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トケナイ氷  作者: 朱手
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第II章騎士団とナイト 4話・具現化

 もう太陽が沈みかけて、辺りは朱く染まってきていた。


「フォッ、フォッ、次は具現化の修業じゃ。」


 トラクトは革で出来た袋のような物をポケットから取り出し、サーに手渡した。


「それはただの水筒じゃ。蓋を開けてみぃ。」


 蓋を開けると確かに水が入っていた。


「具現化ってことは水を凍らせて、武器を創ればいいんですか?」


「フォッ、フォッ、よく分かったのぅ。

では、創ってみぃ。」


 サーは左手に魔力を篭め徐々に水筒から水を出していき、長刀を創りだした。


 再び、ポカンッという音が闘技場内に響き渡る。


「なんじゃ、その長いのは!

そんな物はこうじゃ!」


 サーの創った刀に触れるか触れないかの紙一重でトラクトは手を弾くと簡単に刀が折れてしまった。

「ナッ!」サーは驚き、刀の硬さを確認する。


 トラクトが折れた先のほうを手に持ち、水に還し、そして、魔力で圧縮し小さな氷の珠を創った。

「わかるか、この差が。

おぬしが創ったのはただの氷瑰で、わしが創ったのは簡単には割れない氷じゃ。

試しにその折れた刀で切ってみろ。」


 サーは少し意地になり、刀を大きく振り上げ、めいいっぱいの力で切り付ける。



 割れた。 見事に砕け散った。




 サーが握る刀が。


「フォッ、フォッ、きれいに粉々になったのぅ。

じゃが、この小さな珠は傷一つと負ってはないか。」




 サーは砕け散ったかけらを一つ握り、悔しさに任せ握り潰した。


「なんじゃ。

おぬしはこの程度か?」


 辺りはすっかり暗くなっていた。


「今日の修業はここまでじゃ。

明日、もしやる気があるなら再び来い。

修業には何時間でも付き合ってやるからのぅ。」


 トラクトは言うだけ言うと帰って行った。


 でも、サーはもう一度自分で水を汲み、挑戦した。


 しかし、出来たのはやはり脆くただ大きいだけの物だった。




(凍の魔力が水の表面だけにしか広がってない。

魔力を操れきれずに勝手に……

フッ、どんなに頑張ってもあれでは無理だな。)

 未だ闘技場にいたブラッドはサーの様子を遠くから見ていた。


(さて、自分の修業でもするか。)




 サーは未だにそのことを知らずに何度も何度も硬い氷を創ろうとしていた。


(堅い氷……堅い氷と脆い氷の違いってなんだろ?)


 サーはただやみくもに水を凍らせるのではなく、どうすれば良いかを考え始めた。


(んー、師匠は凍の魔力以外も使ってたみたいだけど…………

俺が使えるのは水と凍、あとはそれら両方を併せての氷の三種類だけだからなぁ。)


 サーが悩んでいると、段々と熱くなってくるのを感じ、振り返ってみると、そこにブラッドがいるのに気付いた。


 その姿は炎に包まれながら二本の刀を手に持ち、踊るように修業していた。


 サーが見ていることに気付いたブラッドは修業をやめ、闘技場を出て行こうとした。


「ブラッドさん、俺邪魔でしたか?」


 サーは慌てて話し掛け、話し掛けられたブラッドは少し意外そうな顔をしながらサーを見る。


「邪魔はお互いだろ。」


 サーはブラッドの言っている意味がイマイチ理解出来なかった。


 それの様子を呆れながらも説明し始めた。


「お前は簡単に言えば、密度の濃い氷か温度の低い氷を創ろうとしているんだろ?

明らかに俺が近くにいたら温度が騰がって邪魔だ。」


 サーは急に笑顔になり始める。


「ありがとうございます。

そうか、もっと冷たくすればいいのか。」


「フンッ、そのぐらいのことにも気付けなくてどうする。

あと、お前の凍の魔力は水の表面しか凍らせられてないぞ。」


 ブラッドはそう告げると闘技場を出て行った。




 サーは再び水を汲んで来て、凍らせようとしていた。


 凍の魔力を必死に開放し水にだけ集中して篭めた。


 しかし、確かに温度をさらに低くして堅くはなったが、トラクトの氷程の堅さはなかった。


「なんでだろ?

まだ冷たくしないといけないのかな?」


 サーはもう一度さっきよりも凍の魔力を篭めて氷を創ったが、やはり簡単に割れてしまった。


「なんでだろう?」


 サーは割れた氷が溶けていくのをじっと眺めていた。

 その氷は内側から溶けていき、サーはブラッドの最後に言ったことを思い出した。


「内側から凍らせればいいのか。」

 サーはひらめいた考えの通りに氷を創ってみた。


 まずは、水の全体を凍らせるのではなく、中心の部分からゆっくりと凍らせていった。


 そうして出来た氷の剣は初めに創った剣よりは小さかった。


 だが、その剣でまだ溶けずに残っているトラクトが創った珠、目掛けて切り付けた。




 すると今度はトラクトが創った珠が二つに割れていた。




 成功した安心感と極度に魔力が減っていたからかサーはその場に倒れ、眠り込んでしまった。





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