表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トケナイ氷  作者: 朱手
27/79

第III章指輪とナイト 6話・進入



 暗い洞窟の奥底に囚われた一人の女は固い岩の地面に寝転がり、ただ助けが来る者だけを待っていた。


 誰かが昨日助けてくれようとしたのを感じはしたが結界によってそれは妨げられ未だに誰も訪れていなかった。


 昨日助言を与えたのでそろそろ訪れるのではと期待していた。


 その時だ。

結界が破られたのを感じた。


「やっと誰かが助けに来てくれたみたいね。

けどまだ……。」


テスの独り言が岩壁に響く。


「ようやく助けが来たみたいだぞ。

まさか、あの程度の結界を破るのにてこずるようなナイトが送られて来たのではあるまいな。」

しゃがれ声が聞こえたと思うと突然暗闇からいやらしく笑う男が現れた。


 テスは今の言葉を聞かれたのではと慌てたがその心配はいらないようだ。


男の傍らには一人の女が付いていた。

その女はボロボロのローブを着て、フードを深く被っていた。

 だが寝転がっているテスからはフードの中に包帯によって目が隠されている顔が見えた。


テスはこの女が言葉ノ鎖によって支配されているのが一目でわかった。


「早く、こっちへ来い!

ウスノロが。」

女は男に悪態をつかれながらも命令通りに素早く行動し始める。


「お前はこの女を見張れ。

分かったな。」

男はそう女に言い残すとまた暗闇の中に消えて行った。


「あなたも大変ねぇ。

訳も解らずに呪いを掛けられて。」


女がテスの方向を向く。


「……取っ…て………目のほ……たい……。」


「あなた。もしかして言葉ノ鎖が弱まってるのかしら?」


「…はや…く………お…ねがい……。」


テスは慌てて鉄格子の隙間から鎖で繋がれた手を伸ばし、女の顔に巻き付けられた包帯に触れた瞬間にテスの指が切れた。


「イタッ!ッン、面倒ね。

包帯自身に祟呪系の魔法が掛けられていて危ないわねぇ。」


テスはどうにか出来ないものかと悩んでみたが魔力を半分ほど抑え込まれている状況でこの女の呪いまで解くことは出来なかった。


「ごめんなさい。

今の私にはあなたを助ける力がないの……。

でも、ここを出る時はあなたも一緒に出て助けてあげるからね。」


「…あ…りが…と……。」

 女がそう言うなり、膝をついて、頭を抱える。


「クッ……ァッ…。

アラアラあなたがテス・プライさん?」


女の態度が一変したのを見て、言葉ノ鎖が再び強くなったことをテスはすぐに気付いた。


「まだかしら、ナイトさんは………。」


「おい、次は侵入者を殺しに行け!」

 いつの間にか再びいた男は女に命令を下すと、テスの下へ歩み寄る。


「お前にも働いてもらうぞ、テス・プライ。」




 □ □ □




 サーは以前見た魔力を明かりにだけに代えるという魔法陣の簡易版を造り鍾乳洞の中を歩いていた。


鍾乳洞の中にはサーの足音と雫が水面に落ちる音だけが不気味に響き渡っていた。


ずっと進んで行くと何だか広い場所に出た。


サーは明かりを強くして辺りを照らして見たが行き止まりだった。

なので帰ろうと背を向けた瞬間。


砂の針がサーを襲う。


「アラアラ、まさかもう終わりかしら?」

女は倒れたサーを少し離れた場所から観察する。


「  ―うつるは

     月

    崩すは刃

    留めるは

     白

   全てを刃に

    “波紋”―」


素早くスペルを唱えると、空気中の湿気なども取り込んで女の片足を氷の刃が貫く。

「キャァー!

ァッ……クッ。」

 女は足を貫かれた時に倒れ込み足を庇いながらもサーの方向を向く。


「悪いけど、お前にはそこでじっとしていてもらう。」

サーは立ち上がり背中から氷の板を取り出して女に見せ付ける。


「テスはどこにいるんだ?」


女は質問に答えずに自分の足を見ていた。

ふくらはぎの下方が貫かれ、そこから血が流れ出ており、地面には血溜まりが出来ていた。

 女は立とうとしてみるが支えなしには立ち上がることも出来なかった。


サーは剣を女の首筋に付ける。

「早く言え!」


女は諦めたように岩壁を指差す。

「あそこの岩壁はあるように見えるけどあれは幻影だから……。」


サーは刺さった氷に手を当てて傷口の辺りを冷やす。

「止血はしといた。

けど歩いたりしたらまたすぐに血が出るから。」


サーはそれだけ言い残すと幻影の中へ消えて行った。




歩いても歩いてもどこにも着かず、誰にも会わずが続いていた。


サーもこれには疑問に思いはじめるが鍾乳石の形が変わっているので移動はしていると判断して進み続けた。


サーは再び行き止まりに着いた。


前には鍾乳石より垂れ落ちている雫によって出来た泉があった。

今はサーは立ち止まり、洞窟に響くのは雫が水面に落ちる音だけだった。


その時、何者かの魔力を感じた。

サーは急いで氷ノ血ノ剣を構える。


魔力は強くなり気を張る一方、雫が落ちる音が妙にサーの耳に響いた。


ピターン ピターンと。


 響鳴するように雫がまた一つ、また一つと落ちていく。

その音一つ一つがサーを少しずつこの世界から引き剥がしていく。


ピターン ピターンと。


そして最後の一滴が落ちた時、サーの意識は消えていた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