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雷様(人間)降臨

 前門の金髪、後門の赤髪。

 遠くへ遠くへと別館の4階まで走ってきた結果がこれ。ここで会った事があるのに、何故ここに来てしまったのか私は。馬鹿だ。幾ら行動範囲がトイレ教室図書室しかなくても、避けるべきだったよ。

 てか、不良が図書室ってのがおかしいんだよ!


 絶望と共に柊雷雅に捕まり、図書準備室に手を引かれていく。途中、赤髪が重々しい私の食料を持ってくれ、え? いい人? と光明が差す。

 入れられた図書準備室には、今度は群青色の頭をし人がこちらを睨んでくる。


「ライ、なんだよそいつ。ここに女入れんな」


 もっと言って!


「この子は良いの。救世主」

「は?」

「ああ! お前! やっぱりそうか! クワバラだろ? テんメェ何であの時嘘ついた、ああ!?」


 嘘はついていない。冤罪で赤髪の助けを借りられないのは困る!


「ちが」

「ちょっと? この子はクワバラじゃないよ。たまちゃん。珠のたまちゃんだよ」

「た、ま?」

「たまのたま?」


 何でここでそれ言うんだよ!

 また馬鹿にするのか?! 

 案の定、一人は爆笑し一人は肩を揺らして笑っている。

 ギッと睨むとにっこり笑っている柊雷雅。

 根性悪いコイツ! 


「たま、で、救世主ねぇ」

「でもよぉ、何でクワバラなんて言ってたんだ? 俺無駄骨じゃん」


 ガサガサしながら赤髪と群青髪が話す。


「この前すっごく助けられたから。それおまじないだよ。くわばらくわばらってあるでしょ? 教えてもらったの。ね~?」

「くわばらくわばらって……ババアがよく拝んでるやつか? なんだそれ?」

「……なんだっけ? 雷落ちないおまじないなんだよね? 説明お願い」


 ソファに座る柊雷雅の前に立たされ、説明を求めてくる。さっきから睨んでるのに少しも堪えない。クルッと赤髪達の方を向けさせられると、信じられないものを見た。


「お前なんで全部焼きそばパンなんだ」

「知らねーよ! 買ったの俺じゃねぇ!」


 私のパンを食べている。


「たまちゃん?」


 ……昨日から精神は追い詰められ空腹に全力疾走して、怖い所に連れてこられて名前を笑われ、ほぼ一日ぶりのご飯を食べられ、もう、私の心は折れた。

 ボッキリ折れた。


「ぅ……ぅうっ」

「た~ま?」


 逃げられないように掴まえられてた手を振り払う。


「こ、こないだっからなんなの? お前らほんといじやける……お前ら嫌い! 人ん名前笑えるほど偉いんか! このでれすけ共が! 殺るならさっさと殺ればいいべ! そん代ぁり死んだら呪ってやっかんな! ふぐっ?!」 


 いきなり手を引かれ急に絞められる。頭に何か擦り付けられて禿げそう。


「かわいい~!」


 意味不明な事に、柊雷雅が私を締め付けて、頭に頬擦りしている!?


「離せ! こん馬鹿がっ! お前らなんか嫌い! ひ、人のもん手ぇつけて! 返せ!」 


 拘束される腕から身を乗り出して、赤髪達を睨み付ける。


「え? これおまえの?」


 パンくわえたまま間抜け面してこちらに聞いてくる赤髪と、目を見開いたまま固まってる群青髪。


「返せ! 私のご飯なのに~! 昨日から何も食べてないのに、やっと買ったのに……ぅ、っ」

「食べてないの?」

「離せや!」


 未だに拘束される腕から逃れようともがいていたら、肩を掴まれ顔を柊雷雅が覗き込む。その顔は、怒っているようで怖い。

 もう死んでもいい覚悟で悪口言いまくったけど、やっぱり怖いものは怖い。


「たまちゃん、珠? 食べてないの?」

「っ、おま、えらが……盗ったんだべ……」


 ボロボロ涙が止まらない。怖いしお腹空いてるしコイツらあんぽんたんだし。


「お腹空いてるんだね?」

「そう言ってっぺな! も、もやだ、触んな腐る」

「腐らない。おい風雅、飯買ってこい。あと口つけてないやつこっち寄越せ」

「ああ? なんで俺なんだよ」

「たまのご飯食べたでしょ。大至急。早くイケ」

「っ、わーったよ! おら!」


 赤髪改め風雅とやらが、残り1個の焼きそばパンとお茶を投げて、出ていく。食べるの早いな?!


