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噺谷さんのお話「未来予知」

作者: みなづき

「こんにちは。」


日が傾き始め、夕暮れ差し込む教室に彼は居る。

校舎の外からは活気のいい部活の声が響きわたる。


「はじめまして、でよろしかったでしょうか?」


猫っ毛な黒髪と、少しつり上がった瞳。

猫のような雰囲気をかもし出す少年。



「あのー、声は聞こえていますか?今読んでいるあなたに聞いているのですが…あ、読んでいるんだから声は聞こえないですよね。」


はにかんだ拍子に、口元の八重歯がはみ出た。



「申し遅れました、僕の名前は噺谷(ハナシヤ) (ツヅリ)と言います。ここにこられたってことは、僕の話が聞きたかったってことでいいですよね?」












「………。」




「だ、大丈夫ってことですよね。では、失礼致します。」


「あなたは、超能力というものに興味がありますか?念動力(サイコキネシス)精神感応(テレパシー)など、様々なものが存在し、誰しもが一度は手に入れたい、なんて思ったことがあるのではないでしょうか。」


「そのなかでも、今日は未来予知(プレコグニション)について話をしたいと思います。」


「未来予知とは、未来に起こることを予知すること。その方法はさまざまで、夢だったり、お告げだったり。」


「未来が予知できれば、テストの問題も事前に分かり、どこでミスをするのかも分かります。そうすれば自ずと幸福が得られると思いますよね。」


「ただ、能力は必ずしも幸福を運んでくれるとは限らないんですよ。おっと、雲行きが怪しくなってきましたね…」





窓から外を眺めると、真っ黒な雲が空を覆いこみ、雨が降り出していた。

グラウンドでは、サッカー部が練習をしている。


「おーい、雨がひどくなるから屋根の下に入りなさーい!!!」

サッカー部の顧問が、大きな声で部員に向けて叫んだ。


蜘蛛の子を散らすかのように、部員が屋根の下へと避難すると、一人の部員がボールを拾いにグラウンドを走り抜けた。


次の瞬間、轟音が真っ白な光とともにグラウンドへと降り注いだ。


雨音だけが自由を許されたかのように音を立て続ける中、その少年は倒れた。


「はるとーーー!!!」

サッカー部の顧問が、少年のもとへと駆け寄る。



数分後、彼方から救急車のサイレンがけたたましい音をたてながらやってきた。




--------------------------





嫌気がさすようなノイズ音。



「意外と元気じゃん!どう、可愛い看護師さんとかいたか?」


断片的な夢。



四元(ヨツモト)さん、なんと今日の夜ご飯はハンバーグですよー。」


ひとつひとつのシーンの合間を埋めるように生じる砂嵐。



「いつもいつも騒がしくて眠れんわい!」


嵐に飲まれたかのように、場面という情報が俺の頭の中を埋め尽くす。



ズキッ



「っん…。」


目が覚めると、真っ白な天井が見えた。


ここ最近の記憶があいまいで、自分が今どこにいるのかが分からない。


体を動かそうにも、なかなかうまくいかない。

どうにか頭を動かすと、自分の腕から伸びるたくさんの管が見えた。


「えっ…」


思わず声がでてしまった。


「なんじゃい、目覚ましたんか。」


ベッドを仕切るカーテンの向こうから、しわがれた声が聞こえた。


「そこにナースコールがあるやろ?それ押したら看護婦さんが来てくれるけぇ、押してみい。」


「すみません、それが体がうまく動かなくて。」


「兄ちゃん、若いのに大丈夫かいな。まぁええわ。ワシが呼んだるけぇの。」



しばらくすると、病室の扉が開かれる音がし、沢山の人が入ってくる気配を感じた。

閉じられたカーテンの向こうから、メガネが似合うエリートそうな医師と若くて可愛い看護婦が現れた。


「四元さん、目を覚まされたのですね!よかったです!」

「どれどれ、体の具合はどうかな?」


「あ、あの…」


「おっと、突然すまない。私の名前は白井(シライ)。君の担当医師だよ。で、こっちは…」

「私は看護婦の那須(ナス)って言います!一応、この部屋の担当だからよろしくね!」


「あ、よろしくお願いします。」


「早速だが、君はなぜここにいるか理解しているかな?」


「いえ、分からないです。」


「そうか。実は君はここ1週間程眠り続けていたんだ。原因は雷による感電。1週間前、部活動の時間にグラウンドに落ちた雷によるものだ。とりあえず、君が目を覚ましてくれてよかったよ。保護者の方への連絡を済ましてくるから、しばらくは安静に待っていてくれたまえ。那須くん、頼んだよ。」


