第III章指輪とナイト 4話・拒絶
サーはただただ歩いていた。
風景も代わり映えしない単調なものが続いていてつまらなかった。
この調子ではまる一日かかってしまいそうだと判断したサーはルプスに乗せて行ってもらうことにした。
「―ルプス―」
「今度は何の用だ?」
相変わらず指輪が返って来ないために苛立っていた。
「少しでいいから乗せて走ってくれないか?」
サーは両手を顔の前で併せて頼んだ。
唸りながらも顔を上げて答える。
「チッ、これも指輪のためか。
仕方ない。乗れ。」
ルプスの答えに喜びながらサーはルプスの背中に乗った。
ルプスに乗っていると風景がさっきよりは変化していった。
色々なものが現れては流れ去り、現れては流れ去って行った。
『着いたぞ、サー。』
急に止まったルプスから振り落とされないように掴んでいた両手を離すと、サーの目の前には今まで生きてきた中で見たことのないくらい大きな都が広がっていた。
「ルプス、これがこのプレート最大の都“聖都”か。」
サーは氷帝の領域にしかいたことがなかったため、とてもめずらしかった。
『早く、テスを助けて指輪を取り返すんだぞ!』
ルプスはそれだけ言い残すと還って行った。
「山の中の鍾乳洞って言っていたからあの山だな。」
辺りに山は一つしかなかった。
見方によれば丘にもとれるような山が一つ霧に隠れてそびえ立っていた。
なだらかな山なので登るのは全然苦にならなかったが鍾乳洞などは一つも見つからなかった。
「どういうことだ、何度探しても鍾乳洞どころか、穴一つすらないぞ!」
サーはその後も鍾乳洞を探し回ったが何も見つからず、いつの間にやら太陽が傾き始めていた。
「今日はこのくらいにして、野宿でもするか。」
サーは山から少し離れた所にある木の下に寝転がり、星空を眺めていたら、いつの間にやら眠ってしまった。
□ □ □
『――ぇ。ねぇ。
貴方が助けに来てくれたナイトよね?』
月明かりの下に蒼い蝶が一羽ヒラヒラと寝ぼけ眼のサーの目の前に舞い降りる。
『黙って聞いてね。
今、私が囚われている鍾乳洞の周りには特別な結界が張られていて貴方が進入するのを拒むと思うわ。
だから、聖都へ行って、“マガ・ムーンレス”っていう男を訪ねて。
そしたら、きっと結界を破る手段を教えてもらえるはずよ。』
伝えるだけ伝えると蝶はすぐに消えていった。
「すごい魔法だな。」
サーは寝ぼけていて少しズレているが話の内容は理解し再び眠りに着いた。
□ □ □
次の日の朝、サーは食事も取らずに聖都へ入って行った。
聖都はとても広く色々な種類の建物が建ち並んでいた。
サーは初めて見る店や物が溢れていて興奮していたが、本来の目的を思い出し“マガ・ムーンレス”いう男を捜しはじめた。
捜し方は単純に聞いて回るだけ。
「あの、“マガ・ムーンレス”って人捜してい」
「あっち行ってくれ、あんな変人になんか関わりたくなんかないね!」
気前の良さそうなおじさんに尋ねてみたがなんと話を最後まで聞かずに逃げるように去って行った。
「なんだ、あのオッサン?
あっ、あのー、“マガ・ムーンレス”って」
「悪いけど、私はあんな変人とは関係ないわよ!
失礼するわね。」
オシャレをした女の人は名前を聞いた瞬間に目の色変えて関係ないと言って逃げて行った。
「だめだ、これは。
市民は完璧に“マガ・ムーンレス”って男を嫌っているな。」
サーは呆れ、何処に行けばいいか迷っていた。
そんな時にふと、以前にトラクトに教えてもらったことを思い出した。
「“何か情報が欲しい時は、酒場に行けばわかるかもしれんのう。”」
「酒場か。
行ってみるか。」
普段あまり酒を飲まないサーはああいう場所が苦手だった。
しかしサーはテスのことが心配でなるべく早く助けたいという気持ちから酒場へ急がせた。
その場から近い、古い木で出来た酒場に入っていった。
中に入れば、まだ朝だというのに何人も酒を飲んだり、カードで賭けをしていたりとしていた。
サーはカウンターに座り、店のおやじに単刀直入に聞いてみる。
「マガ・ムーンレスって男について教えて下さい!」
「なんだあんたは?
俺はあんなや」
「さっさと教えろ!」
サーは次に何と言われるかだいたい分かっていたので間髪いれずに迫り寄る。
男は観念したのか嫌そうにしながらもポケットに手を入れて、紙とペンを取り出すと何かを書き出した。
「この紙に書いた場所に行けば会えるよ。
ただ、そこは入っただけで罪になるから気を付けて行きな。」
「これは酒代だよ。
ありがとう。」
サーは金貨3枚を置いて店を出て行った。
紙には地図が書かれていた。
サーは地図の通りに進んで行った。
「酒場からえーと、教会に行けばいいのか。」 教会は遠くからでも目立っていたのでサーはすぐに着いた。
「次は教会の中を通って墓地に行くのか。」
サーは教会の中に入る時から誰にもバレないように入って行き、墓地に入った。
墓地は広くて綺麗な緑に包まれていて墓石さえなければ公園のようにも見えさえする。
サーの貰った地図にはこの墓地にいると書いているが人の気配を感じなかった。
だから墓地の中を少し歩くことにした。
「ここは墓地だと忘れるくらいきれいだな。」
「そうだよね。
僕も大好きなんだ。」
サーは振り返って見ると墓石にもたれ掛かった男が目に入った。