「龍生、飲みもん買ってこい」

「ああ? そこにあるだろうが」

「足りない。行けよ」

「……分かった。貸しな」

「早く行け」


 群青髪改め龍生も部屋を出ていく。

 え? 置いてかないで? しかし私のご飯は柊雷雅が握っている。あれを諦めて出ていくか、一か八か奪えるか考えてたらクイッと引っ張られソファにおろされた。


「たまちゃん、たまちゃん、ご飯食べな? 今風雅が追加買ってくるから」

「……」

「ごめんね? はいお茶」


 何がしたいの? ペットボトルの蓋を開けこちらに出してくるのを受け取ろうとすると、宙に手を掻く。


「何?」

「飲ませてあげるから」


 私は多分、黒いGとオケラに食いつかれた芋を見た時の顔をした。気持ち悪さと残念さ。


「そんな顔見るの初めて……」


 こちらこそ、そんなこと言う変な人は初めてだ。

 驚きつつこちらを観察してるような表情で、ペットボトルは渡してくれない。


「介助はいりません。返して下さい」


 最後の晩餐の気分で焼きそばパンを頬張り、お茶を引ったくって一気飲みする。

 さて、腹も膨れたので逃げようと思う。敵は3人から1人に減った訳だし。


「では失礼します」

「口調戻っちゃった……」


 戻っちゃったのではなく、これが普通なのである。ただ名前を言われるとどうにも、祖母ちゃんが降臨する。どうせあと2年、直さず帰ろうと思う。何故残念そうな表情をするのか、妙に腹立たしい。が、殺られる前に帰ろう。

 柊雷雅に背を向け準備室から出ようとすると制服の裾を掴まれる。


「どこ行くの?」

「授業ですが?」


 飯食ってはいさよならは出来なかったか。


「あの、私、友達もいないので、あなたがその、雷さ……カミナリが苦手だというのを誰にも話しません」


 自分で言ってちょっと悲しくなった。

 キョトンとした顔がこちらを見てる。一応先輩らしいので、頭を下げて出ていこうとするが、今度は手首を掴まれる。気安いな?! 


「友達、いないの?」


 心抉る一言をありがとうな!

 いるよ! 田舎に帰ればたくさんいるもん!


「この、学校には、です」


 見栄張って……いやいや本当に帰ればいるから見栄じゃない。


「じゃあ、友達になろう?」


 この時私は、多分、ジャガイモ掘ったらトマトが出てきた様な訝しげな顔をしたと思う。


「ね、友達になろう? 先ずは連絡先ね」


 そう言って携帯を出す柊雷雅の行動についていけない。嫌だ! こんなのと繋がり出来たら、監視されているようなものだ。あと2年平穏無事に生きていくのに、コイツの連絡先など必要ない! 寧ろ嫌!


「け、携帯、持って……ません」


 私は嘘をついた! 

 

「ふぅん?」


 手首からミシリと音を立てて強烈な痛みが出現。

 

「あぃっ!? いたたたた?!」

「嘘は駄目だよね?」

「あぃたたた?!」


 ぐきぐき手首を凄まじく捏ねられ、痛みが半端ない!


「ゆ、友人とはこんな強要されてなるものではない筈ですが! いてて」


 急に力が弱まり、しょんぼりし始めた柊雷雅を目にして、言葉が通じた! と結構失礼な衝撃を受けていた。


「そう、だよね……友達、なってくれないよね」

「えと」

「ただ、俺カミナ……雷様嫌いで、この前たまちゃんのお陰で凄く救われたから……」

「え、と」


 なんだろう。この私が悪い事したような気まずさは。おかしい。


「えっと……」

「また怖くなったら、助けて欲しくて、どうしても友達になりたかったんだ」

「え~と」


 困るな。この人得体の知れない雰囲気がして、底無し沼みたいな恐ろしさがあるんだよな。そんな不安を抱えて友達やってられるかな? ……やれないな。

 それに、まだ名前笑った事謝ってないし、本人からとてもあざとい印象がびしびし伝わってくる。私の第六感が警戒音を鳴らしている。

 でも、雷様キライは本当なんだよなぁ。


「わ、かりました」

「友達になってくれるの?」


 バッと顔を上げた満面の笑みが、私の勘が正しい事を告げている。


「いえ、友達は無理です。私、例えば真夜中に先輩が困っていても、なりふり構わず駆け付けられる気がしません」

「へ?」

「友達はそうでしょう? でも私先輩のために、その行動を起こそうという気が起きません」

「……」

「怒らせたなら申し訳ありません。これが今嘘偽りない私の純然たる本音です」


 大体、あざとく上目遣いしてくる人間は打算的で信用ならん(偏見)。無条件で信じられる友人になる前に、信用出来ない部分を見過ぎてしまった。だから、無理だ。言葉が通じるなら、口封じで殺られる前に説得を試みよう。


