第I章女王とナイト 2話・買い物
「いらっしゃい、坊主。」
サーはルプスを還して食料店に入っていた。
サーは髪の色さえ見られなければ、どこにでもいる少年。
だが、髪の色を見られればきっと誰もが店にさえ入れてはくれなくなるだろう。
だから、つばの広くて髪が見えない帽子を被っていた。
「なぁ、おじさん。
適当に日保ちする食料3日分を見繕ってくれない?」
「それならな、坊主、野菜の缶詰二つに干肉250gにパン300gで銀貨5枚だ。
どうだ?」
店のおじさんは笑いながらそう言う。
「それは高いよ、おじさん。銀貨2枚。」
サーは慌てて、値段を下げる。
「んー、それなら銀貨3枚と銅貨5枚だ。
それでどうだ?」
「うーん、分かった。
はい代金だよ。」
サーはおじさんに銀貨3枚と銅貨5枚を手渡した。
「坊主これはおまけだ。」とおじさんは言いながらクッキーを3枚、袋の中にいれてくれた。
「ありがとう。おじさん。」
サーは少し幸せな気分でその食料店を出た。
サーが次に探すのは、武器屋。
(俺の今の残金は、えー金貨12枚、銀貨4枚、銅貨8枚)
サーは残金の確認をしながら歩く。
(んじゃ、武器屋武器屋
どこにしよかな
―――ここにしよ)
サーが見つけたのは
「旅のお供に“マジックアーム”」
と書かれた看板を提げた店だった。
「いらっしゃい。
何をお探しで?」
店主と思われる小柄で何処か不潔なおやじがサーに話しかけ。る
「何か新しい物とかある?」
「ありますともありますとも。
これなんてどうですか?“超小型閃光弾”
飛距離は5mで今までの物よりも飛距離は伸び、魔力を込めた3秒後に強烈な光を放ち、相手の目を潰すことがこれなら可能です。
はじめての旅には良いと思いますよ。」
「んー、それはいくらなんですか?」
「1ダース銀貨2枚です。」
「少し高い…。」
サーがそう言った瞬間おやじは顔をしかめた。
「それならお客さんの得意な魔法の属性は何ですか?」
「一応氷です。」
「それならこの“水火の壷”なんてのはどうですか?」
店のおやじが握りこぶしぐらい大きさの壷を持って来た。
「この壷の中にはすごい量の魔法元素が入りますよ。例えば水の魔法元素なら小さな池1つ分ぐらい余裕ですよ。
ただ、1つの壷の中には1種類の魔法元素しか入りませんがね。」
魔法元素とは簡単にいえば魔法の扱える属性の源のこと。
元素は“水”“凍”“火”“風”“毒”“木”の普通元素と
“光”“闇”“時”“魂”“星”“虚”の特殊元素がある。
それを組合せたりしてより強い属性が生まれる。
特に“氷”“砂”“雷”は三大属性と呼ばれていて、“神”が守っていると言われているのもこの3つの国だけだ。
あと“天”“山”“海”という特殊属性というのは神が創ったという伝説で有名だ。
「それでこれを2個とさっきの閃光弾1ダースで金貨1枚でどうですか?
これ以上はまけれませんよ。」
おやじの顔にはさっきまでの笑顔はなく、かわりにサーは満足そうな顔をしていた。
「よし買った!」
サーはすぐに財布から金貨1枚を出して渡した。
(よし次は魔装具店だな。)
魔装具とは魔法が施された服や装飾品のことだ。
魔装具店はサーの行きつけの「ウィザード・ウェポン」という店に入る。
サーが店に入ると同時に店主の女の人が
「サー、卒業だよね?
何か探してるの?
あたしが見繕ってあげるよ。」
と勢いよく言い寄って来た。
この人は“テス・プライ”。
大人の女って雰囲気を持つ“ウィザード・ウェポン”の女店主だ。
テスはサーにとって特別な存在だった。
なぜなら、今までサーが出会って、唯一サーの髪を見てもそんなのは迷信だと言い何の汚い感情も抱かずに接してくれた人だからだ。
「それじゃあ、テスさん服の上下をお願いします。」
サーは帽子をとりながらテスと話す。
「あら、あんたまだそんなのかぶってたの?」 テスはあきれたというような顔で言う。
「今日は違う店も行っていたので……」
サーは慌てて言い訳をする。
「まぁ、それならしかたないか。
服の上下ね。ちょっと待っててね。
………
…………。
こんなのどう?」
サーはテスに事情がわかってもらえ安心していると、店の奥にいたはずのテスが手に服を持ってサーの目の前に立っていた。
サーはギョッとするがテスはまったく気にせずにすぐに服を見せる。
上の服は光の加減でうすい蒼とも白にも見える透明感のある丈の長い薄手で細身のコート。
下も上とお揃いの色の細身のズボンである。
「サー着てみなさいよ。上下ともに直に着るやつよ。」
言われるがままにサーは試着室へ行き着てみた。
「ちょっと派手じゃないですか?
サイズはあってるけど…」
普段あまり派手な服を着ないサーはその色が気になるみたいだ。
「いいえ。
とても似合っているわ。その服は氷蝶の繭からとれるとても貴重な糸から作られているの。
その糸のおかげで氷の力を増幅させてくれるからあなたを敵の魔法からその服が守ってくれるわ。」
「テスさんがそう言ってくれるなら。
これってお幾らですか?」サーは恐る恐る値段を聞いてみる。
「金貨25枚ってとこかしら。」
テスは悪戯な笑みで即答する。
「に、25枚?
そんなお金ありませんよ」
サーは目を見開いて驚きながらその服を破らないように慎重にかつ素早く脱いだ。
「ヤッダァ!
私がサーからそんなにとらないわよ。」
テスは未だあの素敵な笑みは消えない。
「うーん、そうねぇ、金貨5枚ってとこかしらね。」
「そんなにまけてもらっていいんですか?」
「いいのよ。
私からの卒業祝いみたいなものと思ってちょうだい。」
テスはサーが脱いだ服をたたむ。
「ありがとうございます。」
「ところでサーはこれからどうするの?」
テスは服を箱に詰め、綺麗な袋に入れてあげる。
「一応氷の国へ行ってナイトになろうかなと思ってます。」
「氷の国?
氷の国だったらうちの支店があるわ。
もし何かが必要になったら寄ってみて、サー・クライフって名乗る長髪の男の子が来たら安くしてあげてって言っておくわ。」
テスはそう言いながら袋をサーに手渡す。
そしてその後も二人は他愛のない話をしているといつの間にか日が沈んでいるのに気が付いた。
「それじゃ、俺そろそろ帰ります。
いろいろとありがとうございました。」
サーがそう言いながら帽子を深くかぶると
テスが少し寂しそうに言う。
「サー。
こっちに帰って来た時には店に寄って顔を見せてね。」
テスは店の外まで出て行き
優しい笑顔でサーのことを見送った。
白い影が消えるまで―――
読んでいたたきありがとうございました。コメントなどがあればどんどん下さい。