第II章騎士団とナイト 3話・魔力
「よくも、まぁゴーレム三体を倒せたなぁ。
ワンコロ。」
「ワンコロ?」
サーの顔がヒク付き始める。
「なんじゃ、ナイト“D”が文句を言うのか?」
「ナイト“D”って何ですか?」
ベルの推薦によってナイトになったサーはナイトの詳しいことはあまり知らなかった。
「なんじゃ、そんなのも知らぬとは、“D”も惜しいわい。」
トラクトは疲れたというかのように話し出す。
「ナイトには階級が存在して、“A”から“D”まである。
まぁ、他にも専門の階級がある、例えば、わしはこの国唯一の“Σ”じゃ。」
「へー、じゃ俺はどうしたら階級を上げられるんですか?」
「フォッ、フォッ、簡単じゃよ。ただ強くなればよいだけじゃ。
そこでわしがシード様に頼まれたのじゃ。
“Σ”とは全ての魔法元素を操れる者だけが授かる階級、つまりどんな奴でも戦え鍛え上げれる。
だからわしがワンコロの教育係になったのじゃ。それでは場所を代えて鍛えてやるぞ。」
「ハイッ。」
サーはトラクトに着いて行った。
(あれ?ブラッドさんはどこ行ったんだろ?)
□ □ □
「ここは闘技場。
唯一どんな魔法を放っても常に許される場所じゃ。
さてワンコロには基礎からやり直してもらう。」
「えっ、大丈夫ですよ。俺は十分強力な魔法も使えてますし。」
トラクトはため息をつきながら説明し始める。
「魔法には大きく分けて“具現化”・“具象化”の二つがある。
“具現化”は魔法元素を魔力で集め、固めて、それを使いスペルを唱えた者自身が攻撃をする。
“具象化”は魔法元素に魔力を混ぜ、操り、魔法元素自身で攻撃する。
例えば、ワンコロが使った魔法で“千狼万牙”という魔法は狼の形になるまではどちらかと言えば、具現化で、その後の狼を操るのは具象化にあたる。」
聞いてはいるがあまり理解出来ていないサーの様子にトラクトは気付き、どこから取り出したか水の入った水晶を渡した。
「何ですか、これ?」
渡された水晶を覗き込みながら話す。
「これはただの大きなガラス球の中に水が入った物じゃ。見本を見せてやれ、スズメ。」
「スズメ?」
サーが疑問に思っていると。
「スズメとは俺のことだ。」
いつの間にかブラッドが闘技場内にいた。
その手にはサーの今持っている物と似た物を持っていた。
「よく見ておけ、ワンコロ。」
トラクトの言う通りにサーはしっかりとブラッドの持つ水晶をまっすぐ見た。
ブラッドが両手に魔力を篭める。
すると、水晶に一切の変化はなかったが中に入っていた水が蒸発してしまった。
「これが具象化じゃ。
スズメは火が得意じゃから水は蒸発してしまったが、ワンコロなら水を凍らせるはずじゃ。
ほれ、やってみぃ。」
サーは両目を閉じて、ゆっくりと魔力を開放していき、水を凍らせようとした。
その時。
「ヤメェー!」
トラクトの叫ぶ声に驚き、サーは慌てて魔力を抑える。
「バカが!
わしは水を凍らせろと言ったのじゃ!
誰が水晶や床まで凍らせろと言った!」
周りを見回すと床はサーの手より漏れた魔力により凍り付き、水晶に至ってはサーの手ごと凍り付いてしまっていた。
「えっ、あれ?取れない。」
「はぁー。
助けてやれ。」
ブラッドがサーの方向に手を翳すと、一瞬にして氷が溶け、辺りに水が流れ落ちる。
「おぬしにはまず魔力の性質から教えよう。
魔力とは我ら人が生み出し、操ることが出来る唯一の力。
だが、その力を完璧に操れないまま使うと己の身を滅ぼすことになる。
まさに今の貴様がいい例じゃ。」
サーは自身のさっきまで凍り付いていた手を見た。
その手に外傷はないが凍り付いていた間は血が通ってなかったことを教えるためのように未だ痺れ震えていた。
「魔力については分かったじゃろ。
次は“氷”についてじゃ。
“氷”は“水”の魔法元素に“凍”の魔法元素を併せたものじゃ。
氷は主に敵を束縛するか刃や角のように研ぎ尖らせ、攻撃するかじゃ。
じゃが、氷の真髄は“血”じゃ。
“血”は生きる者なら必ず持ち、流れる水。
それは“氷”を操るおぬしも例外ではない。もし操ることが出来れば、敵の血を味方につけることも出来るが、自分の血を自分自身で凍らせ、滅ぼしてしまうこともありえる。
今のおぬしを見れば明らかじゃ。
おぬしが死にたくないならば、修業一つに対しても真剣に取り組め。分かったな。」
やっと血が通ってきた手を見ながら、トラクトの言った意味を自身の体が理解したサーはもう一度手元の水晶を持ち上げ、魔力を篭める。
「フォッ、フォッ、やれば出来るじゃないか。」
水晶の中の水が凍り付きコロコロと転がっていた。
「で、出来た。」
サーは力が抜けてしまいへなへなとその場に座り込んでしまった。
(このワンコロやはり筋がいいのぉ。
やはり、四ノ鍵番をも超えられる。フォッ、フォッ。)
「どうしたんですか、師匠?ニヤニヤして?」
闘技場にポカッという音が鳴り響く。
「ニヤニヤなどしとらんわ!」
殴られた場所をさすりながら、確実に強くなっていることを自身で実感していた。
(サー……クライフ…か。…四ノ鍵番…この俺をか。)
ブラットは少し離れた所でその様子を見て、武者震を起こしていた。
今までの分とかも振り仮名をふりました。