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トケナイ氷  作者: 朱手
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外伝I過去と悪夢 4話・夢情



「―――見える?見えるよ!

アリスまた見えるよ!!」


アリスは父に授かった瞳で再び光を取り戻した。


その瞳はうつるモノの、肉を。力を。魂を。封印する。解放する。祟呪する。


鏡のように輝く瞳が―――



「パパ。パパ?

どこ、どこにいるの?」

アリスは父がいないことに気付き、周りを見渡す。


「ねぇ、パパ?パパー………。」

アリスは何度も父のことを呼ぶがもう父はいない。


エンラはそんな様子を見かねてアリスのもとに寄り、抱き寄せた。


「えーと。

エンラのおじさん?どうしたの?」

アリスは急に抱き寄せられ少し困った笑顔を浮かべる。


「すまない。本当にすまない。

俺には何も出来なかった。」


エンラは涙こそは流してないがとても悲しい顔をしていた。


「エンラ……、真実を話してあげてほうが、その子のためですよ。」


エンラの後ろにいたアシュラの静かな声が響く。


「真実って、ねぇおじさん?パパはどこ?」

アリスは何かを感付き、エンラに迫り寄る。


エンラが一度アリスの瞳を見てから、アシュラとインドラに視線をおくると二人は一度だけ頷くだけで何もせずにただ見守っていた。


それを見たエンラはあきらめたようにもう一度アリスの瞳を見て全てを話し出す。




ベジアスが魂の暴走を起こしてしまったこと。

娘が死んだと勘違いしてしまっていたこと。

三国の各トップでも勝てないくらいに強かったこと。

ベジアス自身が自らの体を差し出して力を手に入れたこと。


そして、ベジアスは最期の最後まで娘のことを愛していたということ。



アリスは自分自身のために父が命を代償に払ったと聞き、あの瞳から涙を流した。


「おじさん……パパは私の中に今でも生きているんだ?」


「あぁ、その瞳にはベジアスの魂が篭められているからな。」


「そっか。ありがとう、おじさん。

おじさんの友達のお姉さんとお兄さんもありがとう。」

アリスは三人にお礼を言うとインドラはアリスに何かを手渡した。


「お前の親父のだろ。」

その手には、ベジアスが左手に付けていた鉤爪があった。


「ありがとう、お兄さん。」


アリスは父の遺品を愛しそうに見ていた。

「あれ?ねぇお兄さん、指輪はなかった?」


「指輪?そんなのはなかったが。」


「えっ、パパはこの鉤爪をつける時は絶対にママとの結婚指輪をつけるようにしてるよ。」


「そ、そうか。ちょっと離れていろ。」

インドラがそう言うと、地面に魔力を篭めると回りに電気が賁る。


「ないぞ。金属は俺達が闘った付近には落ちてないぞ。」


「おかしいなぁ。あれがないとこれは発動しないのに。」


「あぁ、付けてたのは付けていたぞ。」

エンラは思い出したようにアリスに言う。


「どこいっちゃったんだろ?」


「もしかしたら…。もしかしたらですよ。」


アシュラが自信なさ気に口を開く。


「アリスちゃんの瞳を創造するための代償に使ったんじゃ。」


アシュラの言葉に皆が驚いたが、理屈ではもっともだ。


「発動するための部分はとても細かい細工が必要で代償としての価値も高いかなと……」

アシュラは確信がなく、アリスの前でそんなことを言うのは良くないと思っているから余計に声が小さくなっていった。


「そっか、それならいいや。」

そう言うとアリスは倒れているルプスに気付き、急いで駆け寄る。


「大丈夫?ルプス?」

アリスはルプスの体を揺らして起こす。


『うー、アリ…スか?』


「よかった。

アリス、ルプスが倒れているの見てすごい驚いたんだから。」


『おぉ、それはすまなかった。』


ルプスは辺りを見回して、そうかとため息混じりに呟いた。



「アリス達、今日は俺の家に来い。」

エンラの誘いに二人は喜んだ。


「よかった、お家こわれちゃったからどうしようかと思ってたの。

ありがとう、おじさん。」


いつの間にやら二人のナイトはいなくなり、三人だけが残っていた。




 □ □ □




アリスとルプスは元気に色々なことを話していたがエンラの家に着くとすぐに眠ってしまった。

それをエンラは優しくベットまで運んであげた。



「ハァー。」

エンラはため息をつきながら、グラスに酒を注ぐ。


「お前も飲むか?ルプス。」

エンラは静かにそう言いながら、ドアのほうをじっと見つめていた。


『流石にバレていたか。』


エンラは酒を皿に注ごうとしたがルプスはいらないと断った。


エンラが溢れそうなまで注いだ酒をいっきに飲み干す。

その間なんとも言いづらい沈黙が辺りに漂う。


沈黙を破ったのはエンラだった。

「で、何かようか?」


『俺は今はアリスのパートナーだ。

ベジアスが契約を解かずに死んだから、俺はアリスのものだ。』


「そうだな、で?」


『エンラ、お前はわかっているはずだ。

さっさと出せ。

指輪もアリスの物だ!』

ルプスはエンラを睨む。


「おいおい、いったい何のことだ?」


『とぼけるな!

あれはただの指輪ではないことぐらいわかっているだろう!

それにお前からは微かにだがベジアスの匂いがする。』


エンラは大きな声で笑い出す。

「ハーハッハハ!

あぁ、確かにあの指輪は俺が持っている。

だがどうする?

強いと言っても相手が俺じゃあな。」


『返す気はないのか。』


「悪いな。

だが、これでこの国は救われる。

お前もわかってるんだろう?この指輪は何に使われるか。」


ルプスは瞳を閉じ、何も言わずにエンラに一歩近付く―――。


「うっ、クソが」


『これは指輪の貸し金として貰っておこう。』

ルプスはエンラの左腕を噛み千切った。


「クソッ、獣ごときが!」


『いつか、返して貰いに行くからな!』


ルプスはそう言うと、落ちている腕から流れ出る血を短剣のように凍らせて腕を使い物にならないくらいにバラバラにすると部屋を出て行った。



『アリス起きろ!

おい、アリス!』


「んー、なにールプス?

まだ、お外まっくらだよ?」


『この家を出るぞ!今すぐに!』


アリスはルプスの何か必死な態度に目を覚まし、眠いががんばって少ない荷物をまとめ終わるとルプスの背中に乗りエンラの家を後にした。



「ルプスー、おじさんにお礼言わなくて良かったのかな?」


『エンラもそれぐらいは許すだろう。』


「んー、そうだね。

ふぁーあ、まだ眠いや。」


『もう少しだから、我慢しろ。』

ルプスがそう言うと幼いアリスはルプスの背中で眠ってしまった。



二人の行く先はこのプレートに唯一の永世中立国。

聖都へ――――




いつか、“氷ノ血ノ指環”を取り返すとベジアスに誓って。








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