「分かりました!ってなわけで、まずは体温から計らせてもらうね!」


「あ、お願いします。」

こんなに可愛い人に触れられるとか考えると、なんだか緊張してしまう。



それから数分すると、お母さんが来室し、俺を見るなり泣きだした。

なんでも、このまま一生目を覚まさない可能性もあったらしい。


明日、精密検査をして特に異常が見られなければ、今週中には退院できるとのことだった。


俺の目覚めによる興奮は、夕方まで続いた。

さすがにその時間になると、お母さんも夕飯の準備があるとのことで帰宅した。



「やっと落ち着けるのぉ、兄ちゃん。」


また、隣のベッドからしわがれた声がした。

この騒がしかった時間、ずっとそこにいたようだ。


「すみません、騒がしくしちゃって。先ほどはありがとうございました。ナースコールを代わりにしてもらっちゃって。」


「かまへん、かまへん。ワシのできることはそんなもんくらいじゃけえ。」


恐そうな喋り方をする人だが、すごく優しい人なのだろう。


「疲れとるやろ?ゆっくり休むとええぞ。」


「ありがとうございます。」

やることが無いせいか、俺はそのまま眠りに落ちてしまった。









ノイズ混じりの音声が聞こえる。


「さっそく退院の用意しなきゃだね!」

那須さんが微笑んでいた。


ドンッ、ドンッ、ギシッ、ギシッ。

ベッドの上、見えるのはスマホのゲーム画面。

何かの音が響いていた。


「もっと早期に発見できていれば…、全ては私の責任なのかもしれない。」

苦虫を噛み潰したような、ひどい顔をした白井医師。


古い映画のフィルムが、パラパラと物語を描いていくように、その日の夢もまた断片的な物語を描いていた。




ズキッ




目を覚ますと、頭に違和感があった。

これも落雷の影響なのだろうか。

そういえば、今日は精密検査の日だから何か分かるだろう。


「おはようございまーす!ありゃ、私が起こしに来る前に起きてるとは。四元さん、やるね!」


朝からテンション高めな那須さんが病室に入ってきた。


「あ、おはようございます。朝からテンション高いですね。」


「テンション上げてかなきゃ、やってられないからなー!あれ、山井田(ヤマイダ)さん、大丈夫?なんだか顔色悪そうだけど。」


「んー、何も変な感じはないけどのぉ。」


隣のベッドの人は、山井田さんと言うらしい。

そういえば昨日名前を聞いてなかった。


「そうですか?また何かあったら言ってくださいね!」



こうして、俺の一日は始まった。


精密検査では、特に異常が見つからなかったらしく、白井医師も喜んでくれた。

明後日には退院できることを伝えられた。

だが、定期的には通院することになるらしい。


昼過ぎには全ての問診も終わり、ゆっくりしているとサッカー部の友達である坂田(サカタ)が見舞いに来た。


「お前、大丈夫だったのかよ?あん時ヤバかったんだからなー!」


「そんなにすごかったんだ。」


「ほんと、すっげぇの!ピカっと光った後に、遥人ハルトが倒れるんだもんな!」


坂田はいつも笑ってる。

いつも笑ってるから、周りにいるみんなも笑顔になれる。クラスのムードメーカーだ。


「これで遥人はサンダーマスターだな!」


「電気系の技で、世界でも救うのか?」


「それ、面白いな!」

つまらないネタでも笑ってくれるところも、坂田のいい所だと思う。


「それにしても意外と元気じゃん!どう、可愛い看護師さんとかいたか?」


ニヤニヤとしながら小突いてくる坂田。

しかし、俺は一瞬ボーッとしてしまった。


何かに違和感を感じたのだ。


しかし、それが何か分からず、すぐに忘れることにした。


「うん、俺の担当の那須さんって人が可愛いよ!もう少ししたら来るんじゃないかな?」


「まじで!いーなー、俺もそんな人に看てもらいたい!!!」


くだらない話で盛り上がっていると、ちょうど那須さんが病室に来た。


「ありゃ、お邪魔だったかなー?夜ご飯持ってきたけどー。」


「あ、お構いなく!!!おい、あの人がウワサの那須さんか?めちゃ可愛いじゃねぇか!」


小声で伝えてくるあたり、本当に思ったんだろう。

坂田も気に入るくらいの可愛さみたいだ。


「すみません、ありがとうございます!ちなみに、こいつが友達の坂田です。なんでも那須さんがタイプらしいですよ!」


「お、おい、お前!」


顔を真っ赤にして焦る坂田に対して、くすくすと笑ってる那須さん。多分言われなれてるんだろうな。さすが大人の女性だ。


「さ、そろそろご飯の準備しちゃうね!じゃじゃーん!四元さん、なんと今日の夜ご飯はハンバーグですよー。男の子ならハンバーグ好きでしょ!」


「えっ…」

やっぱり変だ。

この光景をどこかで見た気がする。


「ありゃ、ハンバーグは好きじゃなかったかな?」


「い、いえ、そうじゃないんです!なんかこの光景をみたことあるなー、なんて思って。」


「なんだそれ、気のせいじゃないのか?」