「ですが、雷様キライをサポートしましょう」

「へ?」

「雷様が、嫌い怖いは当たり前なんです。これは本能だと祖父ちゃんが言ってました。飼ってたジロも雷様を怖がります。何故か? 本能に刷り込まれているからです! 大昔、屋根も無く外で暮らしていた時代から続く、本能なのです! 雷様一発で死を連想。実際、そうなるからこそ! 生物全てが生きるための本能として、雷様を恐れ避ける! この地球に生物が生まれた時から続く当然の事なのです! だから、克服までは必要ありません。上手く付き合っていける方法を探しましょう。心の安寧のために共存していく、そのサポートを拙いながらも、私にさせて頂けますか?」

「……」

「あ、因みに祖父と私の私見です。ついでに私は進化途中で雷様への恐れをどっかに落としてきた異分子として、認識してください。雷様好きです。流石に打たれるのは勘弁ですが」

「……………………ふはっ……」


 ふは? 熱弁を奮っている間はアホ面だった柊先輩は、おかしな空気を漏らしたかと思ったら、下を向いて肩を揺らす。 

 なんだいなんだい、感動して泣くなんて可愛げがあるじゃないか。


「……ッフハハッ! ハハ、は、あーっははははははっ! はっぐっ、ゲホ、ゲホ、ゲホ! ふひっ、ひひひっくハハハ! アハ、あはははははっ!」


 前言撤回。このやろう。


「ぶふっ! くくくくくっ」

「ぐっ、ぅう」


 変な声が2つ後ろから聞こえる。

 振り返ると風雅・龍生と呼ばれる二人も爆笑していた。あ、うん。腹立つ。


「……サポートも必要ないようなので、これにて失礼させていただきます」


 一応頭を下げて扉に向かう。が、また手首を掴まれる。そこは貴様が痛めたところなんですが? 痛いんですが?

 焦った様な雰囲気でこちらを向く柊雷雅。


「ま、待って! 必要! 必要だから!」

「……どうでしょうか。サポートするためにあった気持ちが消し炭となって消えました。名前を笑われ、ご飯を盗られ暴力を振るわれ、真剣な提案をまた、笑われる。柊先輩をサポートしたいと思う気持ちが、完全に失せました。もう無理です」

「待って! 謝るから!」

「無理です。どうぞ? 殴っても良いですし、また手首に痛みを与えても構いません」


 バッと手を離す柊先輩。今頃気付いたか馬鹿め!


「では、失礼します」


 扉に向かい、そこに立つ二人を避けて出ていく。


「あ、おい!」

「いだっ!」


 風雅先輩がまた手首を掴む。だからそこ痛めた所! ああ~、殴られるのかな……。


「っと、わりぃ。これ」


 痛がると直ぐ手を離してくれて、代わりにデカイビニール袋を渡される。


「それ、買ってきたやつ」

「こんな、に?」


 パンたくさん、お菓子、ジュース等々喉から手が出るほどの代物。

 うわぁ……やっぱりいい人だぁ……。

 いかんいかん、コヤツも名前を笑いやがった輩だ。気を許すな!

 

「っ、あ~その、悪かったよ。名前、笑って。珠のような子って言葉もあるしよ。いい名前じゃん」

「っ?! ……っ、あんた、い~い人だぁ。ありがとなぁ」


 謝ってくれた! しかも意味もちゃんと知ってる! ちょっとウルッときてしまった。本当にいい人だ! 見かけで判断してごめんなさい!


「したっけこれでいいけ、ありがとう! ごっそさん!」


 パン3つ取って、後は返して図書室の扉へ走る。

 また呼び止める声が聞こえるけど、無視。

 焼きそばパンより高いパンを取ってやった! だけど少し遠慮して3つにしたのが、小心者な私だ。


 もう関わらない。図書室にも来ない。

 口封じの為に殺られるのはうやむやになった、と思うし、友達にもならない。

 私はひっそり平穏無事に生きていく。






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