外伝I過去と悪夢 2話・無情
読者の皆さん。先日ついに総読者数が1000人を越えました。
皆さんが読んでくれることが私の1番の喜びです。ありがとうございます。
これからもトケナイ氷をよろしくお願いします。
「ミザリー!アリスー!何処だー?」
ベジアスは交戦の中、妻と娘を探していた。
ベジアスはまず家のあった場所に向かった。
だがそこには瓦礫が積まれているだけとなっていた。
「ルプス、ミザリー達の魔力を感じられるか?」
『その瓦礫の下には何もない。』
「クソッ、何処へ。」
ベジアスはミザリーやアリスの行きそう所に行ってみたが、見つからなかった。
ルプスは少し考えてから話し出す。
『ベジアス、ミザリー達は私が探すから、お前は城を守れ!』
「でも――」
『私は魔力を辿れるからすぐに見つけてお前のもとに連れて行く!』
ルプスはベジアスに何か言う暇さえ与えずに去って行った。
「勝手なこと言いやがって!」
ベジアスは城の方へ入って行った。
“肉の解放”をしながら。
ベジアスの右腕は肉の契約によって手に入れた人の物とは掛け離れたモノになっていた。
指は氷の刃になって手首から肩にかけては氷の鎧になっていた。
「ベジアス、何故お前がここに?」
ベジアスに話し掛けて来たのは“エンラ”という名の砂帝軍最強のナイトだった。
「エンラさん、戦いの情況はいったい?」
二人は戦いながら会話をしている。
「敵の大将は女だ!
たぶんだが“アシュラ”だと思う。」
「アシュラってあのアシュラですか?」
「あぁ、しかもインドラも共に攻めてきたみたいだ。」
「氷と雷の各トップが?」
インドラ。雷の国最強のナイト。
アシュラ。氷の国最強のナイト。
そして、昨日ベジアスが凍らせた女の中にアシュラはいた。
そのことにベジアスはエンラがさっき言った言葉で気付いていたが驚きは別になかった。
ベジアスは自分のミスの大きさに気付いたがどうすることも出来なかった。
「エンラさん、僕は本気を出すよ。」
ベジアスはすべてもの罪滅ぼしにそう言うとポケットから鈎爪を四個と指輪を取り出し、全てを左手に着けた。
薬指に指輪をそれ以外は鈎爪を。
「エンラさん、離れていて下さい。」
エンラは言われた通りに離れると周りの柱が次々に切り倒されていった。
「これを解放する瞬間はどうしても制御出来ないんですよ。」
ベジアスは左腕の鈎爪は魔力を変幻自在に具現化するための魔装具だった。
「ベジアス、俺が援護するからお前は突っ込め!!」
ベジアスは大量の敵の中に消えて行ったかと思うとエンラのサポートなしに殆どの敵を倒してしまった。
「ハァハァ、やりましたよ。」
ベジアスが手を上げて喜んだ瞬間。
「危ないベジアス!」
エンラがベジアスをかばい、伸びてきた何かを掴んだ。
「お前がアシュラか?」
エンラが掴んだ物は尻尾でその先には狐の仮面を着けて尻尾がたくさんある女がいた。
「いかにも、私がアシュラです。
あなたがエンラですね。
もうこの城が堕るのは、時間の問題です。
降伏しなさい。」
「何を言っている?
俺も生きていて、砂帝も生きているのにか!」
「砂帝は直に死にます。
なぜなら、インドラが彼のもとに向かったからです。」
「ナッ、見ないと思ったら……。」
「さぁ、早く!
無駄な血を流させなくはないのです!」
「悪いな、アシュラ。
死んだ仲間のためにも砂帝が死ぬまでは闘い続けなければならないんだよ!」
そういうとエンラは手首に巻いていた鈴を乱暴に引きちぎり、二回鳴らした。チリン、チリンと。
「エンラ様。」
「エンラ様。」
「エンラ様。」
「エンラ様。」
4人の部下が現れた。
「“砂ノ毒指”!」
仲間であるベジアスでさえ、その4人を見て驚いていた。
「砂ノ毒指?」
アシュラは彼らを知らなかったようだ。
「今、砂帝がインドラと闘っている。
砂帝を保護しろ。
決してインドラと闘うな!」
「ハッ。」
「ハッ。」
「ハッ。」
「ハッ。」
エンラが砂ノ毒指に命令を下すと、4人は消えて残された3人は睨み合っていた。
「ベジアス、コイツはかなりの強者だ。
お前は逃げろ。」
「何を言ってるんですか!