「気のせいじゃないと思うんだけどな。」


「んー、もしかしてデジャブってのじゃないかな?同じこと経験したことあるって感じるやつ!」


デジャブ・・・初めて聞く単語だから正直意味は分からなかったけど、たぶんそうなんだと思った。

そうなのだ、と自分に言い聞かせているようにも感じた。



病室での一日は長いもんだと思っていたが、案外短く感じた。

いろんな人がお見舞いにきてくれたからこそ、一日が充実したものになっていた。


デジャブ。

スマホで調べると、「始めてくる場所、初めて見る物なのに、すでに前に体験したかのように感じること。」とあった。

今日の違和感が気になりすぎて、調べているがこれ以上の情報は見当たらなかった。

時刻は23時をさし、院内の電気も消えている。

そろそろ寝なければと思うのだが、なかなか寝つけないでいた。


自分の体に、何か変化が表れているのかもしれない。

そんな妄想までしてしまうほどだった。


「うぅ~・・・」


隣のベッドからうなり声が聞こえてきた。

今日一日、隣の山井田さんは調子があまり優れなかったようで、俺と同じく寝つけていないのだろう。


「あぁ~・・・」


うなり声はどんどん酷くなり苦しそうな声になってきた。昨日助けてもらったこともあるので、心配になってしまう。


「山井田さん、大丈夫ですか?」

ベッドを隔てるカーテン越しに声をかけても、なかなか返事がない。

もしかして、寝ているのだろうか。それとも、聞こえていないのだろうか。


「山井田さん?」


声をかけたと同時に、カーテンの向こうで動きがあった。

山井田さんが、ベッドから起き上がった。


「じゃかぁしいわ!いつもいつも騒がしくて眠れんわい!」


突然の怒鳴り声に、驚いてしまった。

別に大きな声で声をかけたつもりもなかったし、声をかけたのも初めてのことだ。


「ご、ごめんなさい・・・。」


「あ・・・、おぉ。・・・なんや寝ぼけとったみたいやな。すまん、びっくりさせてしもうたな。」


寝言かよっ!

さすがに夜遅かったので、つっこむのは辞めておくことにした。



うとうとと眠りに落ちそうになった時、さっきの出来事もデジャブだなと気づいた。






その日もまた、夢をみた。


「ほんと、お世話になりました。ありがとうございました。」

お母さんが病院の玄関で、白井医師と那須さんに挨拶をしている。


砂嵐やノイズが混じり、ところどころが分かりづらい。


お母さんが運転している車が、事故にあう映像。

助手席からの視点だから、たぶん俺は横に座っているのだろう。


がらっと場面が変わり、今度は自分の部屋で机に向かって何かをしていた。

ノートと筆記用具があるあたりからすると、勉強でもしているのだろうか。


夢の中だというのに、やけに現実感のある内容だった。




ズキッ


目が覚めると、やはり前頭部に痛みが走る。

そして、気づいた。

デジャブを感じたのは、夢での出来事だということに。


ただ、いつの夢なのかという感覚がうまくつかめないでいた。


とりあえず、今日見た夢をノートにまとめておくことにした。



・自分の退院。

・お母さんの交通事故

・自分の机、勉強。


これからは、この違和感について調べていこうと考えていると、病室の扉が開き、那須さんが朝の検診のために来た。


「おはようございます。」


「おはよー!四元さんは今日も朝早いね。」


「いやいや、俺なんて那須さんに比べたらゆっくりなもんですよ。」


この時間に化粧もばっちりしてくるってことは、相当早くに起きているのだろう。

もし自分が女に生まれてたとしても、無理だろうな。


「ありゃ、今日もなんだか具合が悪そうだけど、山井田さん大丈夫?」


「おう、なんだか調子が優れんくてのう。」


「じゃあ、午後に検査入れておきますね!」


普段から周りに気をつかっているのだろう。

その優しく、可愛い容姿から、那須さんは「天使」と呼ばれていることを昨日知った。

ただ、病院で「天使」はいいのだろうか、と疑問に思ったことは言うまでもないが。


「四元さんは、さっそく退院の用意しなきゃだね!明日には退院なんだから。」


「そうか・・・、そうなんだ!明後日なんだ!」


「え、明後日?」


「あ、いや勘違いです。退院は明日ですよね。」


焦りつつも、頭は意外と冷静に判断をしていた。

明後日・・・そう、二日後だ!

夢を見た二日後に、デジャブが来る。

なら今日見た夢は明後日にデジャブが起こるということだ。


二日前の夢・・・。

思い出せない。

どんな内容だったのか、さっぱり分からない。



時間だけが過ぎていった。


昼食を済ませ、ベッドで横になりスマホでゲームをしていると、

隣の山井田さんのベッドで異変が起きた。


ドンッ、ドンッ、ギシッ、ギシッ。

ベッドを叩く鈍い音。そして軋むような音がカーテン越しに届いてくる。


デジャブだ。

この光景を見たことがある!


