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トケナイ氷  作者: 朱手
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外伝I過去と悪夢 3話・哀情



「アリス!

誰だ。

誰がやったんだ!

こんないたいけな少女を―――。」


ベジアスは涙で声が出ないくらいにまで泣きながら、魔法によって悲惨な姿になったアリスをその手に抱いていた。


エンラとルプスは泣くベジアスのもとによるがそのようすを見ていては、言葉をかけることなど出来なかった。



ベジアスはアリスを抱いたまま立ち上がる。

「……のためのちからだ……いったい何のための力なんだ!

ルプス、おいルプス、魂も肉も何もかも、何もかもやる…

だから…だから…

俺に力を――」

ベジアスは人が変わったかのように荒々しかった。


「アリスを護る力を……

アリスをこんなにした者への復讐のための力を―――」


ベジアスは娘の死をきっかけに魂の暴走が始まり、ルプスにさらなる力を求めた。


「ベジアス、正気に戻れ!」

エンラはどうにか“魂の暴走”を止めようとベジアスに呼び掛ける。

「だから……だから―――

アリスをミザリーを殺した奴ら、護ることが出来なかった奴ら全てを破壊してやる―――」


ルプスは嫌な顔をしながらも契約により縛られているため代償を貰うだけの力を与えようとした。


「やめろ、ルプス!

そんなことをしたら、ここは地獄になるぞ!」


エンラはルプスを止めようとした、がもうその時すでに遅く。

ルプスはベジアスに力を与えてしまって、ベジアスはもう人間ではない“別のナニカ”へとなっていた。


その“ナニカ”は力の塊、いや力と哀しい愛情の醜い残骸として存在していた。



自分が侵した罪を悔やむ狼は罪を償うために“ナニカ”へ向かって行こうとした。


「待て、ルプス。

お前は今、力を奴に与えて不安定になっているから俺に任せてくれないか。」

エンラはベジアスを止める役を自らかってでた。



「私達もお手伝いさせていただきます。」


振り返ると、そこには勝利宣言を終えたアシュラとインドラがいた。


ルプスは渇いた笑みを浮かべながら、ベジアスの状態を話す。

『今の奴の肉体はあの血の装甲と血に塗れた服だ。

魂は復讐心と娘への想いだけ。

そして力は……お前達三人よりも強いだろう。』


「ハッ、奴一人ぐらいに俺が負けるものか!

まして三人でなど余裕だ。」

肩の所がパックリ開いた服を着ている金髪でオールバックの男、インドラの発言はルプスを少しだけ元気付けた。


『頼んだ。』

ルプスは体力を使い果たしてしまったのだろう、その場に倒れてしまった。


アシュラはルプスを闘いの被害を受けない場所に運んでやった。




「おいエンラ、お前は近距離と遠距離どちらが得意だ?」


「俺は近距離だ。」

エンラは拳を構えて見せる。


「なら、アシュラお前は“銀狐”で援護して、エンラは俺と一緒に奴を止めるぞ!

魂の暴走だけなら一度眠らせてやれば自我を取り戻せるだろう。」


インドラの指示通りアシュラは鬼の仮面を外し、狐の仮面を被ると姿が変わる。

尻尾がいっぱい生えてきて長剣は縮み短剣になる。


エンラは両手の指に巻いていた包帯を取ると中から黒と赤の色をした爪が出てきた。

その爪に魔力を篭める。


「砂の毒指リーダーとして“血毒ノ爪(チドクノツメ)”を用いてやらせてもらう。

ベジアス悪いが、三日程眠っていてもらう。」

そう言い終わると、爪に模様が次第に浮かび上がってきた。

その模様は閉じた眼だった。


インドラは魔力を両腕に篭め、次第に変化させた。

両腕は大きな振り子刃のようになっていった。



『ウ。ヴォァッ

ヴォォォァァァァアアアッッッーーーー!!!


チカ…らがすべ…テを………コわす―――』


ベジアスだったモノも完全に変化が終わり、原型などはもうすでになかった。



「やるぞ!」

インドラの声を合図に三人は行動に移った。


アシュラがノースペルで敵の動きを止める。

それに合わせ、インドラが生身の左腕を切り付けるが意味を成さず、次にエンラが血毒ノ爪で麻痺させようと切り裂くが傷がつかないので一切の意味を成さない。


そしてベジアスはアシュラのかけた魔法を破り、インドラに襲い掛かる。


「クッ、これでもくらえ!!」


インドラは手の振り子刃をハンマーに変えて、ベジアスを殴り付けてやった。


すると、紅い装甲に亀裂が入るが剥がれはせずベジアス自身もあまりダメージはないようだった。


一瞬怯みはしたが、そのあと、インドラは地面に何度もたたき付けられ、気絶してしまった。


「インドラッ!」

アシュラはインドラのもとに駆け寄り、無事を確認して安心はする。

すぐに目を覚ますだろうが今は戦える状態なんかではなかった。

今戦力が減るのは二人にとっては最悪だ。

アシュラはこの状況に何か希望の光はないかと必死になって敵を観察した。


唯一の生身である左腕はインドラやエンラの攻撃が全然意味を成さなかったことから弱点ではなさそうだ。


娘を右手で大事そうに抱いているから右が狙い目かといえば、右のほうが頑丈に創られているのでそれもない。


インドラが残した装甲の亀裂は?と思ったアシュラは狐の仮面を外し、鬼の仮面を被った。


「エンラッ!

