第III章指輪とナイト 5話・会話
墓地には似合わない太陽のやわらかい日差しと心地の良い風が二人の間に満ちていた。
その墓地にいるのは二人の男。
二人ともから冷ややかな印象を受けるが全く違うタイプだった。
片方は肩にかかる程の凍りついたロングの白髪である程度の鍛えられた筋肉のついた良い体付きをしていた。
もう一方の男はボサボサに伸びざっくばらんに切られたミディアムの黒髪で黒い服の袖から見える手は骨と皮だけと言っていいくらいにガリガリにやせ細っていた。
そんな不健康そうにやせ細っている男の顔には笑顔と共に幸せが満ち溢れていた。
「君はこんな神聖な場所で何をしてるんだい?
墓荒らしかい?」
男は神聖などと言っている割にあまり信仰はしていないようだ。
「いや、ただ人を捜していたらここにいるって聞いたので。」
男は身体は身動き一つせずに墓荒らしを期待していたのかつまらないなと神聖の場所で言い放った。
「なんて名の人なんだい?
もしかしたら僕も知ってる人かもしれないよ。」
「えーと“マガ・ムーンレス”って男なんですけど知ってますか?」
男は“マガ・ムーンレス”と聞くなりいきなり笑い出したかと思うと笑い過ぎてか咳込み出した。
「ッホ、ゲホッ!
アー、いきなりゴメンね。
知ってる奴でまさかあいつを訪ねる人がいるとは思わなくってさ。」
「“マガ・ムーンレス”を知ってるんですか?」
「ハハハ、知ってるも何も僕がそうだよ。」
サーのその少し変わっている話し方をする男を不安の篭った目で見た。
「僕はマガ・ムーンレスでこちらは僕の姉さんの“フィネラル・ムーンレス”。」
マガが手を差し出したがそこには誰もいなくてサーは戸惑う。
「ハハハッ、今の聞いた?
姉さんが君のことカッコイイってさ。
特に僕と正反対の真っ白い髪がだって。」
サーは自分の耳を疑った。
なぜなら魂の契約をしてからは髪が常に凍り付いていて白と判断するのは難しいからだ。
だが、今はテスを助けたいと思っていたサーはその話題にあまり触れずに話を進めた。
「えーと、マガさん俺はあなたに助けてほしくて来ました。」
「聞いた?姉さん。
僕を頼りにして来てくれたみたいだよ!
えーと、それで君は僕に何をしてほしいんだい?」
「実は霧の――――。」
と今までの状況を説明をし始めた。
「フーン、そうなんだ。
テスちゃんが…ね。
あの子も大変だ。」
「それでどうすれば結界を破れるのですか?」
マガは空中を見上げながら話し出す。
「姉さん、どう思う?
この子には結界を破るにはまだまだ未熟だと思うんだけど………。
あぁ、やっぱり姉さんもそう思うかい。
でもそうなると姉さんとは少しだけだけど会えなくなるから僕は嫌だよ。」
サーから見ればマガは完璧に一人で会話をしている。
街の人が関わりたがらないのもなんとなく理解した。
「いや姉さん、違うんだよ!
別に僕はこの子に意地悪をしてるんじゃないんだよ。
そう、そうだよ。
うん。分かったよ、姉さん。
それじゃ、愛してるよ姉さん。」
マガはサーの瞳を見る。
「姉さんと離れるのは寂しいけどいいよ。
僕が行って結界を破ってあげるよ。」
マガはそう言うと今まで全然動かさなかった身体を起こしてまっすぐに立ち上がる。
「行こうか。
その迷惑な結界を破りに!
姉さんもギリギリまで一緒に行こ。」
マガは空中と手を繋ぎながら先に歩いて行った。
「マガさん、そっちじゃありませんよ!」
フラフラと勝手気ままに進んで行くマガを追いかけてサーは走る。
□ □ □
「フーン、これがか。」
二人は霧の結界が張られたなだらかな山の前まで来ていた。
「大丈夫ですよね?」
サーは心配になり始めて尋ねる。
「姉さん、ここでしばらくの別れだよ。
またね。」
マガの頬に雫が流れ落ちたのをサーは見逃さなかった。
涙も拭わずにマガは霧の結界に近付いて行った。
「―フィネラル―」
マガが姉だと言っている者の名を唱える。
すると人間の右腕の骨の形をしたモノがマガの手に握られていた。
それを振るうと次第に山の霧が晴れ始めて、鍾乳洞が二人の目の前に現れる。
「ほら出来たよ。
仕事が済んだらまた僕を訪ねてよ、テスちゃんと二人で。
いつも姉さんと二人だけでいて寂しいからさ。」
「はい、分かりました。
それじゃあ、助けて来ます。」
「あっ、待った!
君の名前教えてもらってない。」
「俺の名前ですか?
俺はサー。
サー・クライフって言います。」
サーはそれだけ言い残すと一人囚われたテスの待つ暗く、湿っぽい洞窟の奥へと入って行った。
「ふーん、サー・クライフか。
いい名だね、彼。
そう思うだろ姉さん。」
『髪と一緒で名前もカッコイイ。』
「そんなこと言って、姉さんには僕がいるのを忘れないでほしいな。」
『妬いてる?
あなたは彼よりも年上なのに。
フフッ、一番はいつもあなた、マガ。』
「ありがとう、姉さん。」
一人しかいないはずの場所からは二人が愛し合う声が響き渡っていた。