そして思い出した。

次に見た場面は、白井医師が反省してへこんでいるところだった。



そうか、もしかして山井田さんは実は重病か何かで、それを発見できなかったことを後悔しているのではないか。

今、カーテン越しに聞こえる音は、山井田さんが苦しんでいる様子で、それが不幸につながっていくのでは。

考えれば考えるほど、話のつじつまが合っていく気がした。

自分がなんとかしなくては、そうまで考えるほどだった。


あの時、俺がナースコールを押せなかった時に代わりに押してくれたのは山井田さんだった。

今度は自分が救う番だ。


そう決心すると同時に、ベッドの頭元にあるナースコールを押していた。

押してから数秒後に、白井医師と那須さんが病室に入ってきた。


「大丈夫ですか、四元さん?」


「いや、俺じゃなくて山井田さんのベッドの方から変な音がしたんで。」


「え・・・、山井田さん、失礼しますね。」



そう言って、白井医師が山井田さんのカーテンを開けると


白目で泡を吹き、もがき苦しむ山井田さんがそこにいた。


那須さんが悲鳴をあげ、白井医師が応急処置をし、山井田さんが緊急搬送される間、

俺は別のことを考えていた。


それは、この現象が「デジャブ」ではなく、「予知」なのではないかということ。



今までのこと、そしてこれからのことを考えてみると、納得がいく。

昨日、坂田が見舞いに来たこと。

夜ごはんでの違和感。

今日の山井田さんの症状。

明日、俺が退院すること。


つまり、そこから分かることは、


明日、お母さんが事故にあうことだ。

ただ、次に場面を考えれば、俺自身にはいたって被害は生じてないのだろう。


しかし、お母さんはどうだろうか。

考えてもしょうがない。


事故を起こさないようにすればいいだけのことだ。


考えているうちに、時刻は夜の19時をさしていた。



山井田さんの症状は回復の方向に向かっているらしい。

さっき白井医師が感謝の言葉とともに知らせてくれた。


「四元くん、君が早く知らせてくれたからこそ、私たちは山井田さんを救うことができた。本当にありがとう。体に異変があったのを山井田さん自身は自覚があったらしい。しかし、私たちはそれに気づくことができていなかった。もっと早期に発見できていれば…、全ては私の責任なのかもしれない。」