一瞬でいいので敵の動きを止めて下さい!」


「やってみる。」

エンラはベジアスに向けて左手を広げ、血毒ノ爪の模様を変える。

今度は鎖の模様が浮き出てくる。


そして、ノースペルで魔法を放つ。


「ヴォァァアアッッー!!」


異空間からの鎖をベジアスの首、両手、両足に絡め付ける。


その時に、抱いていた娘のアリスがベジアスの手から落ちてしまう。

それに怒ったベジアスは少しでもアリスの近くにいようと必死に抗う。


『ヴゥ―――。アリ……ス………。ア…りス…。アリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリス―――』


ベジアスはアリスを想う気持ちから無理に魔法から出ようとした。

そのせいでベジアスの亀裂が広がっていくだけでなく、エンラの左腕から血が吹き出てきた。


「早くやれ!アシュラ!」

エンラは限界まで耐えているがベジアスの力の方が強かった。


「今、斬ります!」

アシュラが剣を振り上げて向かって行く。


それを見たベジアスはアリスが危険だと感じ自分を省みないで魔法を力だけで破り、アシュラに向かって右手の装甲を刀の形にして、突き出した。


このまま行けば、必ずアシュラは刺し殺される。


アシュラは死を覚悟してそのまま突っ込もうとしたその時。


アシュラの目の前が紅く染まった。




捨て身になったアシュラを救おうとしてベジアスの刀をエンラが握り掴んで、再び鎖で縛り付けた。


「ベジアスの動きは俺が止めると言っただろ。

早くやれ!」


アシュラはその瞬間を無駄にしないためにもアシュラは長剣を装甲の亀裂に刻み込んだ。


アシュラの読み通り亀裂は拡がり、バラバラに崩れ落ちていった。


装甲が剥がれ残った肉は左腕と顔だけで他は全て代償に使ったようだ。


『ヴォォォオオオッッッーーーー!!!』

ベジアスがない躯で叫ぶ様はなんとも異様だった。


「憐れな……。

復讐の力を得るためにここまでするのか?」


「本当にあれが人間なのか。」


あまりの姿に二人はそれぞれの思うことを口に出していた。


その時、インドラが目覚め状況はさらに良くなった。

「ウッ、クソッ、頭が……」

後頭部を押さえながらも命には別状はなさそうだ。

「インドラ、あれを見ろ。」

エンラがベジアスを指差す。


「ナッ、有り得ない…

躯がない。どおりで全然ダメージを与えれないわけだ。」


「アシュラ、こういう場合どうすればいいんだ?

眠らせるにも眠る躯がないぞ。」


「困ったですね。

死んだ者をもう一度殺すのも不可能ですしね。」


三人は最悪の状況にどうすればいいのか完璧に手詰まりしていた。


ベジアスは残った躯で地を這いながらもアリスに近付いていった。


『アリ……ス―――』


ベジアスの左手がアリスに触れた瞬間、再びベジアスから力が溢れ出た。


『ヴォァァアァリィィイスゥゥウーーー!!!』


まるでその言葉がスペルかのようにベジアスが血の球体を創り出される。

血で出来た紅い装甲の破片は血に還り、さらに広範囲の死体から血を集め出した。

アリス以外の死体から。


「あの技はまずいぞ。」

「あの技はどういう技なのですか?」


「あれは“血珠ノ涙(チダマノナミダ)”という技で、ベジアス自身が編み出した技だ。

あの珠には死んだ者の血だけでなく、魂まで篭められていて、あの技をくらった者は躯だけでなく、魂までも破壊されてしまう。」


血珠ノ涙の大きさは今すでにアシュラと闘った時の十倍くらいまで大きくなっていた。


「あんなのが放たれたら、私達だけでなく、この国にいる人全員が死んでしまう。」


アシュラ達は止めるためにベジアスに近付こうとしたがあまりの魔力に一歩も近付けない。


『ア゛ァァリ゛ィィス゛ゥゥゥーー!!!』


血珠ノ涙はついに完成し、三人に向けて放たれようとしたその時―――


「……パ…パ…?」




―――奇跡は起こった。




アリスは生きていたのだ。



ベジアスは血珠ノ涙を解き、左手でアリスを抱いた。

「パパだよ…ね。

なんでか何も見えないよ、けどこの手。このかんじ。」


アリスは魔法のせいで両眼ともが見えなくなっていた。


『ア…リス―――』

「パパ!」

父の声を聞いた瞬間娘は父と分かり、娘と父は互いに抱きしめようとした。


だが、父には抱きしめる躯がなかった。


「パパ?どうしたの?

なんだかからだ中が痛いや。

でもパパがアリスのこと護ってくれたんだよね?」


『アリス……』

ベジアスは涙を流した。


娘が生きていた奇跡にと、自分はもうアリスが知っている父では無くなっていることに。


そして、ベジアスは一つの決断を下した。

『ア…リス、パパはもう一緒にはいられなくなったんだ。

でも、アリスと一緒にいたいからアリスの眼になって一緒にいてあげるからね。』


「どういうこと?」

アリスは父が何を言いたいのか分からず、首を傾げる。


『これからパパはアリスに会えなくなる。

けど、パパはアリスを見守っているから。』


「パパ?

アリス、一人はイヤだよ?

パパと一緒がいいよ。」


『ああ、ずーと一緒だよ。

可愛いアリス。』


「それなら良かった。」

アリスは父と一緒にいられるという安心感に満面の笑みを浮かべる。


『アリス、僕の可愛いアリス。

    ―我の

    魂と力を

   汝の瞳に宿し

    汝と共に

    永遠を―』

ベジアスは幸せそうな娘の額に優しいキスをした。


『―いつまでも一緒にいるよ。アリス―』

ベジアスは自身が消えていく中でアリスに最期の魔法をかけていった。



今は左手に付けていた魔装具とアリスの瞳だけが哀しく輝き続けている。







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