強者なら二人で闘ったほうがいいですよ。」
そう言うとベジアスは無謀にも突っ込んで行った。
「愚かな。何の策もなしに。」
「策ならあります。
そんなに長い尻尾何本も付けていて、接近戦に向いているとは、思わないですが。」
右腕の氷の刃で切り刻もうとしたら。
「そんな安易な策では、私に勝てませんよ。」
氷の刃が受け止められていた。
槍のように長い剣によって。
その長剣を持っているのはさっきまでいた白狐の仮面を着けた女ではなかった。
今は鬼の仮面を着けている女がいる。
それはまるで別人のように魔力の質が違っていた。
「お前は誰だ?」
「フフッ、誰と聞かれましてもアシュラです。」
アシュラは姿が変わったことに戸惑っているベジアスを見て笑っていた。
「なら、これならどうだ!」
少し間合いをはかり、左腕の鈎爪を鞭のようにしてアシュラを裂く。
「あなたでは相手にならないわ。
下がっていて下さい。」
アシュラはベジアスの背後にいた。
「まだだ。奥の手を見せてやる!」
「ベジアス!いい加減にしろ!」
エンラが怒鳴ったがもう遅く、“力の解放”を始めていた。
すると、周りの戦死した敵味方の死体から血が流れ出始めて、ベジアスを包む。
「何ですか、この魔法は?」
「魔法じゃねぇ。
力の解放だ。」
「力の解放――」
解放が終わった瞬間に。
「驚く暇など与えない。」
ベジアスの声が聞こえたかと思えば、紅い針のような物がアシュラの頬を掠める。
「わ、私がみ、見えなかった?」
ベジアスの姿が見えた。
闘いでボロボロになった服は血の装甲によって修復され、フルフェイスの仮面を被っていて生身の部分は左腕のみだった。
右手に血と魔力を集め始める。
「悪いが死んでもらうよ。」
集めた血と魔力を球体にしていた。
「何か知らないけど、止めさせてもらうわ。」
アシュラは長剣を振るう。
「流石に素速い。けど僕よりは鈍いな。」
ベジアスが球体をアシュラの心臓に押し付けようとしたその時。
『ベジアス!アリスを見つけて連れて来たぞ!』
ベジアスはルプスと娘のアリスに気を取られて隙が出来たのを見逃さずにアシュラは血の球体を破壊した。
だが、そんなことは気にせずに娘に駆け寄っていった。
「アリス!」
「パパー!」
アリスも父に駆け寄り、大声で泣いていた。
「ルプス、ミザリーは?」
『すまない。行った時にはもう………』
「グスッ、あのねパパ。
ママはね、アリスを護ってくれたの。」
「そうか。おまえだけでも無事でよかった。」
ベジアスは妻の死を聞かされたが、娘の前で涙を流さないでいようと我慢し、娘を抱き寄せた。
するとその時。
「砂帝を討ち取ったぞー!」
インドラのだろう叫び声が国中に響き渡った。
「終わりました。
エンラ降伏なさい。」
アシュラはインドラが勝利の雄叫びを上げてるのを聞き、もう一度降伏を奨める。
「分かった。
我々の負けだ。
なぁ、ベジアスもういいだろう。」
「砂帝が死んだんなら仕方がないですね。
降伏します。」
「ありがとう。
では私は宣言してきます。」
その時、何者かがベジアスを狙って魔法を放つ。
「キャャァアアアー」
当たったのはアリスだった。
「ア、ア、アリスー!」
終わった戦場に娘の名を呼ぶ父の想いだけが虚しくこだまする。
魂の支えを求めて。