苦笑いで説明してくれた白井医師からは、ひどく疲れた印象を受けた。

山井田さんは意識を回復したが、後遺症が残ってしまう恐れがあるらしい。


今回の山井田さんのことも、もし俺がもっと早く予知だと気づいていたなら、

もっと別の結果になっていたかもしれない。


そう考えると、胸の奥がグッと苦しくなった。


今日から、夢を忘れないようにメモをし、

少しでも良い未来になるように努力しようと決心した。



そしてまた、今日も夢を見る。







ノイズ混じりだった夢は、回数を重ねるごとに明瞭になってきている気がする。


学校のグラウンドで、サッカー部の仲間が練習試合をしていた。


スマホから誰かに電話をしている自分。


夜、近所をランニングしている光景。


これが二日後に起きる出来事。

特に注意すべき重要な内容はなかった。




ズキッ


目が覚めてから、急いでノートを開いた。

忘れないうちにメモをしないと。


寝ている間もいろいろと考えていた気がして、正直寝た気がしない。

もし、このままもう一度眠りに落ちたらどうなるのだろうか。

たまには二度寝も悪くないと思い、布団にもぐると

俺の意識は、すぐにまどろみの中へと落ちていった。



「四元さーん、起きますよー!今日は退院の日なんだからね!」


那須さんに起こされて目が覚めたが、予知夢を見た感覚がなかった。

やはり、二度寝では見ることができないのだろう。


朝食を食べ終わり、ゆっくりしているとお母さんが来た。

昼には退院しなきゃいけないらしく、ドタバタとしてしまった。



「ほんと、お世話になりました。ありがとうございました。」

お母さんが白井医師と那須さんにあいさつを告げていた。

これも予知夢にあった内容と同じだ。


「お大事にね!」

那須さんは最後まで笑顔で対応してくれた。

「また、来週には一度検診に来てください。」


「はい、ありがとうございました。」

ここからが重要だ。

何としても交通事故を避けないと。


夢の中で、俺は助手席に乗っていた。

なら、後部座席に乗っていたらどうなるのだろうかと考え、後部座席に座ろうとすると

後部座席には荷物がたくさん積まれていた。


「ほら、早く乗るよ。助手席が空いてるでしょ!」


まだ手段はたくさんある。

今度はお母さんに忠告をしてみることにしよう。


エンジンがかかり、車が動き出す。


「お母さん、運転には気をつけてね!」


「分かってるわよ。だてにゴールド免許持ってないんだから、安心しなさい!」


この慢心が事故につながらなければいいのだが。

だが実際、お母さんが今まで事故をしたところを見たことがない。

本当に起こるのだろうかと疑問を抱かないわけでもなかった。


その後も順調に車は進んでいく。

途中、危なげな場面はあったものの何事もなく済んだ。


もうすぐで家だ。

これなら予知の結果が変わるかもしれない。

そう思った矢先だった。

後ろから乗用車が突っ込んできた。

やはり、未然に防ぐことはかなわないのかもしれない。

不幸中の幸いだったのは、お母さんも俺もケガがなかったことだ。


予知について、今日分かったことをまとめておこうと思う。

机に向かって、ノートを開くところで気づいた。

予知で見た勉強をしていると思われた光景は、予知についてメモをしている場面だったのだ。



・予知で見た光景は、覆せない。



覆せなくても、最悪の場面は避けられる。

そんな些末な期待を胸に、また今日も眠りにおちる。


今日の夢は、一生忘れることのないくらいに重大な夢となった。

あわよくば、この夢が予知ではないことを祈る。





時計は14時をさしていた。

大きな揺れが俺を襲い、家の中の物が倒れた。


道路には亀裂が走る。

至る所で火災が起き、家屋が倒壊していた。


夕暮れ時、走りだす自分。



ズキッ


起きた時、尋常じゃないくらいの汗をかいていることに気づいた。

もし、今起きたことが現実に起こるとしたら。

大惨事は免れないだろう。

不安に押しつぶされそうになる中、記憶に新しい夢の内容をノートへと書き写した。


・昼の14時に地震。俺は家の中にいた。

・亀裂。火災。倒壊。

・夕暮れ時に走る自分。


どうしていいか分からなかった。

明日地震が起こると誰かに言えば信じてくれるのだろうか。


分からない。


とりあえず、家族に伝えようと自分の部屋を抜け出しリビングに向かうが、誰も家にはいなかった。

時計を見ると、時刻は10時をさしていた。

お父さんもお母さんも仕事に出ている時間だった。


家族なら、まだ伝えるときはある。

次に頭に浮かんだのは、サッカー部の坂田だった。

