第III章指輪とナイト 1話・目覚め
夜風に揺れる水面は優しい光を放つ月を映しながら、扉になる。
「プハッ、ゲホッ、ゲホッ!」
サーは扉となった水面から出て来ると必死に水から出ようともがく。
「おぉ出て来たか、遅かったのう。」
トラクトは溺れかけているサーを水から引き上げてやった。
「ハァーハァーハァー。」
「それで悪夢の原因は分かったのか?」
サーの呼吸が少し落ち着いたのを見て、問い出す。
「………たぶん、たぶんですが。
“氷ノ血ノ指環”って指輪が関係していると思います。」
「氷ノ血ノ指環じゃと!?
あれが夢に出てきたのか?」
サーはトラクトの焦る様子に戸惑いながらも答える。
「はい、なんかルプスはあれの所有者のパートナーだったみたいで。
師匠、あの指輪のありかを知っているんですか?」
「いや、知らん。何も知らん!」
トラクトが何かを必死に隠していることはまるわかりだがサーはあえて何も聞かなかった。
「そうですか。
でも今日はありがとうございました。」
「うむ。では、次の仕事でのう。」
そういうと逃げるように素早く去って行った。
□ □ □
サーは誰もいないのを確認してからルプスを喚び出す。
「―ルプス―」
『何かようか?』
ルプスは戦いでもないのに喚ばれ不機嫌そうに答える。
「ああ、実は、“氷ノ血ノ指環”のことについて。」
ルプスは“氷ノ血ノ指環”と聞いた瞬間、目の色が変わる。
『サー、それを何処で…』
サーは悪夢の話しをルプスに話した。トラクトのさっきの焦った様子も。
『“氷ノ血ノ指環”はこの国、氷の国に渡ったとは、アリスがパートナーだった時に聞いていた。
だが、今まだこの国にあるとは―――。』
「指輪の所有者に心辺りはあるのか?」
『持っているなら一人。
この国の王“氷帝”だ。』
静かにだが確信を持って言う。
『あれは、砂と氷の和平条約のために使われたんだ。』
「あの指輪にそんな価値が?」
『何だお前、あの指輪が何か分かってないのか?』
ルプスはサーがキョトンとしているので説明し始めた。
『あの指輪“氷ノ血ノ指環”だが、知っているかもしれないが“氷ノ血”ってのは“鬼”のことだ。
鬼とは人間が生まれるはるか前に生きた破滅を好むモノ。
そして奴らは“白”に包まれた存在。
だからこそ今はお前のような者達が嫌われている。』
サーは凍り付いてからは気にしなくなった白髪を撫でる。
“白”ということを確認するために。
「なら、俺が持つ“氷ノ血ノ剣”は何なんだ?」
『あの剣はお前の魂の結晶だ。
だから、鬼とは関係ないとは思うが……。
初めてあの剣を握った瞬間、何か痛い程の冷気や魔力のようなものを感じなかったか?』
「感じた。」
『それは鬼が放つ独特の魔力だ。
その髪といい、お前はもしかしたら“鬼”なのかもな。』
ルプスはニヤリと笑いながら続ける。
『まぁ、指輪の話に戻るが、あれは鬼の血と純粋な水を混ぜ、銀の魔力で凍らせて創られた言われている。』
「鬼の血?
それじゃ、あの指輪は何千年年以上も前から存在したというのか?」
『あぁ。
実物を見ればわかると思うが、あれからは今でも鬼の魔力が感じ取れるはずだ。』
「そんな貴重な物だったんだ、あれ。」
『しかも、ただ古くて価値があるだけじゃない。
あれを付けた者が魔力を放つだけで人が死ぬとまで言われるぐらいの魔力が秘められている。』
「人が死ぬ?それはないだろう。」
サーがあまりの内容に笑ったのを見たルプスは吠える。
『サー、お前信じてないな!
あれをまだ見たことがないからそんな態度でいられるんだ!
所有者が分かったんださっさと奪いに行くぞ!』
「奪う?
何を言ってる?
第一にシード様は付けてないかもしれないぞ。」
『では、どうするんだ?』
「俺の職はナイトだ!
何かすごい手柄をたてればきっと褒美をやるとか言われたらあれを欲しいと言って手に入れる。」
サーは自信満々に計画を話す。
『簡単に言うが具体的にどんな手柄をたてるつもりだ?』
「それは………そのー
。」
「なら、わらわの願い叶えてくれ。」
シードの声が聞こえ、サーとルプスは周りを再び確認するが誰もいない。
「わらわはそこにはおらん。
早く王座の間に来い。」
「えっ、ハ、ハイ!」
『しまった。完璧にバレているな。』
二人はシードになんと言うかなどを話しながらシードのいる王座の間へと歩いて行った。
「遅かったのう。
まぁ、くだらん言い訳を考えていたんだろう。」
シードは二人の行動を完璧に分かっていた。
「で、おぬし達はこれが欲しいんだろ?」
シードは手の中でコロコロと指輪を見せ付けるように転がした。
『それは以前の私の主の物だ!
返せ!』
「そう吠えるな。フフフッ。」
ルプスの咆哮にシードは動じなかった。
『貴様、何が可笑しい!』
「ルプス、相手を怒らせても意味はない!
シード様もあまり挑発しないで下さい。」
シードはルプスの様子を見て楽しんでいたがサーを一度見てから本題に入った。
「おぬしら二人に三つの任務を課す。
それに成功したらこの指輪を与えよう。
それでどうじゃ?」
『やってやる!』
ルプスは間髪入れずに了解した。
「サー、おぬしは?」
返事のないサーにシードは問う。
「分かりました。
それで任務の内容は?」
シードはいつになく真剣な顔で何かを取り出し、それをサーに差し出す。
「ウィザード・ウェポン社長“テス・プライ”を捜し出し救出。
それが今回の任務だ。」