」
フィネラルは片手を天高く掲げる。
『 ―血の雨に
打ち抜かれ
翼をもがれた天使よ
涙の光に
焼き焦がれ
角を折られた悪魔よ
徴を削がれしモノ達よ
誇りを持ちて
敵を殲滅せよ
“歎きの紅涙”―』
サーの氷の狼はフィネラルに向かって襲い掛かる。
フィネラルの魔法は天井より紅い雨が針のように槍のように降り、雨が床に着くと光を放ち、周囲を塵も埃も残さず焼き払う。
氷の狼は一匹と残らず消えてしまい、サー一人になっていた。
サーはフィネラルに切り掛かる。
それをフィネラルは器用に躱す。
魔法勝負では自身が負けてしまうのがサーはよく分かっていた。
だから間合いを詰め、スペルを唱えさせないで剣に賭けた。
だがサーの考えは甘かった。
フィネラルは棒一本だけでもサー以上に強かった。
槍のように扱い、サーの攻撃が届かない間合いからも余裕で突いてくる。
フィネラルは勢い付きサーの腹に何発もキツイのをおみまいする。
サーはその場に倒れ込む。
『今度こそ、さよなら。』
フィネラルが棒を高く、振りかざす。
「 ―我が血よ
鎖となって
連なれ―」
血が辺りを紅く染め上げる。
『フフフッ、がんばったね!』
フィネラルは手を自分の腹に置き、噴き出る血を遠い目で見る。
鎌の刃が背中から刺さり貫かれていた。
『ねえ、これどうした?』
「ハァハァ、これでやったんですよ。」
サーは指先より出る紅い鎖を見せつける。
その鎖の先にはフィネラルの腹に刺さっている鎌が。
『アララ、やられちゃった。
フフフッ、現実のあたしとは仲良くしてね。』
フィネラルは手を振りながら雪がとけるように消えていった。
「やっと終わった!」
しばらく倒れたままでいるとルプスの姿がすぐに目に入った。
『サー、今回は少し危なかったな。』
笑いながら近付くルプスにサーは笑い返す。
「まだまだ。
で、これで終わりなのか?」
『あぁ、肉の契約を結ぶぞ。
ではこれを受け取れ。』
ルプスがそう言うと魂の契約の時と同じようにルプスの体から銀色に光るモノが出て来た。
そして、サーの体からは白色に光るモノが出て行った。
それらはお互いに交わり、魂の一部を交換しあってから戻って行った。
『サー、起き上がってからは少しの間苦痛が続くがそれはただ躯の構造が変わるだけだからな。』
サーは急に眠気に襲われる。
『もとの世界に帰る時間だ。』
ルプスの声を最後にサーの意識は崩れていった。