今の時間なら、学校で部活をしている時間だ。

予知夢どおりになるが、今は向かうしかない。

俺は部屋着のジャージのまま、急いで学校へと急いだ。


学校に到着すると、グラウンドから部活動に励む仲間の声が聞こえた。

グラウンドに足を進めると、顧問の河内(カワウチ)先生が俺に気づいた。

「おう、体調はよくなったか?ってかお前、ジャージじゃないか!学校に来るときは制服か学校用のジャージで来なきゃだめだろ。」


河内先生は、俺が落雷にあったとき、一番に駆け寄ってくれた優しい先生だ。


「すみません先生、急いでいたので着替えるの忘れてました。」


「急いでるって、何かあったのかよ。まぁいいけどさ。今日は部活見に来たのか?それとも一緒にやれるか?」


案外校則にゆるいところも、河内先生のいいところでもある。


「いや、今日は見に来ました。」


「そうか、あと10分もしないくらいで終わるから、ゆっくりしてきな!」


そう言うと先生は、職員室へと向かっていった。

グラウンドに出ると、サッカー部のみんなが試合をしているところだった。

坂田もフォワードとしてしっかり頑張っている。

自分のポジションであるセンターバックには、後輩の一年生が入っていた。

そうこうしていると、相手チームにボールが渡ってしまい、見事にシュートを決められてしまった。

原因はコミュニケーションがうまく取れなかったせいで、後輩がカバーリングをできてなかったことだ。

俺だったらそんなミスはしないだろう。

坂田が後輩のフォローをしているとき、俺と坂田は偶然目が合った。


「おーい、遥人―!」


俺を見つけたらしく、大きな声で叫んできた。

手を振って挨拶すると、にこににしながら後輩の背中をバシバシと叩いていた。


試合終了のホイッスルが鳴る。

結果、坂田があの後シュートを決めて、同点という結末を迎えた。


試合が終わると、サッカー部のみんなが俺のもとに集まってきた。

「遥人、ひさしぶりー!」

「無事退院できたんだな!」

「体調大丈夫だったか?」

「カミナリやばかったからな!」


「おいおい、そんな声かけたら困るだろ。」

みんながバラバラに声をかけてきたところを、坂田がうまい感じにまとめてくれた。

「で、今日の部活もう終わるけど、どうしたんだ?」


「明日、地震が起きるとしたらさ、どうする?」


「・・・は?」

やっぱりそういう反応になりますよね。

みんなの目が点状態だった。


「いや、だから明日地震が起きたらどうするかなと思ってさ。」


「そういうことな。」

「なるほど。」

「んー、やっぱり避難するんじゃね?」

「それな。」


「実はさ、明日大きな地震が起きるんだ。」


「・・・は?」

さっきと同じ反応だ。

でも、これは何としてでも信じさせないとやばいことになる。


「明日、本当に地震が起きるんだよ。」


「なにそれ。」

「いやいや、つまらんし。」


「実はカミナリが落ちてから予知夢を見るようになってさ、だから分かるんだよ!」


「なにその中二病設定、爆笑。」

「地震がきちゃう、恐いよー。」


「いや、本当に分かるんだって!」


「じゃあ今からジャンケンしようぜ!予知で分かるんだろ?」

「いいね、それ!やってみろよ!」


「いや、分かるのは地震がくることだけなんだよ!」


「なんだよ、その設定。」

「つまんねー。はい終了―。」


「俺は本当にお前らのことを心配して言ってるんだぞ?」


「分かった、分かった。地震ね、来たら信じるわ。」


だめだった。

こんなにも信じてもらえないとは思ってもいなかった。

正直、自分が言われたとしても信じないとは思う。

でも、まさかこんなに馬鹿にされるとは。

なんか腹が立ってきた。


「じゃあいいよ。本当に地震が来た時に後悔しろ!」


いらいらしてきた。

もうみんな地震で死ねばいい。

死んでから、公開すればいいんだ。

笑っている部員を背中に、俺は学校を出ることにした。


「まじであいつらに後悔させてやる。」


「おーい遥人、ちょっと待てよ!」


後ろから坂田の声が聞こえる。

でも、どうせあいつも信じてないんだろう。


「なぁ、遥人!」

後ろから走ってきた坂田に肩をつかまれた。


「なんだよ、お前も俺を馬鹿にしにきたのか?」


「違えよ、そういうわけじゃないって。俺は信じてる!」


「じゃあなんでさっき、何も言わなかったんだよ。」


「そりゃあの場面ではなかなか言えなかっただろう。」


「じゃあなんで信じられるんだ?」


「あの時言ってたデジャブってやつが関係してるんじゃないのか?あの時詳しく聞いてなかったから、調べたんだけどさ。あれって既視感って言って、予知と似てるんだろ。そのこと思い出してさ!」

坂田の優しさがすごく嬉しかった。

すっげえ笑顔でフォローしてくれる。もし俺が女だったら惚れてるくらいだ。


「あ、ありがと。」

にやけてしまう自分が恥ずかしい。

「で、とりあえずどうやって知らせるんだ?もっとたくさんの人を救うためにどうにかして告知する必要があるだろ?」


「うん。でも正直どうやっていいか分からない。何をしても信じてくれないだろうしさ。」


「あきらめんなよ。いったん帰るからさ、13時に駅前集合しようぜ!そこで作戦会議だ!」


「分かった。なら俺もいい案がないかもっと考えてみるよ。」


坂田のおかげで、だいぶ気持ちが落ち着いてきた。

あいつが居なかったら、確実にふて寝してるレベルにへこんでいた気がする。


坂田と一度別れて、俺も家に帰ることにした。

誰もいない家で昼飯にカップ麺を食べてから、少し早いが駅に向かった。


駅前では、路上ミュージシャンが歌を歌っていた。

ありきたりな歌詞で、自分たちの気持ちを伝えている姿に、俺らもこれくらいのことをしてでも地震のことを伝えなければと、焦る気持ちがわいてきた。

路上ミュージシャンが二曲目の演奏を終えたとき、坂田は来た。


「すまん、遅れた!」

「全然かまわないよ!とりあえずどうする?」

「そこの喫茶店で作戦会議でもしようぜ!」


珈琲の香りが広がる、静かな空間の中。

俺たち二人だけが異質を放っているような気がした。


「アイスコーヒーください!」

「え、坂田ってコーヒー飲めるの?!」

「いや、飲めないよ!でも、こういうとこでコーヒー飲めたら大人っぽくね?」

「たしかに!じゃあ俺もコーヒーで!」


明日には地震が来るっていうのに、くだらないことで盛り上がった。

正直、この時は明日なんてどうでもいいやと思っていたくらいだ。


「そういえばさ、何かいい案は浮かんだか?」

それでも、坂田は真剣に問題について考えていてくれた。


「いや、ぜんぜん思いつかない。」

「すっごい賭けなんだんだけどさ、テレビ局に電話してみないか?預言者だって言ってさ!」

「いや、でもいたずらだと思われないか?」

「そうなったら、そうなっただよ。うまくいけばテレビ中継とかして、全国に告知してくれるかもしんねえじゃん!」

「たしかにそうだな。で、どうやって電話するんだ?」

「そりゃあ、ネットで調べてさ!」


そこからは、スマホで二人してテレビ局の電話番号を調べまくった。

少しでも有名なテレビ局にしようということで、MHKとクジテレビにすることにした。


まずはMHKに電話をしてみることにした。


「はい、こちらMHKサービスセンターです。」

ホームページにあった電話番号にかけたところ、サービスセンターにつながってしまった。

さすがにここで何を言ってもうまくいくはずがない。

分かってはいても、やるしかない。


「明日、地震が起きるです。実は俺、予知夢が見られるんです。本当なんです!」


「申し訳ありませんが、そのようないたずらに対応しているヒマはございません。」


「いや、いたずらや嘘なんかじゃないんです。本当なんだって!」


「嘘だろうが、真実だろうがここでは対処しかねます。では、失礼します。」

一方的に通話が切られてしまった。

さすがに対応がきつすぎるだろ。


「まぁしょうがないさ。もしかしたら、同じようないたずら電話の対応を結構してるのかもしんないしさ。」

イライラが顔に出ていたのだろう。


「うん、ありがと。どうする?クジテレビにも電話するか?」

「まぁやってみるしかないでしょ。今度は俺がかけるわ。」

「でも、同じ結果になるんじゃ。」

「まぁ、俺に任せてみて!」


どうするのがベストだろうか迷っているうちに、坂田が動き出していた。

「はい、こちらはお客様問い合わせコールセンターでございます。お客様、いかがなさいましたでしょうか。」

「すみません、すごいニュースになるであろうネタを手に入れたんですけど、どなたかつないでもらえないでしょうか。」


「・・・、少々お待ちくださいませ。」


すると、保留音の音楽が流れ始めた。


「すごいな、坂田。よく冷静に電話できるな。」


「いや、ここからが問題だよ。いたずらだと思われたらいけないからな。」


話しているうちに、保留音が止まった。


「お待たせいたしました、担当の三田(ミタ)です。早速ですが要件を聞きたいのですが。」


「はい。実は友人が予知夢を見るようになったんです。で、明日大きな地震が起きるそうなんです。なんとかしてニュースか何かで告知できないでしょうか。」


「はっきり申し上げると、ニュース番組での宣伝は不可能です。テレビで放送するためには、ある程度話題になる必要があるからです。」


「・・・というと、話題に上がればテレビで報道してくれるということですか?」


「そこまで分かっていれば、もう説明する必要はないですね。がんばってください。」


「ありがとうございます。楽しみにしていてください。」


そこで、通話は切れた。

「四元、いい方法思いついたぞ!」

電話を終えた坂田は、嬉しそうな笑顔を俺に見せた。


「え、どういうこと?」


「とりあえず、Fwitterや弐チャンネルに投稿しまくるぞ!クジテレビが話題になったらニュースで取り扱ってくれるらしいから。」


「おお、まじか!でも、話題になるって結構きびしくないかな。」


「でも、今はやるしかないよ。いろんな方法で知らせてみようぜ。」


そこからは早かった。

お互いに自作自演を重ね、Fwitterや弐チャンネルへ投稿を続けた。

削除されたり、馬鹿にされたりと邪魔は多かったが、少しは広まったみたいだ。


いつの間にか日は沈みかけ、空にはオレンジ色の陽が広がった。

坂田は19時から塾があるということで、俺たちは解散することになった。

そして、お互いに明日の14時には気を付けようと約束した。


家に帰ると、お母さんが先に帰宅しており、夕飯の支度をしていた。

「あら、おかえり。どこ行ってたの?」


リビングに入ると、カレーのいい香りがした。


「ちょっと坂田と出かけてた。」


「そう、体調はどう?」


「うん、大丈夫。そういえば母さんって、明日の昼頃ってどこいる?」


「明日はお休みだから、家にいると思うわよ。どうして?」


「いや、単に聞きたかっただけだよ。」

良かった、お母さんは俺と一緒にいるから、多分大丈夫だ。

問題はお父さんだ。さすがに明日は平日だから仕事だろう。


「あ、そういえば回覧板が来てたんだった。ごめんけど、お隣の片山さんの家に渡してきてくれない?」


「わかったよ。」

そうだ、回覧板も使える!これを使って、近隣住民にも伝えなきゃ。


急いで明日の地震に関するプリントを用意し、回覧板の一番目に挟みこんだ。

玄関で靴を履こうとしていると、玄関が開きお父さんが帰ってきた。


「ただいま、どこか行くのか?」


「おかえり、回覧板を出してくるだけだよ!」


「お、じゃあ気をつけてな。」


外にでると、真っ暗な空には満月が昇っていた。

隣の家に回覧板を出しても、今からじゃ遅い。

なので、回覧板に挟んだものと同じものを、少しでも広めるために各家に届けに行くつもりだ。

変に遅くなると、両親に不安がられるので、急いで近所を回ることにした。



帰宅して、夕飯のカレーを食べているとき

何気なくテレビを見ていると、ニュースで地震予知について流れ始めた。

画面の中で、ニュースキャスターの女性が原稿を読み始めると、Fwitterや弐チャンネルに俺たちが投稿したものや、広がった情報が映像として流れ始めた。


「本日、昼過ぎごろからSNS上で突如地震を予知する話題が広まりました。はじめはFwitterへの投稿でしたが、弐チャンネルなどのWEB上でも広まった模様です。また、クジテレビ本局へは、預言者本人からの電話もありました。信憑性のない情報ですので、焦った行動に出ないようにしてください。では続いてのニュースです。・・・」


「こわいはねぇ。」

「まったく、くだらない冗談を報道する必要はないだろ。むやみに不安をあおるだけじゃないか。」

「でも、もしかしたら本当に地震が起きるかもしれないよ。」


さすがに信じてもらうことは難しかったかもしれないが、情報としてはたくさんの人の耳には入っただろう。



はたして、今日の夜はどんな夢をみるのだろうか。

緊張と不安。

ただ、少しだけ自分がヒーローになれた気がした。








「はるとー、そろそろ起きなさーい!もうお昼ご飯片付けちゃうよー!」

リビングから母親が呼んでいる。


「え、昼!?」

跳び起きて枕もとの時計をみると、まもなく13時になろうとしていた。

動悸が早まり、頭がくらくらする。

スマホを見ると、坂田から何回か連絡が入っていた。


急いで坂田に通話をかけると、すぐに着信に出てくれた。

「ごめん、寝てた!」

「お前、こんな時に爆睡してたのかよ!で、夢はどうだったんだ?」

「それが・・・夢を見なかったんだ。」

「え、見てないのか?」

「うん、なんでだろ。」

「もしかしたら、寝すぎて忘れちゃったとかじゃないのか?」

「そうかな・・・そうだな。今は考えてる余裕ないしな。」

「とりあえず、四元はこれからどうするんだ?」

「家で準備をするよ。たぶんどんなに頑張っても結果は変わらないからさ。今までの経験上そうなんだ。」

「おっけー。スマホの充電だけはしといてくれよ!俺は避難しとくからさ。んじゃ避難場所は学校な!」


通話を切ると、急いでリビングへと向かった。

リビングではお母さんがくつろいでいた。

「おはよう。」

「おはようって、もう昼よ。早くご飯食べちゃいなさいね。」

「ありがと。」

「じゃあ私は出かけるから、後片付けはしといてね!」

「え、もうすぐ地震が来るかもしれないんだよ。どこ行くの?」

「町内会の集まりがあるのよ!大丈夫よ、地震なんて起きないから!それに2時前には帰ってくるわよ。」


そうすると、母親は出かけてしまった。

昼食を食べて、リュックに避難に必要なものを詰め込んだ。

お金と着替え、ライトに布。

必要と思われる物をとことん準備していくと、リュックは3つにもなってしまった。



まもなく2時。

お母さんはまだ帰宅していない。


テレビから突然、けたたましい音が流れ始めた。

続いて、スマホからも通知が届き始めた。

緊急地震速報が、地震の予兆を知らせた。


じわじわと地面が揺れ始める。

揺れはだんだんと強くなっていき、立つのもやっとな程になってきた。


ついにきた。

荷物を持ち、家を出ると近所の方々も家から飛び出てきた。

お母さんに連絡しようと思いポケットを探ると、スマホがないことに気が付いた。

自分の部屋で充電をしたままだった。


急いで部屋へと戻り、スマホを取りに行くと

スマホにはお母さんから連絡が入っていた。


連絡があるということは、お母さんも無事ということ。

よかった。

そう思った瞬間、揺れが急激に強くなった。

立てなくなり、床にへたり込んでいると本棚が倒れてきた。







「・・・あれ。」

意識が戻ったときには、地震の揺れはおさまっていた。

本棚を押しのけて立ち上がると、頭に違和感を感じた。

「痛っ。」

痛みに気付き鏡を見ると、額には傷があった。

血は固まっているが、結構な出血をしたあとがそこから見て取れた。


そうか、本棚が倒れてきて気絶したんだ。

情報がほしい。

今、何が起きてどうなっているのか分からない。


そう思いテレビをつけると、凄惨な光景がそこから流れた。

家屋は倒れ、ところどころでは火災が生じ、道路には亀裂がはしっていた。

避難した人は家族を探し、自衛隊は救助のために災害現場を走り回っている。

「大変な状況です。先日の地震予知は真実でした。予知のおかげで、被害はだいぶおさまっています。ですが、まだ余裕をもってはいけません。どうかテレビを見ている皆さん、避難場所へと向かってください。いつもう一度地震が来るか分かりません。余震はまだ続いております。ぜひ避難をお願いします。」


自分の予知の影響がここまで残っていることが少し誇らしかった。


ポケットで、スマホの着信音が鳴った。

画面を見ると、坂田からの着信だった。


「おい大丈夫かよ!」

「ごめん、本棚が倒れてきて気絶してた。」

「おいおい、予知した本人がそんなんでどうするんだよ。今学校でお前のことが話題になってるんだぜ!早く来いよ!」

「わかった、すぐ向かうよ。」


家を出て、学校へと向かって走り出す。


俺のおかげでみんな助かった。

信用してなかったやつも、今だったら信じてくれる。

気分が高揚してきた。

走っている光景すら、ドラマチックに見えてくる。

足もどんどん速くなっている気がする。

俺が救ったんだ。

俺はヒーローだ・・・




ドサッ







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「昨日未明、一人の男性が道路に倒れて亡くなっている遺体が見つかりました。

この男性こそが、地震を予知した男性であると、この男性の友人が申しています。

しかしながら、被災後に預言者を名乗る人は大勢現れており、実際に本当の人物が誰なのかは分からない状況が続いております。」


電気屋のテレビからニュースキャスターの男性の声が聞こえてくる。

画面では被災地の光景が流れていた。



「いかがでしたか、今回の話は。」


猫っ毛な黒髪と、少しつり上がった瞳。

猫のような雰囲気をかもし出す少年がテレビの前に立っていた。


「あれ、話が長すぎて忘れてしまいましたか?(ツヅリ)ですよ、噺谷(ハナシヤ) (ツヅリ)です。」


「まぁいいです。また機会があればぜひ会いに来てください。」


少年は歩き出す。


「それでは。」


一度こちらを振り返ると、彼はどこかへ行ってしまった。

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